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第5話「堕ちた翼」後編

 



「よし。嬢ちゃん、行けるぞ」

「ありがとうございます」

「なに、これが仕事だ。気にすんな」


 そう言われ、メイはミカエルの正面装甲を開き、中へ乗り込んだ。即座に生体認証がされジェネレーターの出力は上昇、各部へエネルギーが供給され、戦闘態勢へ移行する。


『ハイシェルト候補生、聞こえますか?』

「は、はい、聞こえます」

『ミカエルの発進命令が出ました。ただちに格納庫から出撃、南東の海上にいる太平洋艦隊へと向かい、保護を求めてください。また、少し前よりハワイ基地全体に謎の通信妨害が発生しています。データリンクは通じないため、気をつけてください』

「了解です」


 そしてミカエルを起こし、破壊された出入り口へ向かった。多少瓦礫はあるが、そのまま突っ込めば吹き飛ばせる程度だ。

 また足元では、整備兵などが退避している。発進時の衝撃波を避けるためだろう。


『またケンザキ候補生とは未だに連絡が取れていませんが、もし取れたなら彼の誘導もお願いします。幸運を』

『まず生き残ることを考えてくれ。その機体の逃げ足なら大丈夫だ』

『そりゃいい。頑張れよ、嬢ちゃん』

「分かりました!」


 ショルダーシールドを横に動かし、翼を広げる。


「メイルディーア・ハイシェルト、ミカエル、行きます!」


 そうして熾天使(ミカエル)は天に舞った。

 戦場の空へ。


「そんな、酷い……」


 基地各所にある格納庫はほぼ全てが攻撃を受け、黒煙を上げている。先ほどまでいた格納庫は被害が最も少ない区分だろう。

 レーダーや迎撃兵装のあった区画はもっと悲惨だ。残骸が残っているならまだ良い方で、地面ごと吹き飛んだ場所もある。弾薬が誘爆したからかもしれない。

 だがその時、一条の光がメイの目に飛び込んできた。


「あそこって……」
















 少し時間を巻き戻し、さらに場所も変わってルシファーのある開発施設。


「だから!俺をさっさとアレに乗せろ!」

「無理なものは無理だよ」

「やめないかい。無理だって博士が言ってるんだから」

「ウルセェ!口出しすんな!乗せろつってるだろ!!」

「そう言われても、アレのロックはケンザキ君の生体認証だ。彼が来ないと、ロックは外せないんだ」

「んなもん、マスターキーでもハッキングでもどうにかして外せばいいだろうが」

「軍用機をそこらのホテルと一緒にしないでくれるかい?彼以外がロックを外すには初期化しかないけど、そうすると数時間は動かせないんだよ」


 そこには普段はない4つの人影があった。

 まず凛斗のクラスメイトが3人、主人公を嫌っている連中だ。こいつらは成績こそ低いものの実家の影響力は大きい。聞きつけたか誰かに案内でもさせたのだろう。

 残り1人はカイドウ教官。拳銃を持っているが、特に争ったようには見えない。戦闘開始前に3人の跡をつけたといったところだろうか?

