142 過去編22 聖オルレリウス歴3578年四ノ月
俺達は蒼狼の耳に護衛されながら無事、休憩ポイントに到着する事ができた。
休憩ポイントは魔物に滅ばされた小さな町の廃墟を再利用して作られていた。
瓦礫を積み重ねて作った壁、そして使えそうな建物やテントを利用して店などできており、日常生活はできる感じにはなっていた。
そんな中を歩いているとミランダが笑顔でテンジンに声をかけてきた。
「テンジンの爺ちゃん、冒険者のほとんどが今、出払ってるからまともな宿も使えるよ」
「いや、少し休んだらすぐに出発するつもりだ」
「えっ、急ぎなの?」
「場合によってはそうなるらしい」
テンジンは俺の方を見てきたので仕事内容を話して良いか悩んだのだろう。
だから俺が代わりに説明することにした。
「魔王がネクロスの書を手に入れた可能性がある。俺は不死の領域に関しての知識があるから最悪、対応できるかもしれないんだ」
俺がそう言うとリリアナが、ギョッとした表情で俺を見てくる。
「まさか、不死の門が開く?フローズ王国とレクタルの再来?」
「馬鹿な事言わないで下さいませ!この先は魔王のダンジョンしかありませんわ。呼び出すにしても生け贄に必要な人を何処からか攫って……」
「魔族や魔物がいる。魔王のダンジョンには沢山ね……」
「はっ?で、でも……」
驚いた表情のフランチェスカにリリアナは目を細めながら言った。
「狡猾の魔王ならやりかねない……」
「ああ、ネクロスの書があればそういう手順もいらない可能性があるんだよ」
リリアナの言葉の後に俺が付け足すと、その場にいた全員が驚いた表情で俺を見てきた。
「坊主、それやばすぎだろ……。もし、坊主の言った通りならそのネクロスの書ってのがあれば何処でも不死の領域に繋がる門が開けちまう可能性があるって事か?」
「あくまで可能性だ。ネクロスの書にはどんな事ができるかは正確にはわかっていない。だから、使われる前に奪うか破壊しなきゃいけないんだ」
「それを坊主……いや、キリクができると?」
「……俺は最悪対処ができるかもしれないってだけだ……」
「そりゃ、流暢に休憩してる暇なんてないんじゃないか……」
「いや、魔王のダンジョンに入る事も考えるなら体力は回復させてから行った方が良い。それに前線で戦ってる連中の力も信じてやれ」
「……そうだな。あいつらの力ならたとえ不死の領域の門が開こうが問題ないよな……。じゃあ、俺達は甘えさせてもらって少し休もうぜ」
「ああ」
それから俺達は宿でしばらく休ませてもらうことになったのだが、俺は横になってうつらうつらしながらも考え事をしていた。
サリエラやミナスティリア達は大丈夫だろうか?
無理をしてなければ良いがな。
それにしてもネクロスの書か……。
報告書には不死の魔王を生み出す可能性があると書いてあったがそんな事は可能なのだろうか。
いや、あり得るか……。
俺は不死の領域で世話になった住人を思い出し、そして祈るように目を瞑る。
「君じゃない事を祈る……」
俺はそう呟くと夢の中に落ちていくのだった。
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聖オルレリウス歴3578年四ノ月
西側の魔王を倒した俺達、勇者パーティーはこの頃は魔王軍のみと戦うわけではなく各地のいざこざにも対応していた。
そんな中、フローズ王国に突然、不死の住人が現れ暴れまわった挙句に他国にまで侵攻しようとしたのだ。
その為、俺達はネルガンと戦いなんとか勝利したのだが、その際、不死の領域に踏み込んでしまったのだ。
しかし、別の不死の住人の協力により何とかして俺達はネイダール大陸に帰ることができた。
それからしばらく経ったある日、スノール王国の城内で、オルトスが俺に突っかかってきたのだ。
「おい、お前はあの日いったい何したんだ?」
「……何のことだ」
「ふざけんな。あんだけこっち側には戻れないって言ってたのに何でいきなり戻れたんだよ?」
