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033 ピンチに陥いる元勇者

 サリエラの頬はほんのり赤くなっており目がトロンとなっていたのだ。

 そう、つまり酔っ払っていたのだ。

 正直、これ以上、飲んで暴れられたら困ると思った俺は、サリエラの前に置いてある酒を取り上げる。


「サリエラ、酔っているみたいだからもう止めろ」


「えーー⁉︎まだ、二杯しか飲んでませんよおお!」


「いや、相当飲んでるだろ……。それにもう日が落ちてからずいぶん経ってる。そろそろ帰るぞ」


「うー、お尻に根が生えて立てませーーん!」


 サリエラはそう言ってテーブルにしがみつく。


 こいつ……既に相当酔っているな。

 仕方ない。


「俺が支えてやるから帰るぞ」


 俺は肩を貸そうとサリエラに近づくと、サリエラは急に俺に抱きついてきた。


「トラップですよぉー。キリクさん引っかかりましたねぇ!」


「おい、何がトラップだ……離れろ」


「いやいやいや‼︎」


 サリエラは俺に抱きつきながら酒場内で大声を出す為、周りの連中に睨まれたり、殺気まで向けられてしまう。

 その為、身の危険を感じた俺は慌ててサリエラを支えると酒場を出ることにした。


 やれやれ、死ぬかと思ったぞ。

 しかし、どうするかな……。


 現在、泥酔状態のサリエラは静かにしているが足元が完全におぼつかない状態である。

 おそらくというか間違いなく一人で泊まってる宿には帰れないだろう。


 ……仕方ない、送ってくか。


 俺はそれからサリエラが長期的に利用してる宿へと向かった。



◇ ◇ ◇ ◇



「……サリエラ、着いたぞ」


 宿の前に到着し、俺はサリエラに声を掛けるが下を向いていて反応がなかったので、顔を覗いて見るとサリエラは完全に寝ていた。


 支えているとはいえ、歩きながら寝れるとは器用なやつだな……。


 俺は仕方なく宿の女将に声をかける。


「すまん、こいつを部屋に連れて行きたいんだが」


「ああ、あなたはキリクさんでしたね。サリエラちゃんと飲んでたんですか?」


「まあな……。しかし何故、俺の名前を?」


「一昨日にこちらでサリエラちゃんと待ち合わせに来られたましたよね。あの時、サリエラちゃんがあなたの事をキリクさんって言ってましから」


「……なるほど」


「まあ、商売がらとサリエラちゃんが凄く楽しそうにしてましたのでキリクさんの名前が印象に残ってたんですよ」


「そうだったのか……」


 俺はサリエラを見るとなんだか楽しそうな表情をして口をモゴモゴさせていた。

 きっと美味いものを食べている夢を見ているのだろう。

 そんな事を考えていると女将は上品な笑みを浮かべながら、サリエラのチャック付きのポケットに手を入れ鍵を出した。


「それより鍵ならここに入ってますから、今度から覚えておいて下さいね」


「……おいおい、大丈夫なのか?」


「キリクさんだからいいんですよー。ホホホホッ」


「……俺はすぐに出てくるからな」


 俺は念を押すように言うが、女将は鍵を押し付けながら満面の笑みを浮かべる。


「いえいえ、ゆっくりで良いですからねえ」


 そう女将が言ってくる為、これ以上は何を言っても無駄だと判断した俺は、溜め息を吐きながら部屋に向かう。


 全く、大丈夫なのかこの宿は……。


 若干、サリエラの事が心配になったが、この宿は王都でも安全性が高い宿と謳い文句もあるのだ。

 きっと大丈夫だと思いたい。

 俺はそう思いこんでいたらあっという間にサリエラが借りている部屋に着いてしまった。

 それから、扉の前でしばらく悩んでしまうが結局、答えは一つしか思い浮かばなかった。

 

