第28話「困惑と拒絶」後編
「え?ブリーフィング?」
「うん。急だけど」
「急すぎんだろ。1時間前って、いねぇのもいるだろ?」
「それも計算してるってことじゃない?」
「けど、今やるのか?まだ基地荒れ放題だぞ?」
「上の命令でしょ。それ以外に無くない?」
「……何か理由があるだろう」
「だったら良いけど……」
3日後、メイ達は召集を受け、ブリーフィングルームに向かっていた。
だが緊急事態ではないにも関わらず、この連絡を彼女達が受けたのは1時間前で、普段と違いすぎた。
「でもさ、何やるのかな?」
「それを今から説明するんでしょ、クリス」
「だって気になるもん」
「私もかな。こんな急なのって無かったから」
「メイ、早まるのは良くないよ」
「だって、知りたいんだもん」
「うんうん。ボクもだよ」
「2人ともさ……」
「おい、やめとけ。この2人がこうなったら面倒だぞ」
「……確かにな」
「うわ、酷い。私達こんなに可愛い女の子なのに」
「ねー」
「ねー」
そんなお巫山戯はさておき、7人揃ってブリーフィングルームに入る。
するとその時、メイは見知った顔がいないことに気づいた。嫌な顔の方もいないが。
「あれ?」
「メイちゃん、どうしたの?」
「ミーフェル、というより武装法務隊の人達は?」
「ん?知らないのか?」
「何を?」
「月に帰ったよ。えっと、一昨日に」
「え……」
「ミーフェルは挨拶に来てたでしょ?何か言いたげだったけど」
「そう、なんだ……」
メイは3日前のあの後からミーフェルと会っていなかった。そもそも、迷ってばかりで情報収集をしていなかった。
その結果、やってしまったことの後始末すらできなくなってしまった。
「……どうした?」
「ミーフェル、そうだったんだ……」
「メイちゃん?」
「何だ何だ?」
「メイ、何かあった?」
「それが、その……」
隠しきれないため、メイはミーフェルとの間であったことを話す。
周りには人がいるため小声かつボカして言ったが、全員が驚きを隠せない。
「あー……」
「……それは」
「そういう奴か、あいつも」
「そんな……」
「で、でも、ミーフェルちゃんは違ったり……」
「けどよ、アレやったやつと同じってことだろ?」
「そうなるんじゃない?やっぱり」
「だよね……あ」
メイには、仲直りをしたいという思いもある。だが、考え方があれだけ違ったのだ。通信したところで、同じ結果になるだけだろう。
直接会ってもそうなるかもしれない。それが彼女は怖かった。
「でもさ、それだと相当根が深くない?あたし達だと調べられなくなりそうだけど」
「……その通りだ。上の方が関わっている可能性はある」
「上の方っつうか、全体だろ。オレらは無視してるけどよ」
「だよね……じゃあ、どうするの?」
「どうしようもない気も……」
「……」
考えられることは色々とあり、6人は自らの意見を出し合う。完全な回答が出るわけではないが、心の安定のためにも必要だろう。
ただ、メイは黙っていた。あることに気が付いてしまったから。
「おい?」
「メイ、どうかした?」
「えっと、ちょっと考えてて……」
「どうしたの?」
「何なに?」
「その……マイリアって、どっちなのかな?」
「「「「「「……」」」」」」
それはある意味、凛斗と並ぶ1番の大問題でもある。
いや、直接的な影響力であれば凛斗を上回っている。
「いや、あいつは……」
「リントと仲良かっただろ?」
「皇族だからって、隠すところもあるんじゃない?」
「でも、メイちゃんなら分かるよね?初めて会ったのはずっと前だって言ってたし」
「うん。幼馴染みたいな感じだし……でも、マイリアが演技にしたら全然分からないから……」
「え?」
「演技って……それ、メイは知ってんじゃねぇのか?」
「後で教えてくれたから。演技してた時は騙されちゃったよ。だから……」
「……本気で隠されたら、嘘を吐いても分からない、か」
「うん……」
そんな皇女だから警戒し、親友だから信じたいと願う。
相反する2つの想いに挟まれ、メイは苦しんでいた。
「……難しいな」
「そうなるとさ、全員怪しく見えるんだけど」
「うん……メイちゃんはどう思ってるの?」
「信じたいよ。だって最初の友達で、2番目に理解してくれたんだもん。でも……」
「辛いよね……」
「んじゃ、悩まなきゃ良いんだろ」
「え?」
そこへ1つの答えを投げ込んだトランは、そのまま言葉を繋げる。
単純だが、甘く優しく、願いに合った答えを。
「マイリアを信じてぇんだろ?だったら信じれば良いじゃねぇか。疑う方が大変だぜ?」
