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030 化けものとの対話

 日が落ち、辺りが暗くなると村人は村長の家に集まってきた。

 そして、しばらくすると何者かが扉を激しく叩き始めたのだ。


 ゴン、ゴン、ゴン、ゴン。


 俺は、部屋の隅で怯えた顔で固まっている村人達を見ると、その中にいた村長が俺達に向かって頷いたのでサリエラに声をかける。

 

「サリエラ、どうだ?」


「はい、間違いなく精霊がついてますね。しかも複数です」


「よし、手はず通りいくぞ」


 俺達は裏口から外に出て表口に回り込むと、そこにいたのは身体の大きさが三倍以上ある巨大な鹿だった。

 俺は手筈通りにサリエラに合図を送ると、サリエラはゆっくりと前に出ていき巨大な鹿に向かって声をかける。


『お願い。何があなたにそうさせてるの?私はあなたを助けたいの』


 サリエラが精霊語で話しかけたからか、巨大な鹿は驚いた表情をしてこちらを見る。

 そして、しばらくサリエラと見つめ合った後に苦しげに言ってきた。


『……私達をこの身体に無理矢理閉じ込めて苦しめてる。出ようとすると……余計に苦しくなる』


『支配系の精霊魔法をかけられてるんですね。それは苦しいでしょう……。誰にそんな事されたんですか?』


『……魔法でわからなくされてる。でも人がやったのは間違いない。うう……人は許さない』


 巨大な鹿改め、精霊が取り憑いている鹿は苦しんで頭を振る。

 おそらく助けてくれるかもしれないサリエラの為に苦しい思いをしながら抗ってくれているのだろう。


『……人がやった事だけ覚えさせて、村の人達を襲わせているんですね』


『襲うと……楽になる』


 そう言うともう我慢できなくなったのか、精霊が取り憑いた鹿はまた扉を頭の角で叩き始めた。


『そういう風にあなた達に命令してるからですよ。だけど、もう大丈夫です。必ずあなた達を救ってみせます』


『……この身体が倒されると……また他の身体に飛ばされる。その時に他の精霊も取り込もうとする……助けて!苦しい!』


『わかってます。必ずあなた達を救ってみせます』


 そう言うとサリエラは俺に頷いた。


 だいたい、情報は聞けた様だな。

 では、次は俺の番だな。


 俺は銀製の試験管を出す。

 この試験管の中には補助魔法や魔法でかかる状態異常を打ち消す対魔法薬が入っているのだ。

 早速、試験管の中身を鹿の化け物に向かってかけると、すぐに精霊が取り憑いている鹿から沢山の色とりどりな小さい光りが飛び出した。


 どうやら効いた様だな。


『私達、自由よ!』


 沢山の小さな光りは支配系の魔法から解放され、嬉しそうに俺達の周りを飛び回る。

 精霊が取り憑いている鹿は元の大きさに戻ると何処かに走っていってしまった。


「サリエラ、誰に支配系の魔法をかけられたか聞いてくれ。それと案内できるかもな」


「はい!」


 サリエラは返事をした後にすぐ精霊達に話しかける。


『皆んな、誰に魔法をかけられたか覚えてる?』


『ええ、覚えてるわ!あいつ許さない!でも、結界があるからあいつの場所に行けない!』


「サリエラ、精霊達にその結界を壊してやるから、俺達をそいつの場所まで案内する様に伝えてくれ。俺は村長達を呼んでくる」


「あ、はい。あれ?何でキリクさん精霊の言葉が?」


 サリエラが何か言ってるが、気にせず俺は裏口に周り家の中に入った。


「村長、とりあえず化け物の件は終わった」


「ありがとうございます!では、次ですね」


「ああ」


「すぐに用意します」


 村長はそう言うと側にいた村人の一人を連れて外に出ていったのだが、それを見ていたノルが俺に駆け寄ってきた。


「ねえ、冒険者の兄ちゃん、化け物倒したの?」


「ああ、でもこれからが本当の化け物退治だ。だから、お父さん達にも手伝ってもらう」


「えー!俺も行きたいよ!」


「お前には大事な仕事がある。お父さんがいない間、ここにいる人達を守ってもらわないといけないんだ。できるか?」


「も、もちろんだよ!俺がここを守る」


 ノルは持ってた木の棒を掲げた。


「なるほど、ノルは立派な戦士だな」


「へへへ」


 俺はノルの肩を軽く叩いた後、表口から外に出ると、既にサリエラと村長と五人の村人が集まっていた。


「キリクさん、村の者達の準備ができました」


「キリクさん、こちらも精霊との話はが済んでますよ」


「わかった。後は結界を壊す」


 俺は弓を出し、対魔法薬を塗った矢を真上に向けて放った。

 すると矢はドーム状の膜に刺さり、しばらくしてドームにヒビが入ると最終的にはパリンという音とともに割れて消えた。


「あ、私の精霊が来ました!」


「上手く結界は破壊できたみたいだな。早速、案内してもらおう」


『お願い、あなた達、私達を案内して』


 サリエラの頭上に浮いてる小さな光達は、ゆっくりとある方向に向かいだした。


「この方向は……」


 村長の呟きに村人達の表情が強張る。

 おそらく、彼らは何処に向かうかわかったのだろう。

 しばらく精霊達の光りに照らされる山道を歩いていると、かなり寂れた村が見えてきた。


「村長、この村とはどういう関係なんだ?」


「このトキ村は私達が生まれ育った村なんですが、父から村長を引き継ぎ兄が村長になってから横暴な事をやり始めましてね。それに嫌気がさした者達で村を出たんです。それでラニ村を作ったんですが、しばらくするとトキ村からどんどん村人が来てしまいまして」


「トキ村の村長の横暴さに嫌気がさしたんだな」


「あいつ、自分の考えが全部正しいと思いこんでんだよ!」


 村人の一人が怒った顔をしながらそう言うと周りにいた村人も大きく頷く。

 そんな彼らの様子を見て、何となくだが今回の騒動の原因が俺には見えてきたのだった。


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