第12話「南国の風」前編
「ん、美味しい」
「こっちも。良い感じ」
「あ、それちょうだい」
「もちろん」
あれから約1週間後。
ハワイの、それも真夏の強い日差しの中、クリスとシアとニーネの3人はアイスを食べながら雑談していた。
「でも、よくやるよね」
「レックスもトランも勝ち目なんてないのに」
「それ、頑張ってるのに可哀想だよ?」
「メイが凄いだけだけど」
「それを言ったら終わりでしょ」
そして、そんな3人の視線の先には……
『まだまだー!』
『来んじゃ、っ⁉︎』
『トランッ!』
「……メイ、それでは2人の練習にならない」
ラファエルが後ろから真っ二つにされ、ガブリエルもプラズマ収束砲で消し飛ばされる光景があった。もちろん、これはシミュレーターの映像だ。
ガブリエルとラファエルは機体こそまだ最終調整中だが、シミュレーターは完成している。なのでパイロットの訓練に利用され、メイはミカエルで仮想敵役を担っていた。
『え、ダメ?』
「……当然だ。慣れなければ戦力にならない」
『でも、ミカエルに反応できないと連携もできないよ?』
『けどな、戦いにならないと訓練にはならないぞ』
『オレらもまだ慣れてねぇんだよ』
『えー、最低限はできてるよ?あとは経験だと思うけど?』
「……その経験が、だ……3人も何か言ってくれ」
なおこれには、メイのストレス解消というのも多分に含まれている。
同じエンジェルシリーズとはいえ、コスト無視の完全近接特化型SAGAであるミカエルを抑えるには、たった2機では足りなさすぎた。
「今のままで良いんじゃない?」
「どっちにしろ、アレと戦えないといけないんだから」
「それにメイちゃんも本気じゃないもん」
『だよね』
『味方がいねぇ……』
『どうすんだ……?』
「……自分は味方だ。だが……」
『そんなことより、早く再開するよ。時間は有限なんだから』
『了解』
『へーい』
「しっかりね」
「頑張れ〜」
「メイちゃん、やっちゃえ」
「……すまない」
というわけで再度戦闘が行われる。舞台は変わらず海上、ガブリエルとラファエルの2機でミカエルに対峙した。
なおラファエルは水中戦用機だが、設計段階で空中戦も想定されているため、問題は無い。
『私はいつでも良いよ』
『なら……』
『遠慮なく……』
『『行け!』』
なのでタイミングを合わせ、2機で同時にミサイルを斉射した。
近接向けの機体なので数は少なめだが、合わせて34発のミサイルがミカエル目掛けて飛んでいく。
『まだだ!』
さらにガブリエルはブリューナクを起動。翼から分離した合計8基の飛翔体がミカエルへ突撃をかける。
『行くぜ!』
『おうよ!』
そして2機は長剣型クルセイダーと斧槍型クルセイダーを構えて突っ込んだ。プラズマスラスターが無いとはいえ高速機、速度でミカエルに劣っても十分すぎる戦力。
だが……
『甘いね』
その程度でミカエルが、メイがどうこうできたりはしない。
ミサイルはビームガトリングと迎撃ビームバルカンで全て撃ち落とされ、ブリューナクも突撃槍型は2つとも大刀型クルセイダーで切り裂かれた。
銃剣型の方も牽制射のみ……いや、既に3基がビームライフルで落とされている。
『ほら!』
そしてミカエルはビームライフルを捨てると、ショルダーシールドの裏から引き抜いた3本のビームスローイングダガーを投げた。
その狙いは正確で、3本の内2本はラファエルに、特に1本はコックピットを直撃し、撃破する。
『またかっ!』
『レックスも』
さらにミカエルは回転すると、斬機大刀をガブリエルへ向けて投擲した。
それがまた正確に腹部に突き刺さり、ジェネレーターが爆発する。
『こんな感じ?』
「……やりすぎだ」
「メイちゃん、やっぱり凄いね」
『機体との相性良すぎんだろ……』
「反応速度が段違いだし」
『そっちでもこれくらい出来るでしょ?』
『あんな無茶苦茶な軌道出来るわけねぇよ……』
『えー?』
「メイ、あまり虐めすぎるのもよくないから」
『そうだね……じゃあ、無人機と戦う方にする?』
『それにしてくれ!』
『それじゃねぇと無理だ!』
「……頼む」
