132 再開と旅立ち
ファレス商会へ到着するとマルーとシャルル、そしてマリィとルナが駆け寄ってきた。
「なるほど、理解ある者か……」
俺が二人を見て納得しているとマリィが言ってきた。
「いやあ、ここの冒険者ギルドで掲示板を覗いてたら、マルーちゃんに声をかけられてねえ」
「ぼくが二人に声をかけたらトントン拍子に話が進んでパーティーを組む事になったんだよ」
「そうか、マリィとルナならしっかりしてるから大丈夫だろう。基本をしっかりと学ぶといいぞ」
「うん!」
マルーは元気よく答えた後、後ろで申し訳なさそうにこっちを見ていたシャルルの腕を引っ張り、俺の前に押し出す。
すると、シャルルはゆっくりと俺に頭を下げてきた。
「……キリク、マルーを助けてくれてありがとう」
「いや、俺も向こうに行っただけで何もできなかった。だから礼を言われる理由はない。それより身体はもう大丈夫か?」
「大丈夫よ……。ねえ、あっちであの人に会ったのよね……」
「ああ」
「そっか……。私ね、斬られる瞬間に謝られたの。ごめんなって」
「……」
「きっと、自分の中の何かを吹っ切る為に私を斬ったんだと思う……」
「だが、結局、あいつは吹っ切れなかったから、贖罪も込めて命と引き換えに魔王の残滓を消したんだろう」
「命と引き換えに……英雄として死ねたってこと?」
「ああ、お前が憧れたな」
「……そっか」
シャルルはそう言うと涙を流しながら嬉しそうに笑う為、俺は思わず目を逸らす。
……これで本当の嘘吐きになってしまったな。
だが、良かったな。
こんなにお前のことを思って泣いてくれる人がいてな……。
俺はそう思いながら自分が死んだ時、どれだけの人が涙を流すのだろうと考えてしまう。
しかし、すぐに被りを振った。
俺には……そういうのは似合わないし必要ないだろう。
なんせ、俺は勇者アレスじゃなく、ただのキリクなんだからな。
俺はそう思って口を歪めていると、マルーが俺の袖を掴みながら囁いてきた。
「……嘘吐き」
「……本当だ」
「……キリクは傷ついただけなのに?」
「シャルルは報われた。それで良い」
俺はそう言いマルーの頭を撫でると、シャルルの方に向けて背中を押してやる。
するとマルーはすぐに俺の方を振り返ったので被りを振ると悲しそうに俺を見つめた後、シャルルに向かって抱きつき泣きだしたのだ。
そんな泣いている二人をマリィとルナが声をかけたり背中をさする。
その姿を見てこいつらなら大丈夫だろうと思っていると、ナディアが店の奥から現れた。
「なんか、騒がしいと思ったらキリクさん来てたんだ。てか、何であの子達泣いてるの?」
「……色々あったんだよ。それより、何か東側の情報を掴んでないか?」
「ふふ、とっておきのがあるわよ。東側にいる大勢の高ランク冒険者が前線に向かったわ。間違いなく進軍が始まるわよ」
「魔王の居場所を掴んだか……」
そうなると、招集はそれ関係か?
正直、もう簡単な依頼しかやりたくないんだが、あの国王は間違いなく厄介事を押し付けてくるはずだ。
謁見の間であったバラハルトを思い出し溜め息を吐いたのだが、その際、少しふらついてしまう。
そんな俺の姿を見たナディアは心配そうに声をかけてくる。
「大丈夫なのキリクさん?あまり、顔色が良くない気がするけど……。もしかして何処か怪我してるんじゃな……」
「……いや、もう完治してるから大丈夫だ」
「……それなら良いんだけど。それでこれからどうするつもりなの?」
「レオスハルト王国に行くつもりだ」
「もしかしてキリクさんも何かしらに関わるの?」
「用件次第だな……」
「そう、無理はしないでね……」
「ああ、それより、二人の事は頼んだぞ」
「ええ、ファレス商会がしっかり支援していくから、キリクさんのランクなんかすぐに追い越しちゃうわよ」
ナディアはそう言いながら俺にウィンクしてきたので俺は手をすくめてみせる。
「間違いなくすぐに追い越されるさ」
「ふふ、冗談なのに本気にしちゃ駄目よ。それより……」
ナディアは急に笑みを浮かべながら近づいてくると腕を絡めてきた。
「キリクさん、ねえ、あなた獣人都市ジャルダンに行ったんでしょ?」
「……まあな」
「それで、どうやったら獣人都市ジャルダンと繋がる事ができるのかしら?」
「はあ、この国のトップに聞いてくれ」
「へえ、なるほどねえ」
ナディアは急に俺から離れ、考えるような仕草をしながら部屋の中を行ったり来たりしだしたので、俺は理解してしまう。
こいつは商会の力を使いブレドに接触しようとしていることを……。
まあ、あいつは仮面を被って町中をうろついてるから捕まえるのは簡単だろう。
だが、ナディアは俺を使ってブレドを呼びださせようとしてくる可能性もある……。
俺はそう判断すると、これ以上は長居するのは危険と判断し誰にも気付かれないよう、足早にファレス商会から出るのだった。
◇◇◇◇
ふう、マルー達に挨拶しなかったが、まあ仕方ないか。
俺はそう思って王都の外に向かっていると、マルーが駆け寄ってきた。
「キリク、何処に行くの?」
「東側だ。断れない用事ができてな……」
「……そっか。僕ね、ちゃんと冒険者として活動できるようになったら南側に行くんだ。だからね、キリクも良かったら……」
「マルー、勝手に行動したり判断するのは長くパーティーを組んだ連中の特権だ」
俺はマルーが話してる最中にそう言って遮ると、マルーは悲しげな表情を浮かべて俯いてしまう。
そんなマルーの肩に手を置くと俺は言った。
「組んだばかりのパーティーってのはちょっとした事で壊れやすい。今後は何をするにもまずはパーティーと相談しろ」
「……うん」
「それと俺はもう臨時以外は誰ともパーティーは組まない。だから、お前達の事は陰ながら応援するから頑張れよ」
俺はそう言ってその場を離れてると、もう、マルーは俺を追ってくる事はなかった。
それからしばらく王都の外へ向かって歩いていたのだが、急に力が抜けふらついてしまった。
少し休むか……。
俺は近くの壁に寄り掛か自分の両手を見つめる。
ザンダーとの戦いから身体に感じる違和感が徐々に強くなってきているのがわかる。
「最後になるかもしれないな」
俺はそう呟くと微かに震える両手を握りしめ再び歩きだすのだった。
三章完
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