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156 元勇者は知らない


サリエラside.


「どうやら、まだ、死んでないみたいだね」


 そう言って神経質そうな顔と丸眼鏡をつけた中年の男性は呟く。

 私はそんな目の前の男性を見て驚いていた。

 なんせ、英雄譚にも出てくるグラドラス・レイフィールドその人だったからだ。

 だが、驚いた理由は別にもあった。

 それは突然、この場所に一人で鼻歌を歌いながら悠々と入ってきたからだ。

 そんな、グラドラスさんだが、周りを気にする様子もなくキリクさんの状態を眺めていると、オルトスさんが呆れた口調でグラドラスさんに声をかけてきた。


「お前、何しに来たんだよ……」


「何って興味深いものが建っていたから見に来たんだよ。そうしたら中々に面白い事になってるじゃないか。全く、最初から参加できなくて残念だよ。やはり、深淵を深く覗きこみ過ぎたのがまずかったらしいね」


「……相変わらずわけのわかんない事言ってんじゃねえよ。わかるように言え!」


「ふん、頭にボアの脳みそぐらいしか詰まっていない君に説明しても無駄だよ。それより見たまえ」


 グラドラスさんはそう言って鞄から細かい装飾がされた細長い薬瓶を出しオルトスさんに見せる。

 するとオルトスさんは髭を弄りながら答えた。


「魔王を倒した後の勝利の酒か?この空気では流石の俺も飲めねえぞ」


「……質問する相手が悪かったよ」


 グラドラスさんはがっかりした様な表情をすると、今度は私に見せてくる。

 しかし、私はかぶりを振った。

 正直、何かを考えている余裕はないからだ。 

 するとグラドラスさんは残念そうな表情を浮かべて言ってくる。


「仕方ない。答えを言おう。これはエリクサーだよ」


 グラドラスさんはそう言ってエリクサーを頭の上に掲げると、思わずみんな驚いた表情でエリクサーの方に顔を向けた。

 なんせ、世界に一本あるかどうかと言われる宝具以上に価値のあるものだからだ。

 そんなエリクサーをグラドラスさんは指先で持ち軽く振りながら私の前に差し出して言ってきた。


「キリクに使うといい」


「い、良いんですか?こんな貴重なものを……」


「この時の為に探して取っておいたんだ。つまり今が使うその時なんだよ」


 グラドラスさんはそういうと私の手にエリクサーを握らせてくる。

 私は思わずエリクサーを見つめて口元が緩んでしまった。

 なんせ、どんな怪我でも病気でもたちどころに治してしまう万能薬である。

 これを飲めばキリクさんは治るのである。

 私は早速、エリクサーの蓋を開けようとしたところ、グラドラスさんが思い出したように言ってきた。


「わかってるだろうけど、それネイダール大陸に一本しかないからこぼさないでね」


「えっ……」


 私はグラドラスさんにそう言われた瞬間。エリクサーを持っていた手が震え出してしまった。


「ど、どうしよう、手が……」


 私は落とさないように必死に震える両手で包み込むように持っていると、ミナスティリアさんが呆れた顔をしながら私の手に自分の手をそえてきた。


「全く、グラドラスが余計な事言うから震えちゃってるじゃないの!本当に勇者アレスのパーティーは駄目なのが多いわね……」

 