『はーい。クリス達も設定手伝って』
「良いよ」
「了解」
「任せて」
そうしてクリス、シア、ニーネとアクトを中心に設定が作られていった。
なお、シアとニーネが若干黒い笑みを浮かべているが……メイ以外は気づいていない。そしてメイはそれを面白がった。
「ここをこうすれば……メイ、こんな感じで良い?」
『うん、大丈夫。ありがと。じゃあ始めるよ』
『おい、説明は無しかよ』
『聞いちゃうと対策しちゃうでしょ?私だって細かくは知らないし』
『悪くねぇけどなぁ……』
「……メイ、始めるぞ」
『お願い』
そうして、気づいていないアクトがボタンを押す。
すると……
『おいおい……』
『何だこりゃあ……』
『あ、こうなったんだ』
100機を超えるSAGAが3人を待ち構えていた。
全てバトラーとエアロ、もしくはシルフィードで、空戦能力に問題はない。
『リントとやった時は200機だったから大丈夫だよ』
『無理を言うなよ!』
『オレらをリントと一緒にすんじゃねぇ!』
「……その通りだ。だが、もう始まるぞ」
『げっ』
『さっさとやるぞ!』
「メイちゃん、頑張れー!」
「やっちゃえ!」
「ファイトー!」
『うん!』
そして始まった瞬間、シルフィードからミサイルが放たれる。ガブリエルとラファエルもそれに対抗、迎撃のためにミサイルを放った。
それと同時に突撃。ミサイルを回避し、各種クルセイダーを構えてシルフィードの群れへ突撃する。
『落ちろ!』
ガブリエルもラファエルも近接戦型なので対多戦闘は辛い。とはいえ最新鋭機、やりようはあった。
ガブリエルは右のビームブーメランを抜き放つと投擲、楕円軌道を取ったそれはバトラーやシルフィードを何機も切り裂く。さらに盾の下のロケットアンカーを放って1機を捕獲、引き寄せて長剣型クルセイダーで貫いた。
そしてブリューナクで次々と敵を切り裂き、撃ち落としていく。
『おらぁ!』
ラファエルは残ったミサイルを発射、斬機斧槍から右手を離すとビームライフルを抜き、敵機を撃ち抜く。
さらに盾の下のビームガトリングを掃射し、敵群に穴を開ける。そしてそれから避けるため編隊を崩した機体から、斧槍型クルセイダーで両断していった。
両機とも獅子奮迅の活躍だ。だが……
『ふふっ、遅い遅い!』
ノリノリで敵群に突撃をかけるメイほどではない。プラズマスラスター全開、しかも急角度の方向転換を繰り返すミカエルに銃撃は当たらず、1機ずつ順番に切り裂かれていった。
こんな無茶な真似、実戦では絶対にやらないだろう。だが今は訓練、無茶をしても問題は無い。
『メイのやつ、上手くなってねぇか?』
『なってるぜ、確実にな』
「早くない?」
「早い早い。もうリントより強いかも」
「凄いよね」
「……実戦経験、か」
そして、着実に実力を上げていた。
前の戦いの通り、今はまだルシファーに、凛斗に勝てるほどの強さではない。だが少なくとも、制限をかけていた凛斗よりは強くなっている。
そして、今後は……
『ボサッとしないで!』
『そ、そうだな!』
『おうっ!』
とはいえ、今そんなことを気にしている人間はいなかった。そんな分からない先のことばかりを考える者がいないからだ。
そして、気にしていられる状況でもなかった。
『うおっ⁉︎』
『危ねっ!』
『油断しちゃダメ!』
ビームがラファエルの肩を掠め、装甲をえぐり取られる。ガブリエルも危うく被弾するところで、かなり危険だった。
なお、ミカエルは掠めるどころか、盾で防ぐものすらほとんど無い。
「……安定さはメイが圧倒的か」
「だね」
「レックスもトランも危ないところが多いし」
「あ、また」
「ギリギリセーフ、かな?」
「……いや、サブスラスターが1つ壊れた」
「あ、ホントだ」
「でもさ、見てるだけなんて暇だし……あー、あたしもシミュレーター欲しいなー」
元々実力はメイが頭1つ分以上上回っていたが、近頃はより差が開いていた。
だからこそ、なのかもしれない。他の面々もシミュレーターを欲しがるのは。
「うんボクも。早く欲しいよね」
「機体を作ってるなら、シミュレーターも作ってくれても良いのに」
