037 集団暴走と大魔導師
「やっと外だ!助かったぜ!」
隣りを走っていたラドが外の光りを浴びながら嬉しそうに叫ぶ。
あれから俺達はなんとか魔物達に追いつかれることなくレオスハルト鉱山の外に出ることができた。
外へ出ると全ての露店は畳まれ、空いた場所には王都へと魔物が行かないよう、沢山の兵士や冒険者達が壁になるように待機していた。
その為、俺達もそちらの方に急いで向かうと、入り口で通行届を見せた兵士が手を振りながら駆け寄ってきた。
「良かった、お前達生きてたんだな」
「なんとかな」
「おい、こいつらどうするよ?」
「ん?そいつらってクランにいた奴らだな。縛ってるってのはどういう事なんだ?」
「こいつら、ロックゴーレムを爆発させて集団暴走を引き起こした責任を取りたくないから、逃げようとしたんだ。しかも、逃げる為に冒険者を殺して金品も奪おうとしていた。後ろに生き残った冒険者がいるから証言もしてくれるはずだぞ」
俺はトーゴを雑に地面に投げた後、一緒に逃げて来た女冒険者を見ると頷いてくれた。
「わかった。あの転がってる奴らは仲間が城下町の兵舎に連れていくから、あんたも一緒に行ってくれ」
「……わかりました」
女冒険者は俺達と合流してから初めて喋ると、トーゴとウルネを担いだ兵士達と一緒に王都の方に走っていった。
そんな彼らの後ろ姿を見ていた兵士は大きく溜め息を吐く。
「はああ、本当は俺が逃げる口実で連れて行きたいところだが、しょうがない……。さてと、後は高ランク冒険者がくるまでここにいる寄せ集め連中でどこまでいけるかだな。お前ら逃げたかったら逃げていいぞ」
兵士がそう言うとラドが怒った顔でつるはしを構えた。
「バカいえ!後ろは大事な親方の鍛冶屋があんだ。俺だってこのつるはしで魔物の頭をカチ割っててやるぜ!」
「まあ、俺もやるだけやってみよう」
「お前らもの好きだな。まあ、そういうのは嫌いじゃないぜ」
兵士がそう言ってニヤッと笑うが、その笑みは誰にでもわかる程の作り笑いだった。
そんな兵士を見て俺は感心する。
レオスハルト王国は兵士もしっかり育ててるみたいだな。
俺は兵士の横顔見ながらそう思っていると、ガッタが叫びながら俺達のところに駆け寄ってきた。
「おーい!ラド‼︎」
「ガッタ⁉︎何やってんだ!早く逃げろよ!」
「悪い、グッタが入り口近くで盛大にすっ転んでな……。俺も巻き込まれて足を挫いちまった」
「またあいつか……で、グッタは大丈夫か?」
「ああ、足を折っちまった以外はいつも通りだ。添木を当てて少し離れた場所で休ませてる」
「はあ……。仕方ねえな。キリク、兵士の兄ちゃん、すまねえ。二人を連れてく」
「気にするな。早く治療ができるところに連れてってやれ」
「おお、後は俺達寄せ集め連中に任せとけ」
「本当に申し訳ねえ……」
「すまねえ」
そう言うとラドとガッタは申し訳なさそうな顔して離れていくが、その直後にレオスハルト鉱山内から魔物の声と足音が聞こえ始め、周りの空気が一瞬で緊張に包まれていった。
この気配の数はおそらく、百体以上か……。
今いる戦力では間違いなく歯が立たないだろうな。
せめてこの寄せ集め全体を指揮できる者がいれば、援軍が来るまで怪我人を少なく済ませれるだろうが……。
俺は周りを見るが、そんな人物がこの場所にいない事がわかってしまう。
最悪、この場所では使いたくないが奥の手を使うしかないな……。
俺は最悪のケースを想定して収納鞄から奥の手を用意しようとしたその時、俺達の目の前に突然、魔法陣が現れた。
あの魔法陣は短距離移動魔法……。
誰だ?
