039 商人の目
あれから俺は騒ぎを聞きつけたギルド長のブロックによって、涙の跡が残ったままのサリエラと一緒にギルド長の部屋に強制的に連れてこられた。
「……何があったのかな?もし、理不尽に女性を泣かす様な事をしているなら冒険者ギルドとしてはなんらかの罰を与えないといけなくなるぞ」
ブロックは威圧しながらそう言ってくる為、サリエラが慌ててさっきあった事を説明し、なんとか誤解を解く事ができた。
「なのでこれは嬉し涙でキリクさんは何にも悪くないんです!」
「そ、そうだったのか……キリク、すまない」
「いや、大丈夫だ……」
俺はそう言って力なく溜め息を吐く。
そんな俺のテンションの低さにブロックは何かを察したのか慌てて話題を変えてきた。
「と、ところでレオスハルト鉱山の件、聞いたよ」
「ああ、それで俺からも報告にきたんだ」
俺はブロックにレオスハルト鉱山であった事を説明した。
「それは大変だったね」
「俺は別に大変ではなかったが、生き残った彼女は大変だろうな」
「ああ、残念だが冒険者を辞めてしまったよ」
「そうか……」
まあ、目の前で仲間が全員殺されたんだからしょうがないだろう。
「今回の件でクラン、冷たい月は解散になりパトロンのギネルバ商会はレオスハルト王国領での商売が当面できなくなるそうだ。後、捕まった二人も尋問が終わりしだい処刑になるらしい」
「妥当な内容だな」
「こちらとしてはギネルバ商会もキナ臭いから潰して欲しかったんだがな」
「キナ臭い?」
「ギネルバ商会の後ろにテドラス伯爵がいるんだよ」
「……北側の魔王と繋がっていたと噂されるテドラス伯爵が後ろにいるのか?」
俺はブロックの言葉に内心驚く。
まさかテドラス伯爵が絡んでるとは思わなかったからだ。
テドラス伯爵は北側の魔王軍と通じ、沢山の人々を誘拐して献上していたと噂になった事があるのだ。
一度、俺も調査をしたことがあるのだが、もう少しのところで証拠隠滅をされてしまったのだ。
それもあり、テドラス伯爵はそれ以降動く気配がなくなってしまったのだが……。
また動き出したということか……。
「ああ、そうだ。しかも今度は東側の魔王と繋がってると噂がある。まあ、間違いなく繋がってると思ってるよ」
「東側の魔王?狡猾のバーランドか……」
東側の魔王は狡猾のバーランドと言われ、その狡猾さから前線で戦ってる連中は苦労してると聞く。
「何か色々と動き出してるみたいだからキリク達も気をつけろよ。しかし、今日は勇者パーティーのファルネリアがいたおかげで集団暴走を防ぐ事ができて良かったよ」
「そうだな。俺達だけだったら間違いなく死者が出てたはずだ。だが、彼女はここに何しに来たんだ?勇者ミナスティリアはもう前線に帰ったはずなのにな」
「……それが、冒険者ギルドに寄ってないからわからないんだよ」
今の間……ブロックは何か知ってるようだが、おおかた魔王関連なのだろうな。
なら、今の俺には何もできないし今の俺にでもできるテドラスの件を気にした方が良いだろう。
なんせ、テドラスが今回の件に絡んでないわけない。
これは早めに向こうに行って調べて見るのも良さそうだな。
それから報告も済んだので俺達は冒険者ギルドを出ることにした。
「キリクさん、今日って大変だったんですね。もし、ファルネリア様が間に合わずに集団暴走が起きてたらと思うとゾッとしますね」
俺は冒険者ギルドで集団暴走が起きるかと思ってゾッとしたがな。
「まあ、これからはまともなクランか冒険者パーティーに間引きをやらせるだろうよ。それよりテドラス伯爵だ。サリエラの依頼の件にも絡んでくるかもしれない」
「そうですね。それなら明日の朝にはここを発ちましょう。なんせ、向こうで下調べも必要ですからね」
「そうだな」
短期間だがサリエラは本当に覚えるのが早いな。
これなら、すぐに俺が教えることはなくなるだろう……。
俺は先ほどからこちらを微笑んでみつめてくるサリエラを見ながらそう思うのだった。
◇◇◇◇
翌日、俺達は北側のスノール王国領にあるマルシュの町に向かう商隊の馬車に乗せてもらった。
護衛兼で乗せてもらえば安くなり、魔物や賊を倒せばお金をもらえるというなかなか高待遇な内容であるが、そんな高待遇を取れたのもアダマンタイト級ランクを持つサリエラがいたからだった。
「いやあ、アダマンタイト級に護衛してもらえるなんてラッキーだったわよ」
そう言うのは今回、俺達を乗せてくれたファレス商会の金髪美人の商人、ナディアである。
「いえいえ、こんなに護衛がいるなら私達なんていらなかったのに、無理を言ってすみませんでした」
確かに三台の馬車にはお抱えであろう、大勢の商隊員が乗り込んでいた。
「正直、これでも足りないと思ってるわよ」
「そんなにこのルートは賊とかに襲われることが多いんですか?」
「いいえ、ただスノール王国領からこっちに向かってた時に、かなりの人数で来られたのよ。しかも数だけじゃなく悪知恵も働くの!この前なんて目視ではわからないぐらいの落とし穴を掘られてたのよ!」
「それに、奴ら隊列を組んでくるんだ。あれでは賊というより兵士だよ」
ナディアの隣りにいた小隊長の男、グエンが溜め息を吐く。
「とにかく、賊が出たら私達も頑張りますね」
「ええ、お願いね。ところでサリエラさんとキリクさんってどういうご関係かしら?ランクがそんなに離れてるのに一緒にいるなんてちょっと気になっちゃうわ」
ナディアは俺の腕輪を見ながら笑顔で聞いてくるが、その目を見てナディアが、ただ聞いているだけではないことを俺は理解した。
本来、ランクが離れすぎている冒険者は特別な許可がない限りパーティーを組むことはできない。
それはランクが低い方は成長できないし、ランクが高い方は足を引っ張られて危険だったりと両方にメリットがないからだ。
だが、中には裏で高ランク冒険者を大金で雇って自分のランクを無理矢理上げる連中もいるのだ。
そんな偽高ランク冒険者は依頼を出したり雇う側にとってはデメリットでしかないので、そういうのを理解しているナディアは聞いてきたのだろう。
俺達の関係次第では冒険者ギルドに報告する為に。
だが、俺達は対策をしっかりとしているのだ。
「キリクさんは私の弟子であり、今はポーターとして登録してるんですよ。だから冒険者ギルドから評価はされないですよ」
「あら、そうだったのね。じゃあ、弟子のキリクさんはしっかりと頑張ってね」
ナディアはサリエラの答えに満足したのか、先ほどとは違い心から笑顔で俺達を見るのだった。
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