「そっか、そうだよね……」
「良いこと言うじゃん。トランのくせに」
「メイのために言えるんだね。トランなのに」
「トラン君が役に立つなんて珍しいね」
「なんで貶すんだよテメェら!」
もっとも、言った当人は普段の行いのせいで散々な言われようだが。
まあそれで軽くなったのか、メイの顔は明るくなった。これなら悩みすぎることはないだろう。
しかし……
「いつまで無駄口を叩いている」
「「「「「「「っ⁉︎」」」」」」」
今、ここがどこかを忘れていた。
全く気付いていなかったのもあり、7人ともアルティス副長のセリフに思わず萎縮してしまう。まあ、声をかけられたのはメイ達だけでなく、ブリーフィングルームにいた他の面々もだが。
艦長や副長という進行役が遅れていたのをいいことに、誰も彼もが好き勝手していたのだ。怒られても仕方がないだろう。
「これから次の作戦のブリーフィングを始める。必要以上の発言は許さん」
結果、室内は静寂に包まれ、全員が聞く体勢を整える。緊張が伝播したのかもしれない。
そして、アルティス副長の声が力強く響き始めた。
「次の作戦は速度と連携が重要となる。急な召集となったが、普段通りの活躍を期待する。なお、この場にいない者達へは別の機会に説明するため、気遣いは不要だ」
これを聞いて、幾人かがホッとした顔を見せた。
今いない面々に責められるとでも思っていたのだろうか。
「まず、本作戦は極東特務軍団としての初めての作戦行動だ。ただし、今回の作戦は非常に困難なものとなる可能性が高い。全員、気を引き締めてかかれ」
新規というより特例的な編成であるため、軍団名は安直なものに決まった。
だが、組織内部は充実している。というより、充実し過ぎている。
「また、本作戦に参加する部隊は非常に多い。人と機体の双方においてだ。パイロット各自、コールサインと配置の確認は念入りにしろ」
メイ達に配られたものは簡単なデータだけだが、欄の数は非常に多い。それだけの人数がいるということだ。
この戦力を有効活用すれば、明けの明星にも勝てるだろう。
もっとも、これだけ数が多いと編成も指揮も難しいかもしれない。だが、これだけの数が集められたということは、問題をクリアしたということだ。
「今回の作戦目標は明けの明星へ打撃を与えること、特にエアーズおよびアクアの数を減らすことが主目的だ。デーモンシリーズを数機大破にできれば言うことは無いが、無理をする必要はない。ルシファーの脅威度は高いままであるため、以前と同じ対応とする」
ただし参加人数と比べ、作戦目標は地味だ。上層部には消極的、と言われるかもしれない。
しかし、戦力評価が不十分な相手に賭けを仕掛けるのはよろしくない。グラウデン軍団長はそう考えていた。
「敵母艦、推定超大型潜水艦に対する警戒も行うが、それは今回の主目的ではない。あくまでもついでだ。各員、覚えておけ。功を焦り死ぬような間抜けを晒したりはするな」
そういうわけで、スペックどころか存在すら定かではない母艦、蒼龍については無視することが決まっている。
その発言に対し、パイロット側からの異論はほとんど無かった。存在しなければ功を立てることはできず、他にやるべきことが山ほどあるため、当然とも言えるが。
最後に……
「そして、肝心の作戦だが……これだ」
作戦案を見せられた事による喧騒はしばらく止むことはなく、交わされた質問も多かった。
「そう、ですか……」
『はい。残念ながら……』
「分かりました。では、これからもお願いしますね」
『は!』
訃報では無いが、あまり良くない情報を知り、マイリアは一瞬表情を曇らせる。
それについては通信相手も気にしているようだが、このままでは現状を変えることはできない。
それを少しでも良くしようと、今後の行動を決めるため、通信は切られた。
「マイリア、そんなに落ち込まない方が良いよ」
「分かっていますよ、レグルト。ですが、この動きは想定より早い……先を越されましたかね。今からでは何もできません」
「あのこと、メイ達には?」
「今、何を伝えろと?このタイミングでは逆効果だと、レグルトも知っているでしょう」
「そうだけど。でもメイのことだから、まだ落ち込んでそうだよ?」
「流石にもう持ち直していると思いますけれど、あり得ますね。あの子ですし……初めに伝えるべきでした。リントがいた時に」
「そうだね……」
今さら後悔しても遅く、後戻りはできない。しかし、彼女達にとっても凛斗は大きな存在だった。
