071 ファレス商会
「まさか、キリク……お前、勇者も⁉︎それはある意味、お前も勇者だぞ」
「冗談はよせ。あれは明らかに疑いの目だろ」
「浮気をしてるんじゃないかと旦那を疑う嫁の目か?」
「……ザンダー」
「まあ、冗談だ。カリカリしてると肌に悪いぞ」
「やれやれ……」
「これぐらい許せよ。俺みたいなまともに戦えなくなった奴は、こういう馬鹿なことでもしてないとおかしくなっちまうからな」
「……前線が忘れられないか?」
「ああ、あの血湧き肉躍るあの戦い忘れられねえよ。俺は根っからの戦闘狂だったからな……」
「……また、前線に戻りたいのか?」
「……どうだろうな。……なあ、もし、キリクが俺みたいになっちまったらどうする?」
「……少しでも戦えるなら冒険者をやるだろうな」
「それは……前線に立てなくてもか?」
「ああ。後ろの方でもできる事を探すさ。まあ、戦えない状態であればギルド職員になるのも悪くないかもしれないな」
「そうか、じゃあ、俺の選択もあながち間違っちゃいねえか……」
ザンダーはそう言いながら頭をかくが、その表情は俺には晴れやかには見えなかった。
その後、ザンダーは冒険者ギルドの外に出るまで無言だったのだが去り際に俺に質問をしてきた。
「なあ、キリク。もし、ある事をしたら、またあの頃と同じ様に戦えるってわかったら、お前はそれをするか?」
「そんなの、ものによりけりだな」
「……他人を不幸にする事……なら、どうだ?」
「そこまでして、俺は戻りたいとは思わない」
「……そうか。変な質問して悪かったな」
「……いや」
「そんじゃあ、俺は残ってる連中の相手をしてくるぜ!」
そう言うとザンダーは手をひらひらさせながら冒険者ギルドの方に戻っていく。
そんなザンダーの後ろ姿を見て、俺は鏡に映る自分自身を見ている様な気がしたが、すぐに頭の中で否定する。
やれやれ。
……俺と違ってあいつは本当の英雄だろうが。
俺は軽く頭を振って気分をかえると、ファレス商会へと向かうのだった。
◇◇◇◇
「ここか」
目の前の看板にはナディアからもらった指輪に刻まれた紋章が描かれていた。
俺はその看板が掲げられているファレス商会に入ると、すぐに店の従業員が駆け寄ってきて挨拶してきた。
「ファレス商会へようこそ。お客様はこちらは初めてのようですが、何かお探しですか?もしここで見つからなくても、ものによってはご用意できる可能性がありますよ」
「すまないが客じゃないんだ」
俺はナディアにもらった指輪を見せるとすぐに従業員は理解して頭を下げる。
「これは失礼しました。では、応接室にご案内いたします」
従業員はそう言うと俺を応接室に案内してくれたので、出された飲み物を飲みながら待っているとナディアが入ってきた。
「キリクさん無事だったのね。いきなりあなたの顔が載った手配書が出たから驚いたわよ」
「ああ、あれには俺も驚いたよ」
「でも、あれはギネルバ商会がしたことだったんでしょ。こっちにも色々と情報が来てるわよ」
ナディアは俺に商会が得た情報を話してくれたのだが、あれから冒険者達によってあらかたギネルバ商会の関係者は捕まったとのことだった。
ただ、いまだに中心人物のタクロムとワーロイやケイはまだ捕まっておらず、引き続き捜索してるらしい。
俺もあれからあった事をナディアに話すと、かなり驚いていた。
「まさか、そんな事があったなんてね……。でも、マルーさんが冒険者ギルドにいて勇者パーティーに守られてるならもう安心ね」
「そうだな。ある意味、この大陸で最強の要塞の中にいる様なものだしな」
「やばいのに狙われてるってわかるけど、勇者パーティーに守ってもらえるなんてちょっと羨ましいわね」
「そうか?」
「そうよ。勇者パーティーに守ってもらったなんて末代まで語り継げるわよ。まあ、私はできればアレス様が良かったんだけどね。そうしたら守る側と守られる側の間に……はあっ」
ナディアは途中から虚空を見ながらうっとりしだす。
それを見た俺はなんだかむず痒くなったので話題を変えることにした。
「……ま、まあ、それよりも俺が渡した手紙だが、まだサリエラも白銀の騎士も来てないよな?」
「えっ、ええ」
「じゃあ、手紙は破棄をしておいてくれ。そ、れと、二人が来たら冒険者ギルドか近くの宿にいると伝えておいてくれないか?」
「わかったわ。ちなみにキリクさんはこれから何かするの?」
「ああ、買い出しや調べものだな」
「なら、うちのものを見ていってよ。助けられたお礼の件もあるから格安で売るわ」
「それはありがたい。遠慮なく甘えさせてもらおう」
それから、俺はファレス商会で携帯食や旅に使う道具などをこちらが驚くほど安い値段で購入させてもらったのだった。
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