163 賢者は語る
あの後、何故か俺達は個室に移動させられミランダ達と一つのテーブルを囲っていた。
俺はどうしたものかと思い、サリエラを見ると何か話したいのか、先程からミランダをチラチラと見つめていた。
だが、ミランダはそれに気づいておらず、定期的に俺の匂いを嗅ごうとしてはフランチェスカに頭を叩かれている状況である。
そして、一番警戒していたリリアナはあれから話しかけてくる事もなく、黙々とケーキを食べ紅茶を飲んでいた。
正直、この状況にお手上げ状態の俺は味の感じない紅茶を黙ってちびちび飲むしかなかったのだが、ついにサリエラが覚悟を決めた表情を浮かべ口を開いた。
「あの、勇者様は南側に行ったらどうされるのですか?」
サリエラがそう質問すると、ミランダはやっと俺から顔を離し真面目な表情で答えた。
「あたし達はとりあえず迷宮都市ラビリントスに潜る予定なんだけど、もしかしたら進軍できないかもしれないんだって……」
「えっ、どうしてですか?」
サリエラは驚いて聞き返すと、ミランダの代わりにフランチェスカが優雅に紅茶を飲みながら答える。
「南側の領土を治める人物が渋ってるみたいですわ。もし、魔王ラビリンスを倒したらダンジョンで得られる収入がなくなるわけですからね。それに南の魔王は私達と敵対してるわけじゃないので、現在は上の方達がどうすべきか議論中という感じですわ」
「なるほど、でもダンジョンコアさえ壊さなければ大丈夫なんじゃないですか?」
「絶対、破壊しませんとは約束できませんからね。それに他にも問題があるのですよ」
「それは何ですか?」
「迷宮都市は今だに半分の階層も攻略されていないのと、魔王を四体倒したら、何が起きるのかわからないという事ですわね」
「攻略に関しましては理解できますが、魔王を四体倒したら何かが起きる可能性があるのですか?」
「わかりませんわ。けれど魔王がいなくなったらその上にいる存在が動く可能性もあるわけですわ」
「魔神グレモスですか……」
「ええ。だから、南の魔王は放置した方が良いと考える方々もいらっしゃるんです」
「確かにその考えもあながち間違いではないですね……。でも……」
サリエラが目を閉じて悩む仕草をする。
するとケーキを食べていたリリアナがフォークを置き、俺の方を見て言ってきた。
「放置はしない。なんせ問題があり過ぎる。あなたならわかるでしょ。研究狂いのノリス爺を唸らせた男、キリク」
リリアナはそう言うと笑みを浮かべて見つめてくる。
その目には俺が書いた報告書だけじゃなく、見た事や考えを話せと言ってきていた。
「……賢者様は何が知りたい?」
「まるっと全て。最初は、魔王の目的。キリクの考えで良いから聞きたい」
「報告書に書いた通り、中央に向かっている事しかわからない。ただ、目的を聞く方法はある」
「南の魔王に聞く」
「当たりだ」
「次に虫の魔物を生み出して操る存在ヨトスに関して。本当に神々?」
「精霊の言葉を話し虫系の魔物を生み出したのは確かだ。だが、勇者ではなくオルトス一人で追いつめれるぐらいの強さしかない奴を神々かと言われるとな……」
「じゃあ、キリクは違うと思っている?」
「正直わからないが本来、神々はこの世界に干渉できないわけだろう。なら、奴は神ではないはずだ……」
「でも、不死の住人は神々と言っていた」
「まあ、そこで考えたんだが、もしかしたらあの二足歩行の虫にヨトスという神が憑依していたらとな……」
「なるほど、抜け道ってこと……」
「ああ、一部のみならできるんじゃないかと……。なんせ神々の眷属がこの大陸に顕現できるわけだからな」
「なるほど。では、次に現れたら必ず捕まえて調べる」
「調べるには居場所を見つけないとな。検討はついてるのか?」
「南側に向かった形跡あり。魔王ラビリンスに会いにいくつもりなら好都合」
「だから放置できないか」
「そう、そして最後に失われた世界、旧ロゼリア文明。あると思う?」
「……俺はあると思ってるぞ」
「じゃあ、神々の話しは嘘?」
「いや、本当の部分もあるだろう」
「嘘を混ぜてる?」
「そう考えている」
「ふむ、わかった」
リリアナはそう言って頷くと再びケーキを食べ始めた。
要は話しは終わりという事だ。
おそらく、今、リリアナの中では俺の考えと自分の考えを照らし合わせてる最中で、そのうちまとまった答えがリリアナから出てくるであろう。
話しに入ってこなかったミランダ達もわかっているのか静かにリリアナを見つめていた。
そしてしばらくするとリリアナは俺の方を向き口を開いた。
「キリクと結婚する」
「「「「はっ?」」」」
リリアナの発言に俺達は全く同時に同じ言葉を発してしまった。
「だから、キリクと結婚する」
「……何故、そういう答えになったのか意味がわからんぞ」
「そ、そうですよ。キリクさんの魅力に気づかれるのは素晴らしいと思いますが、そんな大胆な発言は……でも、結婚かあ……ふふふ。わ、私も、一緒にき、き、き……やっぱりまだ言えないわ!」
サリエラは顔を両手で隠し、身体をくねくねした後、下を向いてしまう。
そんなサリエラを見たミランダはリリアナ以上に本能で危機感を感じ、椅子から立ち上がると叫んだ。
「駄目!キリクはあたしが目を付けてたんだよ!」
ミランダは唸りながらリリアナとサリエラを威嚇し始めると、すぐにフランチェスカがミランダの頭を引っ叩いて黙らせた後、リリアナを睨んだ。
「ミランダは黙ってなさい!リリアナ、あなたまでおかしくなったら勇者パーティーは崩壊よ!戻ってきなさい!」
「私は大丈夫。変態ミランダとは違って明確な理由がある。それはキリクと考えてるベクトルが一緒、つまりもう結婚するしかない」
「ああ、終わりましわ……」
フランチェスカは頭を抱え唸り出すが、そんな事を気にする様子もなくリリアナは俺に抱きついてくる。
すると、それを見たミランダも何故か抱きついてきた。
「おい、二人とも離れろ」
「恥ずかしがり屋。でも、気にしなくて良い。何故ならここは個室」
「リリアナ、離れてよ!匂いが混ざるでしょ!」
「キリクの匂い……くんくん、悪くない」
「ああっ!ずるい!あたしだって嗅ぎまくってやるう!」
リリアナとミランダはそう言い俺に鼻を押しつけて匂いを嗅ぎまくり始めた。
そんな二人を見て、もう何を言っても駄目そうだと理解した俺はポケットからスプレータイプの小瓶を取り出して二人の鼻先に吹きかけた。
するとミランダとリリアナは飛び上がりながら俺から離れ、床に倒れて転げまわりはじめたのだ。
「「くさああっーーーーい‼︎」」
「人体に害はない虫避けの薬だから安心しろ」
俺は呆れながらそう言うと、フランチェスカは鼻をつまみながら興味深々に小瓶を見つめる。
「……なるほど、次に二人が馬鹿な事をやったら、わたくしもこの手でいきますわ」
嬉しそうにそう呟くフランチェスカに俺は二人の事で苦労しているのだろうと思い、無言で使った虫避けスプレーを渡してやる。
すると、フランチェスカは大喜びして虫避けスプレーを握りしめ、何度も俺に感謝するのだった。
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