「というか……シルフィードだと危なくない?」
「うんうん」
「……気楽だな」
「そういうアクトは欲しくないの?」
「……欲しい。だが、狙撃の練習はいつでもできる」
「そればっかり。生身とSAGAじゃ感覚違うんでしょ?」
「……基本は同じだ」
ミカエルはプラズマスラスター全開で突っ込み、大刀型クルセイダーで2機を纏めて切り裂く。さらにビームガトリングで薙ぎ払いの牽制射、ビームライフルを抜き放つと3連射で3機を撃ち落とした。
ガブリエルとラファエルは協力し、戦闘を継続する。というか、ロケットアンカーで捕獲した敵機を斧槍型クルセイダーで切り裂いたり、ビームガトリングで追い込んだ機体を長剣型クルセイダーが貫いたり、ブリューナクとビームライフルのクロスファイアで数機纏めて撃ち落としたりと、割とやりたい放題やっていた。
『これで!』
『ラス……』
『もらいっ!』
最後の1機に対してガブリエルとラファエルがビームライフルを向け、撃ち落そうとする。
だがそれより先にミカエルの放ったビームスローイングダガーが突き刺さり、撃破した。
「……ガブリエルとラファエルは小破、ミカエルは無傷、か」
「流石メイちゃん」
「というより、2人が不甲斐なくない?」
『ひっでぇなぁ、おい』
「1番頑張っているのはメイだから、その通りじゃない?」
『メイがおかしいんだっての』
「そう?」
「違うと思うけど?」
「違うでしょ」
『だよね。それで、次はどうする?』
『まだやんのかよ』
『やるよね?』
「……いや、終わりだ」
『え、何で?』
「……何時間続けていると思っている」
『3時間でしょ?それくらいなら……』
「……休憩にするぞ」
『はーい。アクトってこうなると頑固だし』
そしてシミュレーターは停止し、中から3人が出てくる。
「ふぅ……結構キツいぞ」
「おう。でもよ、メイはアレ以上なんだろ?」
「らしいぜ。俺らも数Gはあるのにな」
「メイ、お疲れ様」
「これくらいならそんなに疲れてないよ。いつももっと大変だし」
「凄くね?」
「それだけでも凄いだろ」
「……凄いな」
ガブリエルやラファエルは、プラズマスラスター不使用時のミカエルより僅かに遅い。にも関わらず、機動性はミカエルの方が上だ。
襲ってくる慣性は2人の比ではない。
「メイ、ジュースいる?」
「ありがと、シア。これって何?」
「え?エッチな気分になる薬」
「ブッ!ケホッ、カホッ……もう飲んじゃったんだけど⁉︎」
「うそうそ。ただのオレンジジュースだから」
「シア、やりすぎじゃない?」
「だって面白いし」
「シアちゃん、ボクもそれはダメだって思うよ?」
「ごめん、クリスの教育に悪かったよね」
「そういう意味じゃないんだけど……」
「それよりシア、ほら」
「……シーアー?」
「あはは……メイ、怒ってたり?」
「当然!」
「……逃げろー」
「待って!」
そんなこんなで、唐突に追いかけっこが始まった。とはいえ、この2人なら時々あることだ。
足の速さ自体は似たようなものなので、決着がつくには時間がかかるが。
「ぶっ通しで訓練しといてまだあれだけできんのかよ」
「無茶苦茶だよな、メイも」
「いつも通りって言えばその通りじゃない?」
「……リントと並んで体力お化けだったな」
「でも」
「ん?」
「元気になってよかったよね」
あの荒療治で元に戻したとはいえ、いつまたあの状態になるか分かったものでは無かった。
だが1週間経っても予兆が見えないため、6人とも少しずつ安心し始めている。
「確かに。メイが元気にならないと私達も困るからね」
「元々、俺らの中心はあいつだろ?」
「……自分達のリーダー、だ」
「だな。リントがいねぇってのは辛いけどよ」
「それ言うの?メイちゃんには聞こえてないみたいだけど」
「トラン?」
「あ……すまねぇ」
メイ本人が言うのは気にならなくても、他者が言ったら気になる可能性はあった。
「大丈夫だぜ。メイならシアにかかりっきりだからよ」
「みたいだけど……でも、心配にならない?」
「……なる。だが、必要以上に心配することでもない。むしろ逆効果だろう」
