011 拳聖と飛竜の爪
「ん?ここは何処だ?」
「酒場だ、オルトス」
「お、その声はアレんんん……!」
俺は慌ててオルトスの口を塞いだ後に睨みつける。
「……今はキリクだ」
そう言ってから手を離すと、オルトスは必死に息をしようと凄い勢いで深呼吸し始めた。
「すーはーっ、すーはーっ……し、死ぬわ!まったくお前は何しにここに来た⁉︎」
「素材の買い取りを頼みたい」
「素材だあ?んーー、そりゃ無理だな」
「何故だ?」
「金がないし鍛冶屋は性に合わなくて辞めた」
「まさか、あれだけあった金を全部、酒に使ったのか?」
「おう」
「おうじゃない。とんでもない飲んだくれだな……」
「仕方ねえだろ。酒が俺を止めさせてくれなかったんだからな。ところでお前、今、金持ってるか?」
「ないからオルトスを頼ったんだ……」
「だよなあーー!わははっ‼︎」
そう言って馬鹿笑いするオルトスを見た俺はここに来た事を心の底から後悔した。
正直、レクタルからここまでの宿代等、痛い出費をしているのだ。
つまり、俺の懐具合は今は非常に寂しい。
これも、北側の魔王の呪いで勇者時代に使用していた収納空間を封じられ所持していたものが全部使えなくなってしまったのだ。
更に、装備していたものは勇者の加護持ちしか使えない為、加護無しになった俺では使えないので後続の勇者に上げてしまったのだ。
結局、俺の手元には北側の魔王討伐の報酬金しかなかったのだが、キリクとしてやっていく為に収納鞄、魔道具、装備品、錬金術の器具を購入したりしていたら、ほとんどなくなってしまったのだ。
おかげで俺は現在、極貧生活をしている状態である。
「……はあ、酒浸りってところで気づくべきたった」
「まあ、そう言うなよ。そんで、何持って来たんだ?」
「ドラゴンゾンビの骨一体分だ」
「なんだ、たいしたもんじゃねえな。まあ、仕方ねえから知り合いのとこに売りにいこうぜ」
「どうせ、ぴんはねするんだろ」
「良いじゃねえか。魔王討伐を一緒にした仲だろ」
オルトスはそう言うと俺の肩に馴れ馴れしく手を置きながらニヤニヤ笑う。
周りから見れば、今の発言は酔っ払いの戯言にしか聞こえないだろうが、実際にこの飲んだくれオルトスは北と西側の魔王を一緒に倒した仲なのだ。
「一緒に倒したかもしれないが、それとこれは関係ないだろ……。それよりオルトスはもう前線に戻らないのか?」
「ふん、あの扱いを受けてやれるかよ……。お前こそなんで冒険者を続けんだ?」
「まあ、俺は冒険者以外できないからな」
「そういうとこを利用されたんだろ。お前も俺もな」
オルトスが吐き捨てるように言ってくる言葉に俺は同意する。
なんせ、俺が勇者としての力を失った瞬間、上の連中の掌返しはなかなかだったのだ。
「……そうだな。それでも俺には他にやれる事がないんだよ」
「ふん、まあ良い。ところでグラドラスは何処に行ったんだ?」
「深淵を見に行くと行って旅立った」
「パーティー組んでた頃からあいつは変わんねえな。まあ、それならあいつから金は取れそうにねえな。わはははっ」
「……ふっ、そうだな」
オルトスの太々しさも相変わらずだと思ったが久々のこの雰囲気が心地良く、その後、軽く酒を飲みながら昔話しに花を咲かせたのだった。
◇◇◇◇
あれから、酒場を出た俺達はオルトスの知り合いの鍛冶屋があるところに向かった。
「前は俺がやってんだが、今は兄弟のボリスにやらせている」
「ボリスはここに移動したんだな」
「北側は今は色々あって居辛くなったらしいからな。おう、ボリスのやろういるか?」
「親方は奥です」
「じゃあ、ちょっと行かせてもらうぜ」
俺とオルトスは鍛冶屋の奥に入ると、オルトスと似たようなドワーフが金属を難しい顔で眺めているところだった。
しかし、オルトスはそんな事気にする様子もなく声を掛ける。
「おい、ボリス、客を連れてきたぞ」
「なんだ、オルトス、借金の肩代わりはしないからな……ってアレ……キリクの旦那じゃねえか」
