047 女の戦い
俺はそれ以上、聞いても無駄だろうと判断してラハウトを見て頷く。
「よくわかった」
「では続きを話そう。午後辺りにこの町から精霊王ケーエルの神殿に勤務する者達を馬車に乗せて運ぶのでよろしくね。ちなみに彼らは引退した冒険者達だから、クランと同じように護衛としては戦力にはならないよ」
「ちっ、そんな使えねえクソ野郎共をなんで雇うんだよ。俺みたいな使える人間を雇った方が良いぜ!」
「君はドナテロだったね。君もいつか使えないクソ野郎に成り下がるだろうから、それまでにはわかるだろう。まあ、彼らの年まで無事生きてたらだがな」
「くっ!」
「それじゃあ話は終わりだ。地図などを渡すから町に出て好きな時間に好きな方法で神殿に向かってくれ」
ラハウトはそう言うと執事と共にさっさと広間を出て行ってしまった。
「キリクさん、私達もとりあえず町に出ましょう。変な人達が寄り付く前に!」
そう言って鬼気迫る表情で迫ってくるサリエラに俺はただ頷くことしかできず、腕を掴まれると町の人気がない場所に連れていかれた。
「ここなら大丈夫そうですね」
「……ああ」
俺達は早速、用意したこの近辺の地図を見てみる。
ノースハウトの町から精霊王ケーエルの神殿まで行くルートを調べると、どうやら思っていた以上の広さがあることがわかった。
「街道を中心に左側に森と山、そして右側に森と山とだいたい五ルートある感じですね」
「五ルートでもこの広さなら魔王信者も全員は狙いにくいだろうな。話しを聞いてて懐疑的な部分もあったがこれを見たら納得できるな」
「こんな大胆な案を考えつくなんてラハウト伯爵って凄いですね」
「三人も精霊使いを殺されたんだから、相当、頭を捻ったんだろう」
「じゃあ、ルートを決めて町を出る時間を決めましょう」
それから、俺達は話し合いをして右側の森のルートから入り進んでいたのだが、しばらくして町から付いてきていた気配が俺達との距離を縮めてきていることがわかった。
「キリクさん、誰か来ます!」
「もう接触する距離だから待ってみるか」
「わかりました。でも一人ですか……ってあれって……」
サリエラは何故か、頬を膨らましながら俺に素早く駆け寄ってくると密着してきた。
「サリエラ、何やってんだ?」
「理解させないとダメなんです」
「何を言ってるんだ?」
全くこのタイミングでこいつは何を考えてるんだ。
俺はサリエラに注意しようとしたのだが、どうやら到着の方が早かったらしく、サナエが満面の笑みを浮かべながら俺達の前に現れてしまう。
「やっほー!キリク、会いたかったわー!」
「なんで、あなたが来るんですか!違うルートに行って下さいよ!」
「はあ?私が選んだルートにたまたまキリクがいたんじゃない。伯爵だって好きにやって良いって言ってたでしょう。あ、その無駄に長い耳は飾りものね。ごめんごめん」
「むー!キリクさん!あんな人、ほっといて行きましょう!」
「いや、ほっとくわけにはいかないな」
「えっ?な、なんでですか⁉︎まさかああいう人が好みなんですか……」
サリエラが泣きそうな表情になった為、サリエラのおでこにデコピンをする。
「違う、敵だ」
「ふえっ?」
「サリエラ、剣を抜け」
「は、はい!」
「えー、どういうことよ。キリクー、私は敵じゃないわよ」
サナエは、俺達が剣を抜くと一歩距離をおきながら笑顔で両手を振って敵じゃないとアピールしてくる。
「屋敷からずっと俺達を見てただろう」
「それは、キリクと仲良くなりたかったのよー」
「それじゃあ、なぜドナテロが精霊使いじゃない事に気づかなかった?精霊使いなら気づくはずだろう」
「面倒だから気づかないフリをしてただけよ」
「なるほど、また右耳が動いたということは今の言葉も嘘か」
「なっ!」
サナエは急いで自分の右耳に手を持っていこうとしてハッとなる。
「……キリク、あなた騙したわね」
「悪いな、適当に言ったことが当たったらしい」
まあ、本当は目線を見たんだがな。
サナエは右利きだから嘘を言うと右上を見るのでそれで判断したのだ。
「ふふふ、これは参ったわね。不意を突いて二人の動きを封じようと思ったのに……。怪我させちゃうかもだけど真正面からやるしかないね」
「殺す気はないってことか」
「そうよー。私、殺し屋じゃないもん」
「誰に雇われた?」
「言えないわよー。まあ、ある商会に大金で雇われたってのは教えてあげる。アダマンタイト級冒険者サリエラの足止めをしろってね」
「足止めか……」
「サナエさん、残念ですがミスリル級のあなたには無理ですよ」
「ふふふ、それならおあいにく様、私も実力ではアダマンタイト級よ」
サナエはそう言うと両手に三本の鋭い爪が付いた手甲を装備した。
サナエは近接格闘型か。
しかし、足止めか……。
……時間稼ぎが成功すればサリエラが神殿に行こうが無駄ということ。
つまりは神殿の方でも何か起きる……。
または既に起きているということか。
ラハウト伯爵もおそらく何かしら対応策は考えているだろうが、見に行った方がいいか。
「サリエラ、悪いがここを任せていいか?」
「はい。大丈夫です」
「えー、キリクも一緒に遊ぼうよ」
「サナエ、お前が足止めしたいのはサリエラだろう。俺が混ざると足止めはできないし死人がでるぞ……」
「……それは困るわねー。じゃあ、私はこの虫ちゃんを相手にするわ」
「誰が虫ですか!キリクさん、さっさと行ってください。ここからは女の戦いです!」
「あ、ああ。わかった。じゃあ、頼むぞ」
「はい」
「キリク、頑張ってねー!」
何故か俺はサリエラだけじゃなく、サナエにまで手を振られながら神殿の方に向かって走りだすのだった。
◇
サリエラside
キリクさんが去った後、私とサナエさんは真剣な表情になり睨み合っていた。
私はどうしても目の前の人物に言いたかった事がある為、口を開いた。
「……あなた精霊使いですよね。なんで魔王信者の仲間になったんですか?」
私がそう聞くと、サナエさんは口元を歪めながら私を見て答える。
「仲間?違うわよ。さっきも言ったけど私はある商会に大金で雇われただけよ」
「お金で雇われようが、私達の邪魔をするなら魔王信者と同類ですよ」
私がそう言うとサナエさんは憎悪のこもった瞳で私を睨む。
「まあ、なんとでも言えばいいわ。けどね、もらった分は仕事をしっかりしなきゃいけないの。それに……私にとって精霊王も魔王も何もしてくれないクソよ。ならお金をくれる方につくのが道理でしょう‼︎」
「サナエさん……あなたに何が……」
「うっさい!あんたみたいなお金に困った事がなさそうなお嬢様には私達の気持ちなんかわかんないのよ‼︎」
サナエさんはそう叫ぶと、四つん這いになり獣のような動きで私に向かってきた。
そんなサナエさんを見て私は何か事情があると確信する。
「なら、やることは一つね……」
私はそう呟くとサナエさんに剣を向けるのだった。
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