141 元教え子
あれから、無事に岩場を抜けることができ、護衛をしてくれた無色の蜥蜴のパーティーに礼を言うと、休憩ポイントに向かって歩き出した。
「ここからは魔物はほとんど出ないぞ。なんせ休憩ポイントには化け物冒険者が沢山休んでるからな」
「いや、今は進軍してるからほとんど出払ってるはずだぞ、テンジン」
「ああ、そういやそうだった……」
「おい、大丈夫なんだろうな?」
俺の質問に二人はすぐに顔を逸らしたので理解した。
仕方なく、立ち止まって周りを見回してみると案の定、先の方にオークの大部隊がうろついているのが見えた。
「やべえぞ、テンジン。オークジェネラルが混じってる部隊じゃねえか。あれじゃあ先に進めねえぞ⁉︎」
マークスが隣りで同じ場所を見て焦っていると、テンジンが胸元から小さい笛らしきものを取り出した。
「安心しろ。進軍に参加してないあいつなら多分この距離なら聴こえて来てくれるはずだ」
そう言うとテンジンは口元にそれを持っていき力いっぱい吹くが音は全く聞こえず、マークスは呆れた表情でテンジンを見つめた。
「ああ、ついにボケちまったかテンジンの野郎……」
「いや、あれは犬笛だろ」
「坊主、正解だ」
「魔物でも飼い慣らしてるのか?」
「あいつは魔物よりタチが悪いぜ」
そう言ってテンジンはニヤリと笑う。
それから俺達はオークの大部隊に見つからないようにしばらく隠れていると、突然、オークの叫び声が聞こえてきた。
「お、来たみたいだな。見ろよ、驚くぜ」
テンジンは嬉しそうな表情を浮かべながらある方向を指差す。
俺はそう言われ指差した方向を見ると槍を持った一人の少女がオークの部隊と戦っていた。
しかも、よく見るとその人物は俺が良く知っている人物だった。
まさか、あいつだったとはな……。
俺は複雑な心境で戦っている少女を見ていると、最後に立っていたオークジェネラルの首を突いてあっという間に倒してしまい、こちらに手を大きく振ってきた。
「あー‼︎やっぱりテンジンの爺ちゃんだ‼︎」
そう大声で叫びこちらに駆け寄ってくる獣人の犬耳族の少女は、ネイダール大陸に現れた三番目の勇者でもあるミランダ・ラースだった。
「助かったぜミランダ嬢ちゃん。お前さんがくれたこいつをこんなに早く使うことになるとはな……。すまねえ」
「気にしなくて良いよ!いつも物資を運んでくれるんだから気兼ねなく使ってね。まあ、来れないこともあるからあてにされすぎても困るけど」
「そこはわかってるさ」
「おい、テンジン。どういう事だ?ワシはその笛の件は聞いとらんぞ」
「ああ、マークス、これは俺がミランダ嬢ちゃん達の専用物資を運んでるからもらえたんだ」
「専用物資だあ?」
テンジンがニヤリと笑うとマークスはしばらく考えたがわからないようだったらしく、降参のポーズをした。
すると何故かテンジンは俺を見て答えてみろと目で言ってきた。
「……菓子にいたずらができそうな魔導具だろ」
「なっ⁉︎当てやがったぞ!まさか坊主は精霊眼持ちか⁉︎」
「いやいや、あたしと同じいたずら大好き族だとみたね」
驚くテンジンと嬉しそうに見てくるミランダに俺は首をゆっくり振った。
「そんな力はないし、そんな種族は知らん」
というかこいつはまだそういうことをしてるのか……。
俺が呆れてミランダを見ると、急に俺の側に駆け寄り鼻を俺の身体に近づけながら匂いを嗅ぎ始めた。
「クンクン……。うーん、なんか懐かしい匂いがしたんだけど気のせいかな?」
ミランダは首を傾げながらまた、匂いを嗅いでこようとしてきた。
そういえばミランダは誰よりも五感が優れているんだったな……。
「……気の所為だろ」
そう言いながら俺はこれ以上匂いを嗅がれたくなかったので後ろに下がる。
ミランダは一瞬残念そうな表情をしたが、すぐにあたりを見回しはじめたので俺も同じ様に見ると、こちらに知った顔が走ってくるのが見えた。
フランチェスカ・ロッケンハイムにリリアナ・レルディール、三番目の勇者パーティー、蒼狼の耳か。
俺は懐かしさと共に申し訳ない気持ちになってしまう。
教える事は全て教えたが、あの件でアレスは死んだことになり、俺は三人を騙して離れていっていったようなものだからだ。
俺が生きてるなんて知ったら、こいつらはどう思うだろうな……。
俺がそんな事を考えていると先頭にいたフランチェスカが金髪縦ロールをなびかせながら、重鎧を着た状態でミランダに駆け寄り体当たりした。
「うはっ!」
ミランダはかなりの距離を飛んで転がっていくが、すぐに立ち上がるとフランチェスカに詰め寄りながら叫ぶ。
「何すんのさ‼︎」
「ミランダ!あなたはいつも一人で突っ走って!少しは待つ事を覚えなさい!」
聖騎士の加護を持ちこのパーティーのリーダー的な役割りを持つフランチェスカはミランダを睨みつける。
すると次に到着した賢者の加護を持つリリアナが銀髪を手櫛しながら、ミランダを見て呟いた。
「この子は本能で動く……。何を言っても駄目」
「でも、いつかは……と思っていましたけど無理ですわね……」
「そうそう、二人共あきらめなよ!あははは!」
「「お前が言うな」」
ミランダは二人に突っ込まれるがそんな事は気にする様子もなく大笑いする。
そんなミランダに俺は呆れた表情をしていると、ミランダはハッとして周りをキョロキョロしだした。
「……今、懐かしい視線を感じた気が」
「気の所為ですわ。それよりテンジンさん達は休憩ポイントに行くのなら護衛しますわよ」
「フランチェスカの嬢ちゃん、助かるよ」
「おまかせを。では、ミランダが先導よろしくですわ。わたくしは彼らを守ります」
「はいよ!じゃあ、みんな行くぞー!」
ミランダは拳を振り上げながら先頭を意気揚々と歩き始めた為、テンジンとマークスは安堵の表情を浮かべる。
もちろん俺も同じ思いだったが、それ以上に久々に見る三人が元気そうにしている事に心底ほっとするのだった。
◆ 次の話が気になるという方は
是非、ブックマークと下の方に【★】星マークで評価をお願いします
よろしくお願いします