044 現実逃避ではなく考察
「ははは!さすがキリクさん只者じゃないわね」
「さすがじゃないですよ!酷いですよー。乙女のおでこにデコピンなんて」
あれからナディアと合流した後、俺達は町の酒場に向かったのだが、料理も揃い酒も進んでくるとサリエラが愚痴り出したのだ。
「軽くやっただろ。それに、しけた表情するお前が悪い」
「そ、そうですけど……もう、キリクさんの意地悪‼︎」
サリエラは頬を膨らませて俺を睨むが全く怖くない。
それどころか周りの客共はニヤつきながら鼻の下を伸ばしてサリエラを見てくる。
「まあまあ、サリエラさんそんな可愛い顔しないで。周りのバカが寄ってくるから痴話喧嘩はそれくらいにしましょうね」
ナディアはそう言うと、近くにいたドワーフの女吟遊詩人に銅貨を数枚渡す。
「勇者アレスの英雄譚。十章全部ね」
「はい〜」
「十章を聞いてまずは気分を上げましょう」
「はい‼︎」
二人は既にできあがってる様で何度も木のジョッキをぶつけあっている。
やれやれ……。
ここにもあるのか……。
勇者アレスの英雄譚、十章は北の魔王を倒す最終話である。
一節目では魔王のダンジョン出発前に仲間とのやり取りで絆を深め、二節目では仲間が傷つきながらも、北の魔王を倒すところまでやり、三節目の最後はスノール王国の王都に凱旋し、名セリフを言った後、美しい女性達に囲まれ大団円で終わるのだ。
しかし、実際の俺は医療施設のベッドの上で寝ており、凱旋パレードはスノール王国が用意した影武者がやったのだ。
それに、美しい女性達どころかベッド周りは誰も入れないようにしてもらっていた為、ボッチというオチだった。
全く、どれだけの連中がこの話を信じてるんだろうな。
サリエラ達を見ると吟遊詩人の歌声に聴き入っており、戦いのところでは皆んなで高いテンションで声出しまでしており、酒場内で低いテンションでいるのは俺ぐらいしかいなかった。
「はあ、楽しかったわね」
「はい。やっぱり我らがアレス様ですね‼︎」
「あの名セリフはいつ聞いても盛り上がるわね。皆んなで叫んじゃったもんね」
俺は叫んでないからな。
「この世界に魔王がいる限り、俺は剣を振い続ける!それは俺が勇者アレスだからだ‼︎ですよね!」
そんな事は言った記憶はない。
「さてと、気分も高まったところでまずはこれが今回の報酬ね」
ナディアはそう言うと、サリエラに護衛料が入った袋を渡す。
「ありがとうございます。ところでナディアさん達はこれからどうされるんですか?」
「それなんだけど……」
ナディアは周りをチラッと見てから俺達に顔を寄せて小声で喋りだした。
「詳しくは言えないけど、私達ファレス商会は引き続きノースハウスト家の仕事をすることになってるの。だから二人共、もしかしたら仕事中会うかもしれないからよろしくね」
ナディアはそう言って俺達にウィンクするとワインを飲みはじめる。
そんなナディアを見て俺はある考えが浮かんだが言葉にするのはやめておいた。
それから俺達は酒の場を楽しんだ後にラハウト伯爵の屋敷に戻った。
戻ったのだが……。
「うーん、アレス様ー」
「またこれか……」
現在、サリエラは俺に抱きつき俺の耳を噛んでいる。
なんとか頑張って抵抗をしたが無理だった為、先程、諦めたところだ。
その為、俺は現実逃避ではなく今回サリエラが受けている依頼について考えることにしたのだ。
まずは魔王信者についてだ。
こいつらは精霊王ケーエルを降ろすことを阻止しようと動いている。
だが、おそらく別にも何か目的があるはずで、裏には東側の魔王が噛んでるはずなのだ。
これについては、明日にでもテドラスの現在の動向を調べた方がいいだろう。
次にドナテロだ。
サリエラが言っていたが、ドナテロには精霊のいる気配がしないとのことだ。
これに関しては精霊使い達が揃った時にサリエラが確認するから任せよう。
それとナディアだ。
彼女の周りに精霊がいたとのことだが、これはそこまでは問題はない。
普通、人には精霊が寄り付かないものだが、中には精霊に愛される者もいる。
問題は精霊使いであるサリエラや、サリエラに付いてる精霊が話しかけても答えなかったことだ。
これは普通のことではないだろう。
そして、ナディアは引き続きノースハウスト家の仕事をするらしい。
俺達にそれを知らせて来たことや、今までの事から考えると敵ではないのかもしれない。
だが、仲良くなってきたところで隙をついて命を狙ってくる場合もある。
まあ、ナディアの場合は俺の考えが合ってればおそらく問題ないだろうがな。
それよりもだ。
「アレス様ー、ペロペロ」
サリエラは現在、俺の横顔を舐め回している。
こいつはいったいどういう夢を見ているんだ……。
「えへへっ、あまーい、ペロペロ」
俺は溜め息を吐きながら、サリエラの舐め回し攻撃が終わるまで耐えるのだった。
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