058 旅立ち
サナエside
「……私ってバカね」
私は牢屋の中で地面の一点を見つめながら呟く。
その呟きは狭い牢屋の中という事もあり周りにも聞こえる程だったのだが、現在、この牢屋には私しかいなかったので誰にも聞こえていないはずである。
何故なら、今回一緒に行動した他の連中は全員奴隷の首輪を付けられてどこかへと連れてかれたからだった。
しかし、私には何故かいつまで経っても奴隷商は来なかったのだ。
アカエ大丈夫かな……。
沢山お金を先払いしてるから宿にはまだいられるだろうけど、もし発作が出て倒れたら……。
私は想像してしまい頭を抱えて蹲っていると、牢屋に誰かが入ってきて私の方に歩いてきた。
はあ、やっと来たわね。
でもアカエの事どうしよう……。
奴隷商が私なんかの言うこと聞いてくれるわけないし……。
あー!もしアカエが倒れてそのまま……そんなのやだよー‼︎
私は蹲りながら自分の頭を叩きまくっていると、牢屋の前にきた人物は鍵を開け、中に入ってくるなり優しく声を掛けてきた。
「お姉ちゃん、自分の頭をそんなに叩いたらダメよ」
「ふへっ⁉︎」
私は思わず変な声を上げてしまった。
なんせ、もう聞くことができないと思っていた声を聞いたからだ。
そして思わず顔を上げるとそこには、病的に痩せてはいるが元気そうな私の妹、アカエが立っていたのだ。
「あ、あ、あ、あーー⁉︎」
私は大口を開けながら言葉にならない声を上げ、アカエを指差してしまう。
するとアカエは呆れた表情で私を見て言った。
「お姉ちゃん、そんな変な顔してこっちを指差さないでよ」
「あ、アカエ⁉︎ま、まさか死んじゃったの⁉︎」
「死んでないわよ。もう……」
「で、でも、どうして?体調は?ここまで歩いて大丈夫なの⁉︎」
「うん、お薬を飲んだら凄く楽になったの」
「薬?まさかあの高い薬を⁉︎どういうこと⁉︎」
「違うわ。あのお薬は私の病気には対応してないってキリクさんが沢山作って渡してくれたのよ」
「キリク⁉︎ど、どうしてキリクがアカエを⁉︎」
「サリエラさんよ、あの人がキリクさんに話してくれたのよ」
「えっ……?」
私、アカエの事なんて……まさか私の精霊が……。
私は今は力を封じられている為、見えないが頭の上を見る。
「……ありがとうね。あなた達」
そう言った瞬間、頭の上を二つの光りが現れてくるくる回り出す。
それを見た私は涙が溢れ出て叫んだ。
「ひーん!ごめんなさい!私が馬鹿な事したばっかりにーー!」
「そうよ!お姉ちゃんは馬鹿よ!」
「ア、アガエェーー‼︎」
「でもね、私の為に馬鹿な事したんだから世界一の愛すべき馬鹿よ。お姉ちゃん、さあ出ましょう」
「ふえっ?」
「ラハウト伯爵様が私達を雇ってくれるって言ってくれたの」
「う、うそっ?どうして?」
「キリクさんとサリエラさんが私達をどこかで雇えないか話をしてくれたの。そうしたらちょうど人手が欲しいラハウト伯爵様が手をあげてくださったの。それでお姉ちゃんのした事は帳消しにしてくれるって」
「よ、良かっだあーー‼︎びえーん‼︎」
涙と鼻水でぐしゃぐしゃの私をアカエは抱きしめ頭を撫でてくる。
「よしよし、全くどっちがお姉ちゃんなのかしらね」
「だっでー!だっでー!」
「ふふふ。私まで涙が出てきちゃった。うっうっ……」
アカエもそう言って泣き出すと私達はお互いを強く抱きしめ合うのだった。
◇◇◇◇
俺とサリエラは牢屋の入り口から二人の様子を見ていたのだが、問題なさそうだったので外に出る事にした。
「良いのか、サリエラ、行かなくて?」
「良いんです……二人の邪魔をするのはやぼですよ……ぐすん」
「まあ、そうだな。なら、この辺で良いだろう。俺はもう行くぞ」
「うー、キリクさん!ちゃんと待ってて下さいね!」
サリエラは俺の腕を掴み泣き顔で俺を見てくる。
おかげで牢屋を守ってる看守連中に睨まれてしまった。
「……ああ、待ち合わせは王都スノールのファレス商会でいいんだろ」
「はい、さっさとレオスハルト王国に行って報告してから戻ってきます」
サリエラはレオスハルト王国に半分雇われてるようなものなので、今回の件を報告しに行かなければならないのだ。
「まあ、指定した日までに来なかったら置いてくからな。後、俺が教えた回復薬とかを作れるようにしとけよ」
「わかってます!じゃあ、行ってきますね」
サリエラはそう言うと勢いよく走っていってしまった。
全く、強引なやつだな。
サリエラに濁しながらも用ができて西に行くと行ったら、這いずってもついて来ると言い、俺の腰に抱きついて離れなかったのだ。
さてと、サリエラも行ったし久しぶりの一人旅だな。
道中はゆっくりできそうだ。
俺はそう思いながら、ノースハウトを出たのだが、すぐに待ち伏せしていたナディアに捕まってしまったのだった。
◇◇◇◇
その頃、マルシュの酒場で三人の男女がテーブルを囲んで話をしていた。
「あの加護無し嘘つき野郎は絶対に許さねえ……」
「そうよ、絶対痛い目に合わせてやる」
男と女は拳を握りしめてテーブルを叩く。
そんな二人の様子を商人の格好をした糸目の男が同じ席に座り、嬉しそうに見つめている。
そんな男の視線に気づいた男は糸目の男を睨んだ。
「おい、タクロム、間違いなくあいつをやっても、冒険者ギルドにバレないようにしてくれんだろうな?」
「もちろんですよ。あなた達が誰を殺そうとも誰にもバレませんからね。その代わり私の頼みも聞いて下さいね」
「へっへっへ!わかってるよ。ターゲットの捕獲とこのネックレスを使えば良いんだろ?しかし、こいつだが付けるだけで力が強くなるなんて凄えな」
「これを付ければ私の魔法も最強よ。うふふ」
二人の男女は首から黒い宝石が付いたネックレスを出し眺める。
「気に入って頂けて良かったですよ。さて、運が良い事にあなたと私が狙っているターゲット達が王都スノールがある方面に向かったみたいですから、そろそろ追いましょう。ちなみにここの支払いは私がしときますね」
「ふん、当たり前だろ。よし、行くぞケイ!」
「ええ、ワーロイ!」
ワーロイとケイは醜悪な笑みを浮かべて酒場を飛び出して行った。
そんな彼らの姿を見てギネルバ商会の商人タクロムは嬉しそうに見つめる。
いやあ、良いものを拾えて良かったです。
お二人さん、もっともっと負の力を沢山高めて下さいねえ。
「ほほほ」
タクロムは笑いながらテーブルに多めの金額を置くと、二人の待つ馬車に歩いて行くのであった。
一章完
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