143 過去編23 聖オルレリウス歴3578年四ノ月
「ブレド、僕の魔法でこの国を滅ぼして良いかな?」
謁見の間を出るとグラドラスが開口一番に物騒な事を言いだす為、ブレドは慌ててしまう。
「ま、待てグラドラス!城の連中はあれだが、他は……」
「ブレド、他もだよね……。この国ってかなりの連中が腐ってんじゃないかな?」
グラドラスは不敵な笑みを浮かべ、眼鏡を拭き始める。
ただし、その目は全く笑ってない。
この姿は相手を責める時のポーズなのだが、元々病的な表情をしたグラドラスがこれをやると、ただ狂ってる男にしか見えず普通に怖いのだ。
案の定、ブレドはビクッとなり口を噤んだ。
まあ、言ってる事も間違っていないのでブレドは言葉に詰まり、何も言えないのもあるのだろう。
仕方ないな……。
「……グラドラス、それぐらいにしてやれ」
「アレスはあんな風に言われてて良いのかい?」
「理解しない奴には言わせとけば良い……」
正直、国王や宰相が何を言ってこようが、息子であるブレドには悪いが魔物が叫んでるようにしか聞こえない。
しかし、今日は久しぶりに宰相が人の言葉を喋ったのだ。
俺以外の勇者が現れたと……。
……なぜ、今なんだ?
俺の頭の中は疑問だらけだったが、まずは冒険者ギルドに行き情報を手に入れないといけない。
本当は飛んで行きたいが、城下町を飛ぶと城の連中がうるさいので俺達は足早に冒険者ギルドに向かった。
途中、町に住んでる人々や冒険者に声をかけられるので軽く手を上げて答える。
まあ、スノール王国も腐ってない部分はあるのだが……。
早くしないと腐り落ちてしまうぞ……。
俺は隣りを歩くブレドを見るとすぐに視線に気づいたブレドが声をかけてきた。
「どうしたアレス?」
「……いや」
俺は視線を外し、町中を見る。
いつかブレドがこの国の王になった時は手伝ってやるか……。
そんな事を思いながら町中を歩いていたらいつの間にか冒険者ギルドに着いていた。
中に入ると俺達はすぐにギルド長の部屋に通される。
「悪いな。話しは城を通さないと煩いんだよ」
目の前に座るローブを着た老女がブレドを睨みながらぶつくさ文句を言う。
「私に言わないでくれギルド長……。私は父上達とは違うんだ」
「だが、王族だろう。あのバカを早く引きずり降ろしてあんたが国王になんな。じゃないともっとバカな兄貴が愚王になってこの国を壊しちまうよ」
「そこは問題ない。兄上は前線で何も戦果なんて上げてないからな。むしろ魔王軍が攻めて来ないか日々怯えてるはずだよ」
「まあ、そうだったね。ちなみにうちの冒険者達にもあいつらより前に出ないように指示してるから、攻められたら速攻で死んじまうだろうよ」
「それでも父上には泣きつけないだろうよ。プライドだけはダマスカス級はあるからな」
「確かにね。そういやダマスカス級といえば、最近、アレス並みとは言わないが、力を持ってる連中が何人か現れてきたんだよ。だから近いうちにダマスカス級より上のランクが出来るかもしれないんだよね」
「ほお、それは凄いじゃないか。アレスもその上のランクになるんだろう?」
「もちろん。我が冒険者ギルドの顔でもある勇者様がならないわけないだろう」
「我が冒険者ギルドの顔ねえ……」
グラドラスとブレドがニヤニヤしながら俺を見てくる為、イラっとしたが文句を言えばどんどん話しが脱線しそうだったので俺はさっさと本題に入ることにした。
「……その勇者がもう一人増えるんだろう」
「そうそう、レオスハルト王国が隠してたみたいなんだよ……」
「隠してた?」
「ああ、二年ぐらい前にレオスハルト王国の領土内の精霊の森に住んでいたハイエルフの子が十才になった時に勇者の加護が現れたらしいんだ。神託もなくね。それでしばらくレオスハルト王国で預かったんだが、思ったより力が伸びなかったらしい。それでアレス、あんたに預けたいと向こうから強制というなの打診が来たんだよ」
「……俺に預けたい?」
「つまり、あんたが育てろって事だ。というわけで案内するからついて来な」
ギルド長が有無を言わせぬ勢いでそう言う為、俺達は仕方なくギルド長の後ろをついていくと鍛錬場に案内された。
鍛錬場には既に武器を振ったり、模擬稽古をしてる冒険者がいたが、その中に一際目立つ人物がいた。
俺がギルド長を見ると頷かれたので、その人物の方に歩いていくと気配に気づいたのかすぐに振り向いて俺を睨んできた。
なるほど……。
俺は目の前に立つ銀髪を肩まで伸ばしたハイエルフの美しい少女の目を見て納得する。
その目は勇者の加護を象徴する金色だったからだ。
しかも目を見た瞬間、何故かわからないが同じだとわかったのだ。
ただ、向こうは俺がフルプレートで顔を隠してるからか理解してない様子で、俺をひたすら睨み続けていた。
その為、仕方なく俺はギルド長を見ると呆れた表情をされこっちに来て俺を指差しながら喋りだす。
「このリビングデッドみたいなのは敵じゃないから安心しな。この人はあんたの先生になってくれるんだよ」
「先生?じゃあ、この人が勇者アレス?」
「そうだよ。というかこの姿を見て知らないのかい?有名なんだがねえ」
「興味なかったから。それに見る暇もなかったし……」
そう言うと少女は下唇を噛み、悔しそうな表情をした。
しかし、すぐに俺の方を向き話しかけてくる。
「私は強くなれるの?」
「なりたいのか?」
「当たり前でしょう。勇者は誰よりも強くなければいけないんだから」
「……そういう風に誰かに言われたのか?」
俺がそう言うと目の前の少女は驚いて俺を見てくる。
どうやら言った事が当たったらしい。
「そいつが言ったのは嫌味って言うんだ。まともに聞く必要なんかない」
「でも、あなたは最初から強かったって……」
「俺は俺でお前はお前だ」
「……」
「それにいくら努力しようと間違ったやり方なら強くはなれないぞ」
俺は手のひらに魔力を込め、少女に見せてやると、少女は俺の手のひらを食い入るように見つめてきた。
「……凄い。魔力の密度が異常じゃないの」
「ただ身体を動かすだけじゃ駄目だ。魔力を練り上げる鍛錬はしたか?」
「してない……」
「お前の魔力量ならこの程度はできるはずだ。まずはこれから学んでけ」
おそらく今、俺の手のひらに集まっている魔力はこの冒険者ギルドくらいなら吹き飛ばせるだろう。
ギルド長を含め周りで怯える様子があった為、魔力を消すと少女は残念そうに俺の手を見つめるが、その表情は先程とは違って生き生きとしていた。
これが勇者アレスと勇者ミナスティリアの初めての出会いであった。
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