112 王族ではなく賊
「ふざけんな!俺は王族だぞ!てめえら跪け!」
真っ青になって震える令嬢達の首筋にバターナイフやフォークを突き付けながらバタン達は叫ぶ。
それを見た俺はサリエラとブレイスに視線を合わせると、サリエラは一瞬で俺の横から消え、ブレイスはバタン達の後ろに慎重に回り込んでいく。
そして二人がバタン達の背後に移動したのを確認した俺は気を引くためにバタンの正面に立った。
「おい、お前達、御令嬢達を離せ」
「俺に命令すんじゃねえ!こいつらがどうなってもいいのか‼︎」
「その御令嬢達にほんの少しでも傷を付けてみろ。お前達だけじゃなく、村の連中も全員終わるぞ」
「なっ、てめえ王族である俺を脅すのか!」
「お前は王族じゃなくただの賊だろ。死にたくなかったらおとなしく投降しろ。そうすれば死なずに済むかもしれないぞ」
俺がそう言うと、バタンの後ろにいたウッドとボロインの二人は死にたくなかったのか、フォークを持つ手が緩んで令嬢達の首から少し離れた。
それを見た俺はサリエラとブレイスに目で合図を送ると、二人は素早くウッドとボロインの背後に周りこみ、首筋に一撃を入れた。
「ぐげっ」
「がはっ」
二人に一撃を入れられたウッドとボロインは変な声を上げながら崩れ落ち、床に倒れて動かなくなる。
「な、なんだ⁉︎」
突然、倒れたウッドとボロインにバタンは状況がわからず慌てだし、持っていたバターナイフを令嬢から離してしまう。
俺はそのチャンスを逃すわけなく、すぐにバタンの腕を掴むと捻り上げながら投げ飛ばした。
「痛えーー‼︎」
床に倒れたバタンの腕は変な方向に曲がっていたが、気にせずに顔を蹴り上げてやると歯が何本か飛び、バタンは気絶して静かになった。
これで終わりだな。
さてと。
俺は軽く手を叩き皆んなの意識を俺に集中させる。
「皆様、賊は退治しましたのでもう安心ですよ」
そう言って軽く会釈すると、すぐに会場内に拍手喝采が巻き起こった。
俺は拍手喝采している連中に順番に頭を下げているとサリエラが俺に駆け寄り抱きついてきた。
「コール様!」
「サリー、大丈夫だったか?」
「はい、私よりコール様の方が!どこか痛いところはありますか⁉︎」
「怪我は完治してるから大丈夫だ」
「良かった……」
サリエラはほっとした表情になりながらも、俺の身体を調べるように触り、怪我がないのがわかると、涙目で見つめてくる。
そんなサリエラに俺は目が離せなくなってしまい、しばらく見つめ合ってしまうが、近くで咳払いが聞こえ、慌てて我に帰り咳払いした方向を見ると、ブレイスが羨ましそうな顔で話しかけてきた。
「邪魔して悪いんだがアルマー公爵令嬢がコール辺境伯に話しをしたいと……」
「……わかりました。サリー、少し離れてもらって良いかな……」
「……はい」
サリーは名残り惜しそうに離れるも、すぐに俺の腕にしっかりと手を回してくる。
するとそれを見ていたフィーリアルが少し頬を赤くしながら、俺達の方に歩いてきた。
「まあ、熱々ね。羨ましいわ」
フィーリアルが目を輝かせながら両手を組みそう話すと、サリエラは何故か悲しそうな表情になり静かな口調で語りだした。
「……すみません、コール様とは最近まで離れ離れでしたから。つい嬉しくて……」
「それはお辛かったでしょう……。では、お二人の為に最高のお部屋を用意致しますね。部屋の作りも眺めもバッチリな場所よ」
「い、いえ、今の部屋で十分……」
「アルマー公爵令嬢、ありがとうございます!」
俺が慌てて必要ないと言おうとしたのだが、サリエラが途中から大きな声を出しながら遮ってきた。
しかも、何故かこれ以上俺に喋るなと強い圧も放ってくる。
「良いのですよ。今日は沢山の思い出を作って下さいね。それと、明日ですが改めてお礼をさせて下さい。そうだわ、朝食をご一緒にしましょう」
「……わかりました」
「では、シュタイナーズ第二王子、二人の邪魔をしない様に私と一緒に向こうのお客人達と話しでもしませんか?それと、私、あなたに少し興味ができましたわ」
「お、俺?」
「ええ、嫌ですか?」
「い、嫌なんかじゃないです!」
「では、向こうに行きましょう」
そう言うと、フィーリアルはブレイスと一緒に他の客人達のいる方に歩いていってしまった。
「コール辺境伯、お見事でしたね」
二人が去った後に今度はリズペットが俺達に話しかけてきた。
「第二王子とサリーのおかげですよ」
「ふふ、確かにお二人の動き、特にサリー様の動きは凄かったですね。もしかして冒険者でもしてましたか?」
「リズペット嬢、それも含めて先程の件の続きをしたいのですが……」
「わかりました。ただ、今日はわたくしも考えたいことがありますので、明日、あなた方とフィーリアル様との話しが終わってからにしませんか?」
「構いませんよ」
「ありがとうございます。ではコール辺境伯、サリー様、また明日です」
リズペットは俺達に頭を下げるとパーティー会場から出ていった。
「コール様、では私達も行きましょうか」
サリエラはそう言うと、近くにいたメイドがすぐに俺達をフィーリアルが用意してくれた部屋まで案内してくれた。
そして中を見て驚いてしまった。
なんせ、フィーリアルが用意した部屋はピンク色づくしだったからだ。
しかも、ベッドはハート型で更にベッドに付いている天井には鏡が付いていた。
なんだこのベッドは……。
この天井に付いてる鏡は何の意味があるんだ?
俺がベッドを調べていると、浴室を見に行っていたサリエラが俺を呼んできた。
「キリクさん、なんか色々ありますよ」
「今度はなんだ?」
俺も浴室に向かうと、何故か浴室にはマットが置いてあった。
「何故、マットが浴室にあるんだ?」
「床が滑るからじゃないでしょうか?」
「なるほど」
「それと、このボールですがお湯を張ってから入れると泡風呂になるらしいです」
サリエラは案内してくれた侍女から渡された紙を見ながら喋る。
俺も紙を見させて貰うと、どうやら、ここにあるものは全てフィーリアルが作った商会が取り扱っている商品という事がわかった。
「商売上手だな……。それより何故、泡風呂にするんだ?身体をまた洗わないといけなくなるだろ?」
「どうやら、疲れを取る成分が入ってるみたいです。キリクさん、これは使いましょうね!」
「あ、ああ」
「それと、これも使いましょう」
サリエラが指差した場所には沢山の色が付いたキャンドルが置いてあった。
「それも何か効果があるのか?」
「このキャンドルは火を着けると良い香りがしてリラックスできると書いてあります。それに明かりをキャンドルの炎だけにすると更にリラックス効果が倍増するそうです」
「ほお、それは魔法いらずだな」
「ですね。では、早速、用意しますね」
「……ああ、でも俺は身体を拭くだけにするから、これはサリエラが使うといいぞ」
「何を言ってるんですか!病み上がりのキリクさんこそ使わなきゃ駄目です!」
「い、いや、俺は……」
「駄目です!用意しますからちゃんとお風呂に入って下さい!」
「わ、わかった……」
結局、言い負かされてしまった俺は、その後サリエラが用意してくれた浴室へと向かうのだった。
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