「悪いな、ボリス。ドラゴンゾンビの骨を買い取ってほしいんだが、見てもらえるか?」
「お、それじゃあ、隣の広い場所に出してくれ」
俺は言われた場所にドラゴンゾンビの骨を出していくと、オルトスが骨の一本を掴み、じっくり眺めた後ボリスを見る。
「ドラゴンゾンビの骨だからあまり良いもんとはいえねえが……ボリスよ、少しは色を付けて買い取ってくれよな」
「オルトス、お前が倒した様な口調で言うんじゃねえよ。キリクの旦那、全部買い取るぜ」
「助かるよ、ボリス」
それから、ボリスに査定してもらい金をもらったのだが、結局オルトスにぴんはねされてしまったのだった。
「よし、キリクよ。早速、飲みに行こうぜ!」
「オルトス、少しは酒を控えろ」
「なら、バッカスの神に俺が酒を飲めなくなる様に言ってくれよ」
オルトスはニヤリと笑う。
ああ言えばこう言う奴だという事を思い出した。
まあ、一杯ぐらいなら良いかと思い、店を出ようとすると、会いたくない連中に会ってしまった。
「おいおい、こんなところに加護無しの役立たずがいるぞ」
「その隣りには有名な飲んだくれドワーフがいるな」
「ふふ、役に立たない二人はついにパーティーを組んだの?」
「やめてよ皆んなあ!ミミ、笑っちゃうわあ!」
そう言って俺達を馬鹿にする様に見てきたのは、キリクになってから最初に組んだ飛竜の爪というパーティーだった。
派手なマントを付けた男がリーダーで戦士の加護を持つロン。
装飾が沢山ついた兜と鎧を着た大柄な男が重戦士の加護を持つゴング。
星が沢山刺繍されたとんがり帽子とローブを着た小柄な女が魔法使いの加護を持つラン。
赤い髪を短くし露出狂なのかと思うような格好をした猫耳族の女獣人で狩人の加護を持つミミと、相変わらず四人は目がちかちかにごちゃごちゃ感が満載だった。
こいつら全然変わってないな……。
俺が呆れた表情をしていると、オルトスが面白いものを見つけたような顔で髭を弄りながら連中を見る。
「キリク、なんだこいつら知り合いか?」
「ああ。最初に組んだ田舎出身のパーティーだ。和気あいあいとやっていたが途中から慢心しだして注意していたら、俺を使えない役立たずだと周りに吹聴しだしたんだ。だから、こいつらが別の町に行くと言い出したタイミングで抜けたよ」
「そりゃ、抜けて正解だな。いや、一回でもパーティーに入った時点で汚点だから高い酒でしっかりと身を清めると良いぞ」
「あ?なんだドワーフのおっさん。昔、魔王を倒したからって良い気になんなよ」
「そうだぜ。飲兵衛は黙って安い酒飲んで静かにしてろよ」
「本当、酒臭いわね。早くこの場から消えてくれない?」
「ミミの大事な服に臭いが付いちゃうよー」
飛竜の爪パーティーはオルトスを睨んだり鼻を摘んだりして挑発しだす。
だが、オルトスは気にする様子もなく、ニヤッと笑った。
「おい、キリク。こいつら馬鹿みたいだから少し痛い思いした方がいいんじゃないか」
「やめておけ、オルトス」
「そうだ、ドワーフのおっさん、俺達飛竜の爪に喧嘩を売ったら怪我しちまうぜ!」
「馬鹿かロン。お前らが二度と冒険者が出来なくなるから止めてるんだ」
「あっ⁉︎俺達、プラチナ級が一年以上何もせずに毎日酒しか飲んでないやろうに負けると思ってんのか?」
ロン達はあからさまに馬鹿にしたような顔でオルトスを見るが、そんな事を気にする様子もなくオルトスはニヤニヤしている。
「どうせキリクがいたからプラチナになれたんじゃねえか?着てるもんだけはピカピカ光ってそれらしいぞ!おい、今、俺めちゃくちゃ上手いこと言ったよな‼︎わはははっ‼︎」
オルトスはロン達を指差しながら笑い、俺も心の中で上手いと言ってしまったがロン達は気にいらなかったらしい。
すぐに四人の目つきが鋭くなり気配が変わるのがわかった。
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