「そうかな?ボクにはちょっと……」
「ま、そんなのは人それぞれってのじゃねぇのか?おめぇらはそれで良いんだよ」
「じゃ、そっちもそっちで良いけど。でも、ちゃんと気にしててよ?」
「……了解」
だが意見が違っても、大切な仲間であることに変わりはない。
メイのことを気にかけているのは全員が同じだった。
「想定以上に時間がかかりましたね」
「そうだね。少し頑固すぎる人がいたから……」
「そうとも言いますけど」
そして同じ頃、マイリアとレグルトがハワイの宇宙港に降り立っていた。
今回は月に行くこと自体が極秘だったため、帰ってきた今も騒ぎにはなっていない。厳重な警備が秘密裏に敷かれているだけだ。
なので、彼女達にとって数週間ぶりのハワイの風景がよく見える。遠くには、マスドライバーから放たれたシャトルも見えた。
「ですが、これで準備はかなり進みました。兄上も動いているようですけれど」
「彼らを抑えたこちらが上手で動けるからね。これからは?」
「しばらくは地上でいいでしょう。こちらでの準備が少し足りませんから」
「式の後は巡る、ってことで良いんだね?」
「ええ。こちらでの準備にはそれも入りますから」
「それなら、向こう側にも話を通す必要があるけど?」
「そう、ですね……リントがいれば、話はまた別だったのですけど」
「マイリア、それは……」
「分かっています。それに、他に方法が無いわけではありませんから」
そんな会話をしている2人へ、数人の黒服が近づいてくる。
だが、彼女達は驚いたりはしない。見知った部下なのだから。
「殿下」
「全て予定通りに。頼みましたよ」
「かしこまりました」
「貴方達も同様です。やることは変わりません。ですが、慎重にお願いしますね」
「は!」
「承知しました、殿下」
「ここに居らぬ他の者達へはどういたしますか?」
「それは私から直接行います。場所はありますね?」
「もちろんでございます」
「ではそのように」
「了解いたしました」
黒服達は離れていく。残っているのは隠れた護衛だけだ。
「さて、まずはメイに会いに行くとしましょう」
「そうしようか。立ち直ったって言ってたけど」
「そこは大丈夫です。あの方法ならメイは立ち直りますから」
「よく分かるね」
「長い付き合いですので」
「流石」
「それに……」
この2人もメイのことを案じていることに変わりはない。友人の輪の中に入っているのだから。
とはいえ……
「立ち直ってないとからかいがいがありませんから」
「……ほどほどにね」
こういった面もあるため、ただ案じているだけとは言えなかったりするのだが。
・ガブリエル
EXSG73-T02A
全高12.0m、第12世代SAGA。エンジェルシリーズの2番機で、ブリューナクと呼ばれる特殊兵装の試験機。また本格的な量産試作機の第1号で、ミカエルを量産しやすいよう作り直したとも言える。
ただし、実験的な武装が多く、扱いこなすには技量とセンスが必要。。
白地に赤のカラーリング。
武装
___ビームライフル×1
___ビームソード×2
___迎撃ビームバルカン×2
___実体盾×1
___長剣型クルセイダー×1
___ビームブーメラン×2
___ロケットアンカー×1
___9連装小型ミサイル発射管×2
___銃剣型ブリューナク×6
___突撃槍型ブリューナク×2
・ラファエル
EXSG73-T03A
全高11.9m、第12世代SAGA。エンジェルシリーズの3番機。水中戦用機だが、空中戦も可能。水中での抵抗を減らすよう、各所が丸みを帯びて翼が短くなり、コロイド溶液のタンクを装甲下に備えている。
メーザー兵器はビーム兵器に換装することも可能。
斧槍型クルセイダーはハルバード型のクルセイダーで、メーザーの刃を纏うことができる。これもビームに変更可能。
白地に青のカラーリング。
武装
___メーザーライフル×1
___メーザーガトリング×2
___展開盾×1
___迎撃ビームバルカン×2
___8連装小型魚雷発射管×2
___斧槍型クルセイダー×1
___メーザーソード×4




