019 異形化した元仲間
「大変! 助けにいかないと!」
サリエラは慌てて加勢しに行ってしまう。だが、俺は後には続かなかった。ある場所から漂ってくる異様な気配が気になったから。だからサリエラには悪いが気配がする方に向かうことにした。
ギルドの裏手か。
俺は壁から少しだけ顔を出し覗き込む。すると、そこには知った顔ぶれがいたのだ。
まず、俺がキリクになってから組んだ二つ目のプラチナ級パーティー、疾風の剣。
女受けしそうな顔の剣士の加護を持つリーダーのワーロイ。
場違いなドレスを着た魔術師の加護を持つケイ。
そばかすがチャームポイントだと言っていた商人の加護を持つマリィ。
顔以外は肌を見せない様にしている修道士の加護を持つルナの四人組である。
正直、関わりたくない連中である。なにせこいつらが俺が嘘吐きだと吹聴し回っている元凶だからだ。
そしてもう一人関わりたくない人物を見る。まあ、もう人じゃなくなっていたが。
ラーニャ……
ラーニャは首の部分から太くて長い蛸の足が八本生え、その足で地面を歩いており、本来ある腕や足はぶらぶらして飾り物みたいになっていた。
そんな、ラーニャだが、現在、疾風の剣と戦っている様なので、加勢するか迷ったが、とりあえずは様子見をすることにした。
◇◇◇◇
現在、疾風の剣はラーニャとの戦闘に苦戦していた。
「クソクソクソ!こいつアイアン級の分際でなんで強いんだ!」
「ワーロイ、もう、そいつは人じゃないって言ってるでしょ!」
「うるさい!ケイ!さっさと魔法で焼き殺せよ!」
戦闘中だと言うのに口喧嘩を始める二人にマリィは声を掛けようとしたが、ルナに止められる。
「マリィ、ダメよ。あの二人ああなると……」
「ルナ、どうしよう?斬ってもあの変な足は再生するし魔法はほとんど効かないし……」
「私の聖属性魔法まで効かないなんて……」
ルナがそう言ってラーニャを見ると、その視線に気づいたラーニャは笑い出す。
「いひひ!当たり前じゃん!私があんたらより強いだけだし!」
「ふざけんな!俺達はプラチナ級だぞ!」
「はっ?プラチナ級?ないない!あんた達そんな力ないよーー」
「なっ⁉︎」
「この素晴らしい身体になってからわかっちゃうのよー。せいぜいあんた達ゴールド、ううん、シルバー級ね」
「ふ、ふざけんな!」
真っ赤な顔になったワーロイはラーニャに向かっていき斬りかかるが、ラーニャの首から生えた蛸の足が素早く伸びてワーロイを掴み地面に叩きつける。
「ぐはっ‼︎」
「ちょっと力が強すぎた?殺すつもりはないの。皆んな私の様になれば力も強くなるし素晴らしい気持ちになれるわ。いひひ!」
ラーニャは心から嬉しそうに笑っているが、その目は正気を失っている様にしか見えなかった。
「よくもワーロイを!第二神層領域より我に炎の力を与えたまえ……ファイア・ボム!」
ケイの持つ杖から炎の塊が出てラーニャに当たり、ラーニャの身体を炎で包み込んだのだがすぐに消えてしまった。
「だから、効かないわよーー。さあ、もう遊びは終わり」
ラーニャは倒れているワーロイを一本の足で掴み持ち上げてからゆっくりとケイ達の方に歩いて行く。
「く、来るな化け物!」
「酷ーい。こんな美しくなれたのにー」
ラーニャは三本の足を素早く伸ばしケイ、マリィ、ルナの首に巻き付ける。
「「「……んん‼︎」」」
三人は何か喋ろうとしたが首がしまっている為、声を出す事ができない。
それを見たラーニャは笑顔で首を何度も縦に振った。
「そう、貴方達も私みたくなりたいのね。任せて。クトゥン様に頼んで超綺麗にしてあげる。あ、でも、私が一番だからね。いひひ!」
ラーニャの言葉にマリィとルナは恐怖の表情を浮かべ、ケイは白目を剥き失神してしまった。
そんな四人を軽々と持ち上げたラーニャは満面の笑みを浮かべながら四人を見つめる。
「さあ、皆んないきましょーー!いひひ!」
ラーニャは残った四本の脚で動き出そうとしたのだが、その時、何者かが自分に迫ってくる気配を感じ振り向いて驚く。
「キリク⁉︎」
「遅い」
俺はラーニャが振り向いたと同時に、蛸の足が生えてる部分より上の首を斬り落とし、地面に落ちたラーニャの眉間に銀の剣を突き刺した。
だが、それでもラーニャは死なず、目を見開きながら俺を睨むと叫んできた。
「キリクー!何するのよ‼︎」
「……これでもまだ死なないのか」
俺は銀色の試験管を出し、蓋をあけで中身をラーニャにかける。
するとラーニャの顔は徐々に溶け始めていった。
「な、何よ!これ⁉︎」
「これは聖なるものが沢山入った対不死薬だ。お前達は既にあちら側の生き物だから、こちらの神聖なものに抵抗ができないんだよ」
「な、なんで、あんたごとき力もない奴が私を倒せるのよ!」
「これは錬金術で作られたものだから、調合次第ではお前を倒せるぐらい強力になるんだよ」
「そんなあー!私は不死なのにーー‼︎」
「ああ、お前は不死になった。だから向こう側でまた復活するだろう。まあ、あっちでその自我をいつまで保ってられるかわからんがな」
「ううぅーー……」
ラーニャは何か言っていたが、顔が溶けゲル状のものに変わり、最終的にはラーニャの気配と共に消えてしまった。
ふう、終わった。
俺は一息吐き、倒れてるワーロイを見て溜め息を吐く。
起きる前に退散しよう。
俺はそう思いさっさとこの場から離れようとすると、マリィとルナが俺の方に駆け寄ってきてしまった。
「キリク、助かったわ!ありがとう」
「キリクさん、本当にありがとうございます」
「……ああ」
俺の反応に二人は笑顔だった表情が徐々に消えていく。
おそらく自分達のパーティーがしたことを思い出したのだろう。俺を嘘つきだと周りに広めたことを。
まあ、この二人は何も言ってない可能性はあるが……。
なんせ、この二人は俺がやめる最後まで文句や悪口などは言わなかったからだ。
まあ、喋りもしなくなったがな。
俺はさっさと離れようとすると、意識が戻ったワーロイとケイが俺を睨みつけながら近づいてきた。
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