053 過去編1 聖オルレリウス歴354X年九ノ月
「これでこちらと精霊界は繋がった。ラハウト伯爵、後はここの管理を頼んだぞ」
「わかりました、白銀の騎士様」
ラハウト伯爵は白銀の騎士に恭しく頭を下げるが、それを見ていたサリエラが首を傾げる。
「キリクさん、ラハウト伯爵が頭を下げるって、あの仮面をした人は誰なんでしょうか?」
そう言ってサリエラは俺を見てくるが、もう、俺にその質問を答える余裕はなかった。
それは身体中に霊薬の副作用が出てきており、現在、激痛に襲われて立っているのが精一杯だったからだ。
……久しぶりに霊薬はやはりきついな。
意識を保っていられるのもここまでか……。
視界がぼやけて平衡感覚もわからなくなってきた俺はおそらく一瞬、気を失ったのだろう。
いつの間にか俺は倒れており、焦った表情のサリエラに覗き込まれていた。
そしてサリエラは何か言ってきていたのだが、頭がボーっとしている俺には理解する事ができず、そのまま完全に意識が途絶えてしまったのだった。
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聖オルレリウス歴354X年九ノ月
ネイダール大陸西側のオルフェリア王国にて
西側の高い山脈と広大な森に囲まれたオルフェリア王国領は、小さな領土だが魔物や魔族の侵入もない平和な場所である。
俺は今日も朝早くから木の上で本を読みながらのんびり過ごしていていると、下の方から幼い少女の声が聞こえてきた。
「キール兄様どこにいるの?」
その声を聞き俺はすぐに誰が俺を呼んでいるかわかってしまう。
アリシアか。
少し離れた場所で母親と似た金色のふわふわの髪をなびかせ、俺を必死に探す小さなハーフエルフの妹を眺める。
もう、あいつも七才になるのか。
俺はそう思いながら、拾ったドングリを見て嬉しそうにしているアリシアを見て思いだす。
そうだ、例のものをそろそろやり始めないとな。
なんせ、納得がいくものができるのに時間がかかるだろうし……。
でも、その前に俺の小遣いで足りるか調べないとか……。
全く、美人の姉に可愛い妹を持つと大変だな。
俺はそう思い、読んでいた本を閉じると木の上から飛び降りてアリシアの方に歩いていく。
すると俺を見つけたアリシアは勢いよく俺に飛びついてきた。
「もう、どこにいってたの!また、どこかの木の上にいたんでしょ!」
「はは、我が妹は何でもお見通しだな。今日も平和に木の上で読書だよ」
「キール兄様も、少しはバロン兄様達みたいに剣のお稽古をしたらどうなの?」
「こんな平和な場所で剣の稽古なんてしたくないよ。それにそういうのは騎士団に任せれば良いんだよ」
「ほんと、本の虫は何言ってもダメね」
「おいおい、ライラ姉様の口癖がついに我が妹にも……世も末だな」
俺はオーバーに手を広げ、悲しそうな表情をして頭を振るとアリシアはお腹を抱えて笑う。
「ふふふ、それ、最近来た劇の人達の真似?」
「似てただろ」
「うん!」
「それは頑張って練習したかいがあった。ところでまた誰かに俺を探すように言われたのか?」
「バロン兄様よ。なんだか約束を破ったから連れて来いって」
「あちゃあ、そういえば稽古の約束をしてた気が……。仕方ない行こうか」
「うん!」
アリシアは元気良く頷くと俺の手を握ってきたので、そのまま俺達は中庭の稽古場まで一緒に歩いていった。
「皆んなやってるなあ」
稽古場では既に沢山の子供が木剣を一心不乱に振っており、俺は稽古なんて面倒だなあと思いながら眺めていると、突然、後ろから襟首を掴まれ猫みたいに持ち上げられてしまう。
普通、そんな事をされたら怒るだろうが俺はしない。
何故なら、やった相手がわかっているからだ。
そして、その相手は赤毛を短髪にし、一回り年が離れた俺の腹違いの兄上、人族のバロン第一王子である。
案の定、バロン兄様は相変わらずの怒り口調で言ってくる。
まあ、怒っているのは俺が約束をしょっちゅう破るからなんだが……。
「キール、お前は俺との約束はどうしたんだ」
「ははは……」
「はははじゃない。全くお前は自分の立場を理解しろ!」
「いやいや、俺は脳筋のバロン兄様を補佐する役目として日々勉学をしているのですよ」
「誰が脳筋だ!」
「あいたっ!片手で俺を掴みながらもう片方で殴れる力がある時点で脳筋なんですよ」
「はあ……全く、お前は何を言っても響かないな」
バロン兄様は呆れた口調でそう言うと、掴んでいた襟首を突然離した為、受け身を取れなかった俺は尻を打ってしまった。
「いたたたっ……」
「ふん、ちゃんと稽古をしてればそんな事にはならないんだぞ。全く、お前はしっかり稽古すれば良い線いくと思うんだけどなあ」
バロン兄様はそう言いながら残念なものを見る目で俺を見てくる。
「良い線いっても戦う相手がいなければしょうがないでしょ」
「何言ってるんだ。いつ何が起こるかわからないんだぞ」
「まあ、そうなんですけど……」
「なら、明日からは稽古に参加しろよ」
「……わかりました」
俺がそう答えると、バロン兄様は絶対わかってないだろうという表情をして去っていった。
まあ、これでサボったのは十回目だからしょうがないわけだけど。
「はあ、嵐がやっと去った」
俺は服に付いたホコリを払っていると、アリシアが抱きついてくる。
「可愛いそうなキール兄様、私が側にいてあげるわね」
「はいはい、何かしらにつけてすぐにくっついてくる癖は直そうな。もうすぐ七才になるんだぞ」
俺はアリシアの髪を撫でた後、その尖った耳を弄るとくすぐったそうな表情をして余計にアリシアは抱きついてきた。
その時、一人の金髪の青い目をした少年が俺達の方に歩いてくる。
こいつは俺と同じで、見た目は人族に見えるハーフエルフの幼馴染みのアレスである。
「また、絞られてたね。キール第二王子」
「見てたら助けてくれよ。アレス」
「はは、それはサボってる君が悪いからね。僕はバロン第一王子の味方さ」
「裏切り者め……」
そう言いながら俺は拳を突き出すと、アレスも拳を突き出し当てあって二人して笑うのだった。
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