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005 襲われたレクタル

「バン!」


 村長は顔を真っ青にしながらも更に詰め寄ろうとしたので肩を掴んで止める。


「キリクさん、止めないで下さい」


「いや、もしかしたら町で犯罪をして逃げてきたかもしれない。近づかない方がいい」


 俺がそう言うとバンは不敵な笑みを浮かべながら俺達を見てきた。


「くくくっ、レクタルで今、何が起きているか知らない連中はお気楽で良いよな」


「……レクタルがどうした?」


「あそこはな、今……」


「うがががああああっ‼︎」


 バンが喋っている最中、突然、後ろにいたバンの仲間の男が叫びだして隣にいた仲間の女の首筋に噛み付いた。


「ぎゃあぁーーーーー‼︎」


「な、なんだ⁉︎」


 突然の事にバンや村人達は驚き、呆然としながらその光景を見ていると、男が噛み付いた女の首筋を噛みちぎり、ゆっくりと噛み切った肉を咀嚼し飲み込んだ。

 そして、首筋から血を流しながら動かなくなった女を投げ捨てると、ゆっくりとこちらに四人の様な顔を向けて笑ったのだ。

 そんな男の顔を見て俺は呟いた。


「グールか……」


 グールは生前の人の強さに影響するので、強い個体ではゴールド級ランクの力がないと倒せない死霊系の魔物である。

 更にグールに噛まれたまま放置をすると毒がまわり、死んだ後はグールとして蘇り、また人を襲って仲間を増やしていくのだ。

 グールは仲間を増やそうと近くにいたバンの方に歩いて行く。

 するとバンは震え出し村に逃げてこようとした。

 しかし、足がもつれて倒れてしまい恐怖の顔を浮かべながら、村長達に手を伸ばしてきた。

 

「た、助けてくれえぇーー‼︎」


 だが、村長や村人達も恐怖の顔を浮かべて固まってしまっている為、バンは今度は俺に涙と涎まみれにした顔を向けてくる。


 やれやれ……。


 俺は仕方なくバンの腕を掴んで適当な場所に放り投げると、男から村長達をかばうように立ち、後衛の格好とブロンズ級の腕輪を見てグールの強さを理解する。


 あれなら俺でも倒せるか。


 俺はポーチから対死霊薬を取り出すとナイフに塗り、グールに向かっていく。

 するとグールは俺に気づき大口を開けて襲ってきた。

 しかし、元が後衛ということもあり、動きが鈍く、あっさり心臓部にナイフを突き立てると倒れてすぐに動かなくなった。


 まあ、こんなものか。


 俺は更に倒れて死んでいる女にも同じ様に対死霊薬を塗ったナイフを突き立てる。

 これはグールに噛まれたり、殺された者は時間が経つとグール化が始まるからだ。

 とりあえず後処理もあったがそれも含めて今後のことを説明しに村長の方に歩いていくと、村人達から歓声が上がった。


「「「やったああぁっーーー‼︎」」」


「キリクさん、ありがとうございます!」


「いや、まだ、あの死体を燃やして村にああいうのが入りにくいようにしておかないとな」


「えっ、そんな事までして頂けるのですか⁉︎」


「寝場所を提供してくれた礼だ。それより……」


 涙と鼻水でぐしゃぐしゃになっているバンを見る。


「レクタルで何があった?」


「あ、ああ、酒場で酒を飲んでいた時に突然、町中に死霊系の魔物が沢山現れたんだ。それで最初は俺達も戦ったんだが仲間がやられて……」


「それで逃げてきたのか。あの男は死霊系の魔物に傷を負わされたのか?」


「わからない……。ただ、傷を負っていたのは確かだ」


「やれやれ、死霊系と戦って傷を負ったらすぐに呪いなどかかってないか調べるだろう」


「そ、それは仕方ないだろ!あんな事があってパニックになったんだ!」


「パニック?お前は冒険者だろう?」


「うるさい!お前に何がわかる!」


「お前が仲間の状態に気付かず、グール化した仲間の前で腰を抜かした事だけはわかるぞ」


「うっ……。仕方ないだろ」


「お前、そんな事してるといつか死ぬぞ」


 俺の言葉にバンは一瞬目を見開いた後、がっくりと項垂れる。

 そんなバンを一瞥した後、俺はグール化した男と殺された女の死体を村から離れた場所に運んで燃やし、その後、灰を集めて聖水と対死霊薬を染み込ませた四枚の布に分けて包むと村の四隅に埋めておいた。

 これは死霊系の魔物を寄り付かせない簡易の結界にもなるのだ。


「後は、一カ月に一回でいいから埋めた場所に聖水をかければ半年程は持続効果はある。聖水なら安く買えるから大丈夫だろう?」


「はい、村に数本ございますので大丈夫です」


「それとレクタルから魔物が来るかもしれないから、避難場所も用意した方が良いが……」


「ブランシュはどうでしょう。他の息子や知り合いの店もありますから倉庫を借りるなどをすれば」


「なるほど、それなら大丈夫だろ」


「はい、何から何まで本当にありがとうございました。もし良ければ、もう一日ゆっくりしていかれたらどうですか?」


 村長の言葉に俺は急いでるわけでもなかったので、その言葉に甘えることにした。


「じゃあ、そうさせてもらうよ」


 俺は村長に軽く頭を下げ、空き家に戻ろうとした時、また村の入り口に四人組の冒険者達が駆け込んできた。


「……またですか」


 村長が溜め息を吐きながら彼らの方に歩いていったので、またトラブルにならない様に俺も付いていく。


「……どうされましたかな?」


「すまない、自分達は冒険者をしている者で、自分はこのパーティー、鉄獅子のリーダーをしているランドという」


 重鎧を着た真面目そうなランドと名乗った男は、手首にはめてある冒険者ギルドの印が入ったミスリルの腕輪を見せる。

 そんなランドの丁寧な口調に村長は姿勢を正し渋い表情ではなく笑顔になる。


「もしかして、レクタルから逃げて来られたのですかな?」


「不甲斐ないがそうだ。何故それを?」


 ランドは驚いて村長を見たが、すぐに俺に気づき納得した表情になる。

 そんなランドに俺は違うと否定するのも面倒なので黙っておく事にした。


「それで、この村に何かご用でしょうか?」


「すまないが仲間を休ませたいので空き家があれば貸してもらえないだろか?」


「残念ながら、今はありません」


 村長の言葉にランドは俺を見るが、すぐに村長に目線を戻した。


「では、村の者達の邪魔をしない様に端でテントを張るので、少し休ませて頂いても良いだろうか?」


「それはもちろん構いませんよ」


「感謝する」


 ランドは村長に頭を下げると早速、仲間の元にいきテント作り始めたのだが、それを見ていた村長は俺を見て苦笑いをした。


「誰かにあの方の爪の垢を煎じて飲ませたいですよ……」


 俺は村の隅で座りこんでいるバンを見る。


「息子はどうする?なんなら俺は野宿でも構わないぞ」


「あれはもうこの村にいてはいけない者なので大丈夫です。キリクさんは空き家で好きなだけゆっくりして下さい」


 村長はそう言って笑顔で頭を下げると家に戻っていった。


 爪の垢か。

 なら、一番は村長のを飲ませるのが一番だろうな。


 俺はそう思いながらバンを一瞥した後、空き家へと戻るのだった。


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