040 アレス信者
上手くいったな。
俺達は旅に出る前に色々と話し合っていたのだ。
なんせ、ランクの低い俺がサリエラに冒険者の基本を教えてるなんて話したら、絶対に変な目で見られるからだ。
それに、もし俺の隠し事がバレたら面倒になる。
それなら、俺がサリエラの弟子であり、物運びであると言う方が誰も疑うことがないのだ。
まあ、ポーターとして登録するぎりぎりまでサリエラは渋ったが、今は表情に出てないようで良かった。
そんな事を考えていたら離れた位置から複数の気配を感じ、俺は周囲を見回すと岩場と丘に隠れてこちらを伺っている連中が見えた。
岩場に十、丘に二十か。
賊にしては多いな。
隣りにいたサリエラも気づいたのか立ち上がり、周りを見るとナディア達に向かって叫んだ。
「敵です!あの先の岩場と丘に隠れています‼︎」
「なんですって⁉︎」
「おい!お前達行くぞ!」
商隊長グエンの掛け声と共に、商隊が馬車を囲うように守りだすと、賊達が岩場と丘から飛び出してこちらに向かってきた。
「……あの数は前回より多いわね。でも、今回、こちらにはアダマンタイト級冒険者がいるのよ」
ナディアはサリエラの方を見て笑みを浮かべると、それに応えるようにサリエラは力強く頷いた。
「安心して下さいナディアさん、私が数を減らしてきます」
サリエラは意気込んでそう言うと、馬車を飛び出していった。
そんなサリエラの背中を頼もしそうにナディアは見る。
「うん、サリエラさんを雇って正解ね。キリクさんはどうする?」
「俺も一応シルバー級冒険者なんで、それに見合った働きをしよう」
俺はそう言いながら弓を出すと、ナディアは笑みを浮かべながら言ってきた。
「助かるわ。もし、活躍できたら報酬を出すわよ」
「なら、頑張らないとな」
俺はそう言うと馬車の上から矢を放っていき賊の頭を撃ち抜く。
すると、それを横で見ていたナディアが口笛を吹くが、俺がサリエラの方を指差すと驚いた顔になった。
なんせ、サリエラはもの凄い速さで動きまわり次々に賊を倒していたからだ。
そして、ものの数分もしないうちに賊の半分を倒してしまったのだ。
「こ、これがアダマンタイト級の実力……。それよりキリクさんも……って⁉︎」
ナディアが興奮しながら話してる最中に矢がナディアに向かって飛んできたので、俺はそれを素手で掴むとそのまま弓につがえてナディアを狙った賊の頭を撃ち抜いた。
「気を抜いて喋るのは終わってからにしろ」
「は、はい……」
ナディアはそう言って馬車に身を隠したので、俺は賊を狙うことのみに専念した。
その後、賊を全滅させると商隊から勝利の怒号が響きわたった。
そんな中、ナディアが嬉しそうに声をかけてきた。
「二人共、本当に助かったわ。それにキリクさん、あなたは私の命の恩人よ。もし暇な時があればスノール王国の王都にあるファレス商会の本店に来て。必ずお礼をするわ」
そう言うと、ナディアは紋章が刻まれた指輪を渡してきた。
「この指輪は?」
「ファレス商会の紋章が刻まれた特注品よ。私が不在でもこれを見せれば、父である商会長が対応するわ」
「わかった、時間ができたら向かうよ」
そう言いながら、指輪を見ているとあることに気づいた。
この紋章の鎧を着た人物はもしかして……。
「その紋章良いでしょ。勇者アレス様よ。ファレス商会は父が勇者アレス様に憧れて紋章と名前を少し弄って作った商会なの」
「そ、そうなのか……」
まあ、悪用しなければアレスの名前は使ってもいいと言ったが、まさか商会で使われているとはな……。
「えー、キリクさん良いなあ。私もアレス様の指輪が欲しいですよ!」
「あら、サリエラさんもアレス信者なの?」
「信者かはわかりませんけど、公園や酒場で歌われる勇者アレスの英雄譚を一文一句言えますよ‼︎」
サリエラはそう言って胸を張ると、ナディアも同じように胸を張り、不敵な笑みを浮かべる。
「あら、私はそれに加えて、私は見た!勇者アレスの○○を一文一句言えるわ」
ナディアはそう言ってからサリエラにあなたはできるの?と視線を送る。
ちなみに俺はそんな歌は知らない。
そもそも○○ってなんだ?と思っていると、サリエラが苦虫を噛み潰したような顔をして叫ぶ。
「えー!あれは邪道ですよ‼︎」
邪道……どんな内容だ?
俺は正直、興味が湧いていたが黙っていると、ナディアが驚く事を言ってきた。
「最近、王都スノールのアレス信者の中では正史として認められたのよ」
アレス信者の中で正史?
俺は正直、ナディアは何を言ってるんだろうと思っていると、サリエラが俺の代弁をしてくれた。
「国で認めてないものは認められませんよ」
そうだな、正史というのは国が認めたものだからな。
俺はサリエラを見て頷くと、またナディアがよくわからない事を言いでした。
「国より私達信者の方がアレス様を理解してるわ。だから私達が正史と言ったら正史になるのよ」
俺はナディアな言葉を聞き、何を言っているんだと思っていると、サリエラが悔しそうに頷いた。
「た、確かにそうですね」
俺はサリエラのその言葉を聞き、溜め息を吐いていると、後、処理を終わらせたグエンが馬車に乗り込んできた。
「ナディアお嬢さん、賊の片付けは終わった。やはり罠もいくつかあったよ」
「そう、気づかないで罠にかかってたら危なかったわね」
「隊列を組む前に倒せたのも良かった。それで、今回これを見つけたんだが見てくれ」
グエンはそう言うと、ファレス商隊の規模と馬車がいつ頃ここを通るかなどをメモした紙切れを見せてきた。
そのメモ紙を見たナディアは目を細める。
「こいつらは私達を狙ってたってこと……?まさか、あれを狙ってた?」
ナディアがそう呟くとグエンはメモ紙を手の中でくしゃくしゃにして頷く。
「ナディアお嬢さん、可能性はあるな……。そして襲ってきた奴らも恐らくは……」
「わかったわ。とにかく、マルシュまで行きましょう。上手くいけば今日中には着けるわ」
「わかった、おい、お前達出発するぞ!」
グエンの掛け声で馬車は再び目的地に向かって動きだした。
それからは賊に襲われることもなく、無事にスノール王国領にあるマルシュに到着すると、ナディアがほっとした表情を浮かべながら、俺達に頭を下げてきた。
「なんとか日をまたぐ前に到着できたわね。二人がいてくれたおかげよ」
「たいした事はしてませんよ。こちらこそ馬車に乗せて頂いてありがとうございました」
「ああ、助かった」
俺達はそう言って立ち去ろうとすると、ナディアが慌てて俺達に話しかけてきた。
「ね、ねえ!二人とも泊まるところは決めてないでしょ?もし良ければ、私達が使ってる宿を紹介するわよ。そこなら食事も取れるしご馳走させてもらうわ」
「わっ!キリクさん良いですよね?」
「……ああ」
「やったあーー!」
ナディアは嬉しそうに手を叩いて喜ぶが、俺は目を細めてしまう。
何故ならナディアの喜んではいる表情は、明らかに作った表情だったからだ。
それに気づいた俺はまだ何か起きそうだと思い、ナディアにわからないよう小さく溜め息を吐くのだった。
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