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021 クトゥンとの会話

『おお、客人よ見てくれ。この素晴らしい風景を』


 クトゥンは魚の口をパクパクさせながら蛸の目を細めて周りを見渡す。

 おそらく満足そうな表情をしているのだろう。

 念の為、俺は話を合わせることにした。


『まあ、否定はしないが……』


『おお、我らの言葉を喋れるのか。まさか門の外でこちらの隣人と会えるとはな』


『隣人ではないが、昔アンクルに世話になったんだ』


『なんと……あの方に会ったのか。それでは立派な隣人じゃないか。では挨拶がてらヌシにこれをやろうではないか』


 クトゥンはローブを少し持ち上げると、そこから二人の人を合体させて魚の形にし、胴から蛸の足を生やしたものが出てきた。


 ダントにドク……。


 出てきたものに付いていた顔の二つはダントとドクで、二人は恍惚とした表情をしていた。


『いや、結構だ……』


『そうか?自信作なのだがな……』


『クトゥン、何故彼らをこんな姿にしたんだ?』


『こやつらはワシを見た瞬間、言葉はわからんが二人して楽になりたいという雰囲気になったので叶えてやったんだ。まあ、代わりにワシの領域のペットになってしまったが、こやつら幸せそうな顔をしているだろう?』


『……ああ、そうだな』


『後、もう一人いたんだが、綺麗になりたいというから我が国の住民達の間で流行ってる姿にしたら喜んでいたよ』


クトゥンは、蛸の目を細めこちらを見てくる。


『……俺は別に何もしてくれなくて良いぞ』


『む、それは、残念だ……。それなら他のペット達をやるぞ。それとも住人の方が良いか?』


 そういうとクトゥンは次々と異形のものを出してくる。

 そこには冒険者ギルドで受付をしていたナルも混じっていた。


『いや、気持ちはありがたいが遠慮しておく。それより、クトゥン、そろそろ自分の家に戻った方が良いと思うんだが』


『むむ、何故だ?せっかくこちらのセンスのない建物や生き物を素晴らしいものにしてるのだがな。あの空だって何故青いんだ?気持ち悪くないか?』


『クトゥン、言いたいことはわかるが、ここは隣人の庭と同じ様な所なんだよ』


 俺がそう言うと、クトゥンは目を見開き慌てた様子になった。

 何故なら不死の領域では隣人の国に許可なく侵入や、弄るなどしてはいけない協定がされているからだ。


『えっ、本当なのか?むむ、それは悪い事をしてしまったな。こちらの隣人は相当怒るであろうな……。参った……』


 クトゥンは相当まずい事をしたと自覚したのか目を閉じ座り込んでしまうが、それを見た俺は内心ホッとしてしまった。

 何故なら先程から会話をしていたが、いつ俺もダント達みたいな姿にされるかヒヤヒヤしていたのだ。


 会話さえ通じればまともな住人だな。

 アンクルの言っていた通りだった。


 俺はクトゥンの側に近づき声をかける。


『それに関しては気にする必要はない。こっち側のものが勝手にクトゥンの庭に門を開いたのが悪いんだからな。こちらのものがクトゥンを咎めることはないから安心して欲しい』


『おお、それは良かった……。それじゃあ、ワシはそろそろおいとましようかな』


『ああ、その方がいい。家のもの達も心配してるだろう』


『ああ、そうであった!大事な彼らを忘れるところだったよ。本当にありがとう』


『気にするな。ところでそっち側にこちらの生き物が入らなかったか?』


『来たよ。手伝おうかって声をかけたけど無視されてしまった。あれは悲しかったなあ』


『それは酷いな。そいつには今度会ったら怒っておくよ』


『いや、いいさ。その気持ちだけで満足だ。さて、ワシは帰るとするが、ちょっと問題があってね……』


 クトゥンは周りにいる自分が作り出したペットや住人達を見る。

 こいつらはクトゥンの力でも不死の領域に行けない為、殺して送ってやらないけないのだ。


『安心してくれ、彼らは俺が送ってやるよ。そのかわり戻ったら門を閉じてくれるか?』


『おお、悪いな。わかった、門を閉じるんだな。わかったよ』


 クトゥンはそう言うと鼻歌を歌いながら真っ黒い空間に向かって歩いていき、しばらくすると真っ黒い空間は跡形もなく消えてしまった。

 それを確認した俺は大きく息を吐く。


 ……とりあえず、一番の脅威は去ったな。

 後は、こいつらだがどうするかな。


 俺は目の前にいる元、人だったもの達を見ていると、後ろからサリエラとオルトスが駆け寄ってきた。


「キリクさん、あなたはいったい何者ですか⁉︎」


 サリエラは凄い勢いで俺に詰めよってくる為、俺はサリエラの両肩を掴み距離を離す。


「最近、スチール級にランクアップしたソロ冒険者キリクだ」


「おお、めでたいじゃねえか!こりゃ、良い酒で乾杯だな」


「オルトスさん!乾杯だなじゃありませんよ!何でキリクさんが向こうの言葉らしきものを喋ってるのを気にしないんですか⁉︎」


「そりゃ、勉強してるって言ってたろ」


「べ、勉強で向こうの言葉ですか⁉︎不死の国に関して疎い私でもわかります。不死の国の言葉を喋れる人は大昔にいた大賢者様しかいないはずです!」


「……それはお前が知らないだけだ。死霊術師の幹部辺りはおそらく喋れるはずだ。俺は前に奴らから本を盗み出して学んだんだ。まあ、その後、魔物と戦った際にうっかり失くしてしまったがな」


「そ、そうなんですか?」


「……ああ、そうだ」


「わかりました。疑ってすみませんでした」


 サリエラが謝りながら頭を下げる姿に少しだけ罪悪感を感じてしまう。

 なんせ、今言った事は全部でまかせだからだ。

 死霊術師は所詮、タナクスと契約をした際に多少、言葉を理解できる様になる程度なのだ。

 俺はサリエラの顔を見ないように言う。


「……気にするな。それよりこいつらをどうにかしないとな」


 俺はさっきまで人だった者達をみる。

 彼らは皆んな動く事なくボーッとした表情をしているが、攻撃を始めたら確実に本能で反撃をしてくるだろう。

 サリエラとオルトスなら倒せるだろうが、なにぶん数が多い。

 おそらく二人だけではきついかもしれない。


 これは冒険者ギルドにいる高ランク冒険者を呼んだ方が良いかもしれないな……。


 俺はそう思い二人に話そうとしたら、遠くの空からとても強い気配を感じた。


 この気配は……。


「誰か来ますね」


 隣りにいたサリエラも気づき空を見上げる。

 そして、しばらくするとその気配は真っ直ぐにこちらに飛んできて、俺達の目の前に降りたったのだが、その姿は輝く鎧を身に纏い、美しい銀髪と金色の瞳をしたハイエルフの女性だったのだ。

 そんな彼女の姿を見て俺は懐かしさを感じていたが、隣りにいたサリエラは驚いた表情で彼女を見て呟く。


「勇者ミナスティリア様……」


 そう、俺達の前に降りたったのは勇者の加護を受けた勇者ミナスティリア・H・ナイトレイドだった。


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