032 勇者アレスの英雄譚
あれから数日経ったが、冒険者ギルドに突き出した三人の処分が決まった。
村長の兄は今回被害を受けた村人への慰謝料を支払うまで奴隷落ちとなり、今朝に重労働する場所へと連れていかれた。
それと残りの二人はトキ村出身の重犯罪者で、何処かの町で捕まりそうになったので村に逃げ帰り、そのまま隠れ住んでいたらしい。
二人は錬金術と精霊使いの加護を持っていたが、封じられて奴隷として東側で一番きつい鉱山に送られていった。
そしてトキ村の村人達だが、どうやら逃亡してきた二人が怖くて村から離れていたらしく、今は村に戻り、今後はラニ村との交流が始まるらしい。
「お疲れ様です!」
「……お疲れ」
俺達は冷えたエールが入った木のマグカップをお互いに当てる。
今日はサリエラと依頼達成祝いに王都の酒場に来ている。
ちなみに俺は別にこんなことをする必要はないと言ったのだが、サリエラがどうしてもという事で無理矢理連れてこらたのだ。
「私、こういうところ来るの初めてなんです」
「今まではどうしてたんだ?」
「宿や露店で済ませてました。なかなか一人だと来にくくて……」
「臨時パーティーを組んだ時とか誘われなかったのか?」
「男性冒険者に何度か誘われましたけど、ちょっと嫌で……。それに精霊もやめろって言ってましたしからね。それでも絡んでくる人達は精霊が攻撃しちゃって大変だったんですよ」
「……なるほど」
俺はエールを一口飲みながらサリエラを見る。
美少女というだけでなくエルフ特有の痩せ型ではなく、出てるとこは出ているグラマータイプだ。
こんな容姿の女が一人でいたら男は放っとかないだろう。
まあ、誘った連中はサリエラのお眼鏡には叶わなかったという事か。
俺がそんな事を思いながら肉串を取ろうとすると、サリエラが上目がちで質問してきた。
「あ、あのう、キリクさんはどうなんですか……?女性冒険者に誘われるとか……」
「俺は基本的にパーティーだったから、そいつらとだったな。まあ、ほとんど参加してないな……」
そう言いながら俺も実をいうと、酒場にほとんど来たことない事に気づく。
そして、今までの事を考えると当然かと納得した。
なんせ、あの三つのパーティーは最悪すぎたので参加したくなかったからだ。
それに、アレスの時は仲間にも顔を見せなかったから酒場なんかには行ってない。
そもそも戦いに明け暮れてたのだ。
よって思い出してみるとどうやら、酒場の思い出もほぼない事に気づいてしまった。
俺は溜め息を吐いた後、エールをもう一口飲むと先程と違って苦味を感じた。
そんな昔の事とエールの苦さに渋い表情になっている俺にサリエラは笑顔を向けてくる。
「そ、そうですか!でも、キリクさんって絶対もてると思うんですけどね」
「そんな事ないぞ。からかわれたことは何度もあるが、俺はもてた記憶はほとんどないからな」
「いえいえ、中性的な整った顔立ちにその綺麗な黒髪。なんだか自分で言うのもあれなんですがエルフみたいですね」
サリエラのエルフという言葉に俺はドキッとする。
もちろん、俺の正体がばれるかもと思ってのドキッである。
なのでここはしっかりと否定しておく事にしておいた。
「……そんなわけないだろ。表情は仏頂面だって言われてるし、中途半端な髪だとか言われてるし、自分でも片目が隠れていつも邪魔だなと思ってるぐらいだ。それに俺はひ、人族だし、もう一度言うがもてたことなんてほとんどないからな」
「キリクさんってたまに凄い否定してきますよね……。後、ほとんどもてたことないの、ほとんどのところが気になりますけど……」
「それはお前が変な事を言ってくるからだ。それと気にするな」
「ううっーー」
サリエラはジト目で睨んでくるが、俺は目を合わせない様にエールを飲む。
こいつは変に勘がいいから、俺の正体がバレないようにしないとな……。
そうなると、ここは話題を変えるのが一番だろう。
俺は目だけを周りに向ける。
すると、あるものが目に入ってきたので俺は心の中で笑みを浮かべた。
「サリエラ、あそこの吟遊詩人に歌ってもらったらどうだ?」
「あーー!良いですね!私、歌が好きで結構、公園や広場にいる吟遊詩人さんに歌って貰ってるんですよ!」
「そうか、それなら頼み方はわかるな」
「はい!すいません!勇者アレスの英雄譚をお願いします!」
「ぶっ!ゴホゴホッ!」
「キリクさん!大丈夫ですか⁉︎」
「だ、大丈夫だ……。エールがちょっと変な場所に入っただけだ……」
そうきたか……。
サリエラが銅貨一枚を俺達の近くに来た吟遊詩人に渡す。
「はいぃ。では、どこの章の節が良いですかー?」
「ええとですね……」
勇者アレスの英雄譚……。
吟遊詩人の中で一番メジャーな部類だ。
詩の内容は派手でだいたい強い魔物、美しい女性、金銀財宝、名セリフがセットになる。
更に一章三節に分かれており、全部で十章に分かれているのだ。
「一章一節をお願いします」
「わかりましたー」
吟遊詩人は持っているリュートを弾きながら囁く様に歌いだした。
一章一節は、魔王軍に襲われている西側の町に、勇者アレスが突然現れて、魔王軍を倒していくのだ。
吟遊詩人は抑揚をつけながら、戦いを表現する。
いつの間にか、酒場の連中は吟遊詩人の歌とリュートの音に耳を傾けている。
この吟遊詩人は上手いな。
だが、歌の内容がほぼ全て作り話だという事は本人である俺が知っている。
吟遊詩人は一節の最後の方を語るように歌い終わらせると酒場内は拍手喝采がおこり、吟遊詩人は各テーブルを回って挨拶していく。
これは、あわよくばチップと続きの歌が欲しいか聞いて回るのだ。
結局、吟遊詩人はその後、三節まで歌を歌いチップも沢山もらっていた。
「はあ、良かったですね」
「良い声だったな」
「声もそうですけど、やはり歌の内容は素晴らしいです」
サリエラはいつの間にか注文したワインを飲みながらうっとりとしている。
「お前、ああいう派手な歌が好きなのか?てっきり青銅の騎士アラウェンの秘密や、アーガスト伯爵の部屋の方が好みかと思ったが」
「冒険者はやはり、勇者アレスの英雄譚が鉄板ですよ!」
サリエラは身を乗り出して俺を見てくるが、顔が近い……そして酒臭い。
「……そうだな」
「はあ、アレス様と一目でいいからお会いしたかったですう」
「……そうだな」
お前は一目どころか何度も会ってるぞ。
「あわよくば一言でもぉ、良いからあ、お話をしたかったですう」
「……そうだな」
お前は十分過ぎるほど話してるぞ。
というか、こいつ……。
俺はサリエラの表情を見て嫌な予感がしてしまった。
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