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003 正体を隠したい元勇者

「ま、待ってください」


 後ろを振り向くとサリエラが緊張した面持ちで立っていた。

 なんとなく面倒臭くなるような予感がしたので俺は素っ気ない対応する。


「悪いが急いでる。手短に済ませてくれ」


「は、はい。ええと……私はサリエラ・E・ルナライトと言います。あの、あなたはアイアン級のキリクさんで良いんですよね?」


 サリエラは俺の腕に付けてある腕輪を見ながら聞いてくるが、その目は何かを期待するような感じがして、俺はつい視線を逸らす。


 なんだ?

 何故そんな目で見てくるんだ……。


 俺は嫌な予感がして、答えられずにいるとサリエラがゆっくりと呟いた。


「……アレス様?」


 その言葉に俺は内心焦ったが何とか冷静に努めながら答える。


「……違う」


「でも、観察力に何よりキリクさんは加護が無いのですよね……」


「加護無しはこの大陸を探せば沢山いるだろう?それに俺は黒髪に黒目だ。噂の金髪や、勇者の証である金色の目ではない。それに何より勇者アレスは北の地で死んだだろ」


「そ、そうですよね……」


 サリエラは明らかに落胆した表情になる。

 俺はそんなサリエラに悪いとは思いながらも黙って足早に離れる。

 そして少し離れると大きく息を吐いた。


 今のは焦ったぞ……。

 まさか、あれからかなり経ったのに俺をアレスと言ってくるなんてな……。


 正直、正体が絶対に知られる事はないだろうと、高を括っていたのだ。

 なんせ勇者時代はフルプレートで全身を隠しており、種族も性別さえもわからない状態だったのだ。

 だから、後は何故か知られていた髪の色と勇者の証の金色の目を変えさえすれば、正体がわかることはないと思っていた。


 名前に出身も鑑定でわからない様に偽装したはずだが、加護無しと考察だけで言ってくるという事は、俺は過去にサリエラに会ったのか?


 俺はそう思い記憶を探ってみたが思い当たる節はなかった。


 ……まあ、もう会うことはないし気にする必要はないか。


 そう思って歩いていたら、また、サリエラの声が聞こえてきた。


「キ、キリクさん」


 サリエラは素早く俺の前に回り込むとエルフの中でも特に美しく整った顔で見つめてくる。

 普通、この状況なら誰でも恋してしまうだろうが、俺は正直、不安感でいっぱいだった。

 それはこれからサリエラが言う言葉が、俺の正体を確実に明かしてしまうのではと思ったからだ。

 第二の人生、周りからの風当たりは強かったが、それなりに冒険者キリクとしての生活は気に入っている。

 それにこれからソロ冒険者でやっていく楽しみもあったので、邪魔をされたくなかったのだ。

 だからこそ、俺はサリエラから黙って離れる。

 すると慌てたサリエラが駆け寄ると頭を下げて言ってきた。


「わ、私とパーティーを組んで下さい!」


「はっ?」


 サリエラの言葉に俺は思わず立ち止まる。

 なんせ思っていた事と違う事を言われたからだ。


 何を言ってるんだ?

 そもそもランクが離れすぎてる場合は組めない規定があるだろう……。


 俺はそう考えながらも、今の実力はプラチナ級ぐらいの腕はあるはずなので、俺次第の頑張りではパーティーを組むことは可能だろうと思ってしまう。

 だが、先程の件や、俺自身そこまで頑張って冒険者をやるつもりはないので答えは出ていた。

 そんな事を知る由もないサリエラは不安そうな表情をして俺を見つめてくる。

 その表情に普通なら誰で考えを改めて言うことを聞いてしまうだろうが、戦うだけの人生を送り、心が死んでる様な状態の俺にはあまり響かないので考えが変わることはなかった。

 それにサリエラは絶対に俺と組まない方がいい理由もあった。

 それが先程あった件だ。

 そもそも、どうして役立たずに、嘘つきなんて言われるようになったのかというと、キリクになって組んだパーティーが悪すぎたのだ。

 一つ目のパーティーは最初の方だけは良かった。

 田舎出の素人パーティーで和気あいあいとやっていたのだが、だんだん皆んな実力が上がると慢心しだしたのだ。

 それを注意しているうちに亀裂が入っていき、俺は使えない役立たずだと周りの冒険者達に愚痴り始めたのだ。

 それでも、俺は何度も修復を試みようと思ったが時すでに遅かった。

 だから、彼らが別の町に行くと言い出したので俺は抜け、二つ目のパーティーに補充要員で入ったのだが、何故かリーダーの男とその恋人に目の敵にされてしまったのだ。

 しかも、ある事ない事を言われ最終的には嘘吐き呼ばわりされた為、抜けたのだが、その後もあいつらは周りに吹聴して回った為、俺は役立たずという噂と並行して広まってしまったのだ。

 そして三つ目のパーティーは、あの問題児パーティーである。

 今、思えば紹介したのは受付のナルだったので、加護無しを差別するあいつの嫌がらせだったのだろう。

 なので、また悪い噂が広まる俺と組めばサリエラに迷惑がかかるのは間違いのである。

 それになによりパーティーはもうウンザリな俺にはこの答えしか出なかった。


「俺はソロでやっていくと決めてる。悪いな」


 俺の答えにサリエラはがっくりと肩を落とした。


「……わかりました。引き止めてしまってすいませんでした」


 そう言うと、サリエラはトボトボと冒険者ギルドの方に戻っていったので、、俺はほっと一息すると再びレクタルを出る為に歩きだすのだった。


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