 やはり、入らないと駄目か……。


 正直、本人の了承を得ずに部屋に入るのは気が引けるが、サリエラがこうなっているのが悪いという事でなんとか納得して俺は部屋に入る。

 しかし、覚悟を決めて部屋の中に入ったのだが拍子抜けするほど中には物がなかった。


 そうか、サリエラも収納鞄にほとんど入れてるんだったな。


 俺は下着など見られたらまずいものがあるかもと、気を使っていたので安心した。


 後は、こいつをベッドに寝かせてさっさと帰るか……。


 俺は早速、抱きつきながら器用に寝ているサリエラをベッドまで連れて行く。

 そしてサリエラをベッドに寝かせようとした瞬間、突然強く引き寄せられ俺は一緒にベッドに倒れてしまったのだ。

 その為、俺は急いでベッドから出ようとしたのだが、サリエラは更に俺に抱きついてきた。


「おい、サリエラ!」


「むにゃむにゃ……アレス様ー」


「くっ、なんて力だ」


 サリエラの抱き枕状態になってしまった俺は、なんとか抜け出そうと試みる。

 しかし、こちらが動けば動く程、サリエラの手や足が絡まっていく。

 そしてついには全く動けない状態になってしまったのだ。


 これがアダマンタイト級の力か……って関心してる場合じゃない。

 今、サリエラが目を覚ましたら俺は完全に終わるぞ……。


 俺はそれから抜け出す為に色々と試していく。

 しかし、全く抜け出せなかった。

 しかも、かなり動いたせいか、俺もサリエラもかなり服が乱れて大変な状態になってしまっていた。


 不味いぞ……。


 もし、朝に起きて俺みたいなのとベッドで一緒に寝てたなんて知ったら、サリエラはショックを起こすだろうな……。

 しかも、こんなに服が乱れていたらそれ以上の事をしてしまったと、想像してしまうかもしれない。

 

 これは本気で参ったぞ……。

 とにかく、タイミングを見て抜けれるか試そう。

 冒険者キリク、いや、元勇者の意地でサリエラの名誉を守ってやらないとな。


 俺は気合いを入れて頑張って抜け出そうとしたその時、サリエラが俺の耳を甘噛みしてきた。


「サリエラ、やめろ!」


「むにゃむにゃ、美味しいー」


 俺が顔を動かすとサリエラは顔を寄せてきて今度は頬を舐めてきた。


「むにゃ、甘ーい」


「俺の顔は食べ物じゃないぞ!」


「へへー、ペロペロー」


「こら!舐めるな!」


 俺は力を入れるが相変わらずサリエラの方が力が強くて抜け出せないので、なんとか顔だけ動かし避けようとするが、サリエラの噛む、舐める、吸う攻撃から逃れる事はできなかった。


 これは無理だ……。


 勇者として沢山の苦難に直面したが、ここまで無力感を感じたのは久々だった。

 だが、同時に今の自分がどれだけの力があるかも理解する事ができた。


 まさか、こんな状況で学べるとはな……。


 そう考えている最中でもサリエラの攻撃は続いている。

 そして、それは朝方まで続き俺は結局、抜け出せず眠ることもできなかったのだった。



◇ ◇ ◇ ◇



「すみませんでしたーー‼︎」


 あれから朝になり、サリエラは気持ち良さそうに起きて背伸びをしてる最中、俺の存在に気づいた。

 最初はわけがわからないという表情を浮かべていたが、段々と状況がわかってきたのか、顔が真っ青になっていき、すぐにベッドから飛び降りると、土下座をして謝ってきた。


「……その感じだと前も同じ事をしたのか?」


「妹に……。それで凄く怒られてしまってお酒とかも飲まない様に控えていたんです。けど、キリクさんとパーティーが組めた事がつい嬉しくて忘れてたんです……」


「……そうか、てっきり俺が何かしたのかと勘違いされて問題になるかと焦っていたが安心したよ」


「そ、そんな事思いませんよ!それよりキリクさん怒ってませんか?」


「いや、色々と学ぶ事ができたからな」


 まあ、代償として俺の顔半分はサリエラのよだれまみれになったがな。


「はあ……良かったです。妹には滅茶苦茶怒られましたので……」


 サリエラは心底ホッとして俺に笑顔を向けてくる。

 その顔を見て俺もホッとしてしまった。


 良かった……。

 正直、訴えられるかと覚悟してたからな……。

 まあ、そんなことより……。


「……サリエラ、服をどうにかした方がいいぞ」


「えっ?あっ!」


 サリエラははだけて下着同然になっていた自分の姿に気づくと、真っ赤になりながらシャワー室に駆け込んで行ってしまった。

 

 やれやれ。

 これでやっと休める……。


 俺はベッドに倒れ込み目を閉じると、ホッとしてしまったのもあり、すぐに眠りの世界へと落ちていったのだった。


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