「ミナスティリアさん……」


 私は不安な表情をすると、ミナスティリアさんが私に頷いてきた。


「大丈夫よ。さあ、二人で飲ませましょう」


 私はミナスティリアさんの言葉に頷き、二人で慎重にキリクさんの口元にエリクサーを持っていく。

 しかし、直前でミナスティリアさんがはっとして手を止めてしまう。


「……過去に回復薬を飲ませて吐き出してしまった冒険者を思い出しちゃった。も、もし、飲み込めなくてこぼしたらどうしよう……」


 そう言うと今度はミナスティリアさんの手が震え出してしまう。

 確かに飲み込めなくてこぼしてしまったらキリクさんは助からない。

 その時、私はスノール王国でパン粥を口移しでキリクさんに食べさせたのを思いだす。

 だから、私はミナスティリアさんに向かって微笑むと言った。


「口移しでいきましょう」


「く、く、口移し⁉︎」


「はい、量的に二回やらないと駄目そうです。もし、ミナスティリアさんがお嫌なら私が二回やりますよ」


「だ、駄目!私もやるわ‼︎」


「では、私からしますので、次で良いですか?」


「い、い、いいわよよ、べ、別に!」


 私はすぐにエリクサーを口に含むと、キリクさんに口移しで飲ませる。

 すると、こぼれる事なく無事にキリクさんは飲み込んでくれた。


「ちゃんと飲んでくれました!」


 私はそう言ってミナスティリアさんを見ると、ほっとした様子になり、すぐに決意した表情を浮かべてエリクサーを口に含み、キリクさんに口移しする。

 するとキリクさんの顔色がどんどん良くなり、呼吸もゆっくりとだが、きちんとしだした。


「まあ、しばらくは安静だな……」


 そんなキリクさんを見て呟くと、グラドラスさんは後は私達に任せたとばかりにオルトスさんの元に行ってしまった。

 すると、代わりにサジさんがやってきて、キリクさんの状態を見ながら涙目になる。

 

「良かったですね、キリクさん……」


 サジさんはそう言って嬉しそうに笑うと、ファルネリアさんが笑みを浮かべながらこっちにやってきて私とミナスティリアさんを交互に見て言ってきた。


「ふふ、サリエラはわかるけどミナスティリアまでとはやるわねえ」


 ファルネリアさんはそう言ってキリクさんを見ていると、サジさんがファルネリアさんの耳元で何かを言った。

 その途端、ファルネリアさんはキッとサジさんを睨み、鳩尾に肘を入れてしまったのだ。


「ぐはっ!何故⁉︎」


「何で早く言わないのよ‼︎」


 ファルネリアさんはそう叫ぶと急いでミナスティリアさんからエリクサーの瓶を奪い取る。


「私もやるわ!」


 しかし、口に含もうとして中身がない事に気づくとファルネリアさんはへたりこんでしまった。


「しょんなぁーー……」


「あら、どうかしたのかしら、ファルネリアは?」


 ミナスティリアさんは髪をかき上げながら勝ち誇った様な表情をしだし、それを見たファルネリアさんは顔を真っ赤にしながら叫んだ。


「あなた知ってたの⁉︎抜け駆け禁止は忘れたの!」


「仕方ないじゃない。さっきまで確証はなかったのよ。でも、あの人だけしか言わない私の愛称を言った瞬間、ビビビって来ちゃったのよ」


「何がビビビよ!こうなったら……私の本気を出すしかないわね」


「何かしら、大人の階段を登った私に勝てるとでも?」


「ふん、たかだか口移しごとき痛くも痒くもないわ……。私はあなたに勝つ!」


 そう言いながらも、悔しそうな表情をするファルネリアさんにミナスティリアさんは近づきながら真剣な表情で言った。


「ファルネリア、私を相手にしては駄目よ。遥か高みにいる彼女と戦わないと……」


 ミナスティリアさんはなぜか悔しそうに、私を見できたので私は首を傾げる。


 なんの話をしているのかしら?


 私は首を傾げながらそんな事を思っていると、ファルネリアさんも私を見てきたのでとりあえず微笑んでおく。

 するとファルネリアさんはなぜかたじろいてしまい、ミナスティリアさんの肩を掴むと悔しそうに言ってきた。


「くっ……慈愛に満ちた微笑み。確かにあれは強敵だわ。認めたくないけど正妻の余裕ね……。でも、ネイダール大陸は一夫多妻よ!」


「だからって、ファルネリア、私は一番は譲る気はないわ」


「わ、私だって!」


「なら、わかるわよね」


「ええ」


「「共闘」」


 ミナスティリアさんとファルネリアさんはがっちり握手する。

 そんな二人をブリジットさんが側に来て呆れた表情で見つめる。


「全くいつの間にキリクを好きになったのかわからないけど、まずは本人の了承を得なきゃ駄目でしょうが……。いや、待てよ。上手く誘導すれば……」


 ブリジットさんは最後の方は呟くように言うとそっとオルトスさんの方を見るのであった。


◆ 次の話が気になるという方は


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