「戻れるタイミングがあったのだろう」
「他人事だな……」
「戻したのは彼女だからな」
「答える気がないのか?」
「俺は知らん」
「ちっ……」
オルトスは大きく舌打ちすると俺から離れていくが、それを隣りで見ていたグラドラスが声をかけてきた。
「本当の事を言わなくて良いのかい?」
「あいつはああ見えて情に熱い男だからな。知ったら後悔するだろう」
「まあ後悔より、理解できなくて混乱すると思うけどね」
「ありえるな……」
俺もグラドラスも苦笑いする。
もう、二十年以上も一緒に行動を共にしている為、パーティーがどんな事を考えているかお互いにわかっているのだ。
だからこそ俺が絶対に何も言わないとわかったオルトスは諦めて、今頃、酒でも飲みにいってるのだろう。
「オルトスはほっとけばいい。それに魔王と戦う力はあるんだから問題ないだろ」
「……アレス。君は戦う以外に何かないのかい?」
「俺にはそんなもの必要ない」
「ふう、これなら不死の領域にいた方が君にとっては良かった気がするね」
「だが、戻って来たんだ。諦めてまた戦いの日々に戻るさ。それより面倒な奴らに呼ばれてるんだ。さっさと行こう」
俺はそう言うと、グラドラスは手をすくめて言ってきた。
「わざわざ謁見の間に呼ばないで伝令を送ってくれれば良いんだけど、そんなに自分達が僕達を動かしてるって思わせたいのかね……」
「国としての体裁を保ちたいんだろう。まあ、ブレドの為に合わせてやろう」
「さすがみんなの勇者様は誰にでもお優しいですな」
「だろ」
「そのまま、謁見の間でもお優しい勇者様でいて下さいよ」
「善処する」
俺は手をすくめて見せると、グラドラスは眼鏡を軽く持ち上げた後、笑みを浮かべた。
その後、城の謁見の間に向かうと、早速、国王ノマットと宰相バズールのいつもの見下す表情がお出迎えしてくれた。
「相変わらず居心地悪いねえ。いつも来ないオルトスが羨ましいよ」
隣りでグラドラスが小声で愚痴を言ってくる。
「まあ、すぐにブレドが来るはずだ」
俺がそう言った後にすぐにブレドが謁見の間に入ってきた。
「すまん、息子達に稽古を付けてきた。父上、話しとは何でしょう?」
「ふん、まずは依頼した魔王討伐の件だが、全く進展してないようだな」
「それはフローズ王国の対処をしていたからですよ」
「不死の住人とやらが現れたというやつだろ。そんなものフローズ王国の問題なんだから我がスノール王国の問題じゃないだろ!」
「何を言っているのですか!あれをそのまま放置していたら、我がスノール王国も危険だったのですよ!」
ブレドはこめかみに青筋を立てながら、自分の父親であるノマットを睨むが、ノマットは蔑む笑みを浮かべながらブレドを見て口を開く。
「全くお前はそんな嘘を良くもつけるな。もう一人の息子とは大違いだ」
「嘘だと……。どういう事ですか⁉︎」
「お前達が姿を消してからフローズ王国に我がスノール王国の軍を向かわせたら、不死の住人とやらは一人もいなかったぞ!」
「それは、アレスの宝具を使用して跡形もなく倒したからですよ」
「ふん、嘘をつくな。お前達はそれに乗じて何処かで遊んでいたんだろうよ」
「私達は不死の領域に囚われていたんです!」
「黙れ!お前達が遊んでる間に兄のグドルフは前線でも戦果を上げているぞ!見習え!」
「くっ……」
「ブレド、何を言っても無駄だ。行くぞ」
悔しそうに歯軋りするブレドに声をかけて、謁見の間を出ようとするとバズールが俺に声をかけてきた。
「そうだ、勇者殿。冒険者ギルドから伝言です。どうやらもう一人の勇者が現れたらしいですよ。役に立たない誰かの代わりに活躍してもらえれば良いんですがねえ」
「……」
俺は一瞬足を止めたが再び歩き出すと、すぐにノマットとバズールの嘲笑するような笑い声が謁見の間に響きわたったのだった。
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