そして、そうしていれば流れは大きく変わっていただろう。
それが良いか悪いかは、また別の話だが。
「感傷に浸り過ぎてもいけませんね。彼らとの接触はどうですか?」
「末端に少しだけ出来たらしくて、今少しずつ上に回してもらってるみたいだね。ただ……」
「ただ?」
「彼らのトップ、どうやら決まった場所にいないらしいんだ。もしかしたらアレに乗ってるのかもね」
「それは大変ですね……ですが、やらなければなりません。現場には焦らないようにと連絡を」
「了解。美少女なお姫様のお言葉だからやる気出しそう」
「褒めても何も出しませんよ」
なお、皇女とその護衛とはいえ、親しい友人同士でもある。他人がいなければこの口調でも問題無い。凛斗やメイがいた時と同じく。
しかし、そんな会話の最中にレグルトの端末が鳴り、彼も部下と話すこととなった。
「え?ああ、うん。なるほど、了解です。殿下にも伝えます」
「どうしましたか?」
「ラグランジュ4と5に向かった人達から連絡で、半分は終わったってさ。全部にはもう少し時間がかかるらしいけど」
「これで進捗率は60%……早ければあと半年でしょうか」
「もう少し早められると思うよ。何せ、アレだからね」
「それならは良いのですが……」
「前に進み続けないと。こんな所で止まったら、それこそ無意味になるからさ」
2人のやっていることは危険だ。心配事は数多くあり、命の危険もある。
だが同時に、希望もある。それだけが救いだと言えるかもしれない。
「そうですね。では、あの機体はどうですか?」
「データ回収と開発者確保には成功して、今は試作中。秘密裏だから時間はかかるけど、予定通りになりそうかな」
「なるほど。それでは、艦の方は?」
「あっちは最終艤装の真っ最中。人員は全員こっち側で、表向きの方の理由付けも完璧。心配なのは遅れだけ」
「急ぐように伝えてください。もしかしたら早まるかもしれませんから。艦は切り札の1つです」
「分かってる。もう伝えてあるよ」
用意する手札、手に入る予定の手札、もう使えない手札。
それらを集め、吟味し、タイミングを見計らって使う。マイリアが挑んでいる勝負はそういうものだ。
そしてその勝負の中では、メイ達は手札の1つに過ぎない。もちろん、レグルトも含まれている。
「優秀な秘書兼護衛がいると助かります」
「褒められても何も出せないんだけど?」
「分かっていますよ。気分の問題です」
「でしょうね。まあ、僕が言ったことをそのまま返されただけなんだけど」
「そういうものですよ。ところで、レグルト」
「なに?」
「腕は鈍っていませんね?」
「もちろん。隊長にならないといけないなら、手は抜かないよ」
「では、少し裏働きを任せます」
「……具体的には?」
そして、その手が止まることは無い。手札を動かし、未来のための布石を打っていく。
彼女は堂々としているが、心の中では恐れが多くあり、未だに手が震える時がある。
だが、止まらない。歩みを止めないことを最も強く誓っているのはマイリアなのだから。
「ここを襲撃してください。例のアレです」
「なるほど……分かった。数人連れて行ってくるよ。10日以内にやれそうだし」
「では、お任せします。これをしたところで、こちらには間に合いそうに無いのが残念ですけれど……」
「それは仕方ないかな。この方面にちょうど良いのがいないし」
「明けの明星のように派手にやりますか?」
「それをやったからあの作戦が決まったんだけど?」
「分かっていますよ。言ってみただけですから」
「まあ、分かってたけどね」
持っている手札を全て使えば可能かもしれないが、そんなことをすれば何もかもが破産する。出来るわけがない。
それはある意味、凛斗達の異常性を示していた。同時に、その危うさも。
「あんな方法はできないよ。良くも悪くも、かな。ルシファーなんてただのバグでしょ、アレ」
「でしょうね。そのルシファーについて行き始めているメイもおかしいのでしょうけれど」
「確かに。あんなのについて行く自信なんて無いんだけど?」
「しなくても良いですよ。ああいう役割は求めていませんので」
「それなら一安心かな。けど……」
「レグルト?」
「いや、何でもないよ」
「そうですか」
それを真似することはできないため、別の方法を使う。
この2人らしい道であり、非常に大きな困難が待ち受ける道。
「早く、安心したいものですね」
「そうだね」
その道の先、その瞳が見つめる先にあるものがいったい何なのか。
それを知る者はまだ少ない。