俺は警戒しながら、魔法陣を見ていると、そこから動きやすい服装に赤いマントを羽織り、手には長い杖を持った、金色の長い髪に狐耳と尻尾が生えた獣人の女が現れた。
その瞬間、寄せ集め連中の中から歓喜が上がった。
「おお!大魔導師ファルネリア様だ!」
「ファルネリア様だ!」
「た、助かったぞ!」
周りにいるファルネリアを知っている者達は、あからさまに安堵の表情を浮べていく。
もちろん彼女を知っている俺もその一人だ。
なぜなら、ファルネリア・エーリスはダマスカス級のランクを持ち、勇者ミナスティリアのパーティー、白鷲の翼のメンバーで、魔術師の一番上位の加護である大魔導師の加護を持つ冒険者だからである。
ちなみに、ファルネリアには魔法の件でよく質問攻めをされたり、よく付き纏われた記憶がある。
俺が新しい魔法を考えて試していると、すぐに嗅ぎつけてきて、どうやってこうなるのか、なんでこの考えにいたったのかなど質問攻めをしてくるのだ。
しかも下手に答えると、納得できるまで付き纏ってくる為、大変だったのである。
ファルネリアの頭の中は今でも大半は魔法の事で埋まってるのだろうな。
俺はそれを久々に思い出し、戦う前から疲労感に襲われてしまうが、俺の疲れが取れるのを魔物が待ってくれるわけもなく、レオスハルト鉱山の奥から沢山の魔物が姿を現し始めるのだった。
その瞬間、俺の周りは一気に緊張感が溜まるが、ファルネリアが喋りだした事で解けていった。
「あなた達は戦わなくて良いわ。後は私がやるから」
ファルネリアはそう言うと杖を魔物達に向ける。
「全てを切り裂きなさい。トルネード・カッター!」
ファルネリアがそう言うと、鉱山に向かって渦を巻いた大量の風の刃が飛んでいき、鉱山から出てくる魔物を巻き込み次々と斬り裂いていく。
更に、ファルネリアはそれを繰り返す事で、鉱山から出てくる魔物を全部倒してしまったのだ。
「す、すげえ!無詠唱であんなに沢山の魔物を倒しちまった」
「やはり、前線で戦っている者は違うな!」
皆んながファルネリアを称賛していると、俺の隣りにいた兵士が近づいていき敬礼をした。
「ファルネリア様、俺はレオスハルト鉱山の管理を任されているものです。今回は本当に助かりました!」
「気にしなくていいわ。じゃあ、後は冒険者ギルドの人達に任せて私は戻るわね」
「あの、倒した魔物はいかが致しましょうか?」
「好きにしていいわよ」
そう言うと、ファルネリアは短距離移動の魔法を使ってどこかに行ってしまった。
去るのもあっという間の出来事だった為、誰も反応できずにいたが、兵士が嬉しそうな顔をする。
「……やべえ、俺、ファルネリア様と喋っちまったぜ」
兵士がそう呟くと、皆んなははっとなり兵士を睨んだ。
「くそっ!一生、目にできないかもしれないのに会話までしやがって!」
「そうだ!一人だけずるいぞ!」
周りにいる連中は睨みつけたり、罵倒しはじめるが、そんな事を兵士は気にする様子もなくニヤついていた。
何故なら、全ての人々の憧れでもある勇者パーティーに会えただけじゃなく、話すことができた兵士は浮かれすぎて周りが見えてないからである。
だが、それは仕方ない事でもあるのだ。
なんせ、勇者パーティーはほぼ前線にいるから会える事なんてほぼないと言っても良いくらいなのである。
だからこそ、この反応になってしまうのだが……。
こういうのは前線で戦うあいつらにとってはプレッシャーになるんだよな。
俺は目の前の光景を見て溜め息を吐く。
すると、やっと兵士が周りを気にしだし、顔をしかめた。
「仕方ないだろ。これも仕事なんだからさ」
そんな事を言いながらも兵士の口元はすぐに緩んでニヤつくのだった。
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