 ただしどんな事情があろうと、4人全員が不法侵入であることに変わりはない。


「主任!」

「おお!ケンザキ君、無事だったのかい」


 そしてそこへ凛斗が入ってきた。

 戦闘後といった様相で拳銃を構え、パイロットスーツには血を付着させている。


「おいケンザキ!さっさとロックを外して俺によこしやがれ!」

「そうだそうだ!待たせんじゃねぇよ!」

「……雑魚どもが」

「あ゛?」

「何馬鹿なこと言ってるんだ?アレは俺の機体で、お前らなんかが扱えるものじゃない」


 が、その雰囲気は姿以上に違う。普段なら売られた喧嘩を少し買う程度なのだが、今は思いっきり売っていた。

 その変貌ぶりにカイドウ教官も思わず口を出す。


「ケンザキ君?どうしたんだい?」

「貴方もルシファーに乗るために来たんですか?カイドウ教官」

「いや、そういうわけじゃないんだ。ただ彼らが心配でね」


 その態度から本心は分かったが、凛斗はあえて気にしないことにした。言うことを変えたりはしないが。


「言っておきますが、あの機体は貴方程度が扱えるような大人しい機体じゃありません。バトラーで我慢しておいてください」

「こ、こら、そういうことを教官に言うものじゃ……っ⁉」


 だがその時、例の正体不明な歩兵達数十人が開発施設内へ突入してきて、バトルライフルを向けてきた。

 数人いた警備兵はすぐに撃ち殺され、残りは開発メンバーと不法侵入の4人、それに凛斗だけとなる。


「そんな、ここになんて……」

「ちっ」

「クソが……」

「こ、これは……動かない方が良いみたいだね。すぐに撃たないってことは、何かやることがあるみたいだし……」

「ケ、ケンザキ君、その銃を捨てなさい。助かったのは運が良い。ほら、今のうちに」

「大丈夫ですよ、主任。この銃は彼らに向けるものじゃありません」

「え?じゃ、じゃあ、何のために持っているんだい?」

「それは……」


 凛斗は拳銃をまっすぐ持ち上げ……


「お前らを撃つためだよ」


 開発主任の眉間を穿った。


「な⁉」

「てめっ!」

「え?ひぃ!」


 次いでカイドウ教官の腰にあった拳銃を撃ち、機関部を正確に破壊する。

 そして……


「撃て」


 待機していた歩兵達によるバトルライフルフルオート射撃。研究者達も不法侵入者も、ただ1人の例外を残して銃弾の雨に倒れた。

 ただ……


「がっ、くそっ、テメェ……!」

「ん?生きてたのか。悪運の強いやつめ」

「この野郎、何のつもりだ……!」

「何のつもりも何も、予定通りだ。それより、散々嫌った日本人に生死を決められる気持ちはどうだ?」

「なっ、いや、俺たち仲間だろ?同じ士官学校の仲間じゃないか」

「お前も一応仲間だって思ってくれてたのか。嬉しいな」

「だから、さ……」

「だが断る」


 運良く生き残ったクラスメイトは、運悪く凛斗の手で脳天を撃ち抜かれた。


「お前なんかの命乞いに耳を貸すバカがいるか」


 そして凛斗は振り返り、唯一の例外へ声をかけた。


「さて、カイドウ教官。そう言えば聞きたいことがあったんでした」

「な、何だい?」

「8年前、日本の首都絶対防衛線が崩壊した理由って知ってますか?」

「い、いや、知らなギャァ⁉」

「嘘はいけませんよ。教官なら知ってるはずですから」

「だから知らなヒィ!」


 頬を掠める弾丸に怯えるカイドウ教官。だが凛斗はやめない。

 何故なら……


「そうでしょう?東部方面軍第1師団第1連隊所属、海堂(かいどう)正志(まさし)中尉?」


 元日本国防軍所属の中尉、現在はムーゼリア帝国軍大佐扱い。

 だが帝国軍で被占領国の国民がつける最高位にいるのは、優秀だからという理由では無い。


「貴方達は命惜しさ金欲しさから帝国軍に内通し、後方から一部の部隊を崩し、戦線全体を崩壊させた」

「そ、そんなこギャッ!」


 遠慮なく右耳を銃で丁寧に吹き飛ばし、さらに凛斗は続けた。


「そして帝国軍が向かった先にはまだ民間人が残っていた。いや、民間人がいる区画へわざわざやってきたんだ。俺の街に」

「へ?いや、まさか、そんな……」


 そう、だから凛斗は怒っている。恨みを向けている。


「ああそうだよ。父さんと母さんは、貴方の……お前のせいで死んだんだ!!」

「ギッ!ガァッ!」


 数発、肩や下腹部へ撃つ。弾切れになって即座にリロード、さらに数発を撃ち込んだ。

 だが、凛斗の抱く感情はこれだけでは表せられない。例え何を言われようとも。


「し、仕方なかったんだ!ああでもしないと殺されてた。民間人まで殺すなんて思ってなかったんだ!」

「白々しい」

「な……」

「お前があの場にいたことは確認済みだ。というか、俺が見ていた。お前に拒否感を覚えていたのも当然だな。たとえ気づいていなくても、たとえ忘れていても、お前は父さんと母さんの仇だ」

「そ、それは……」

「なんであそこに居たのかなんて詳しい理由は知らないけど、どうせロクでもないことなんだろ?だったら、お前が殺した人達にちゃんと謝ってこい」

「や、やめっ!」


 これ以上話す意味は無い。そう言外に言い放ち、凛斗は海堂の心臓を撃ち抜いた。


「ふぅ……」

「よう」


 そして近寄ってきた正体不明の歩兵達……凛斗の本当の仲間達。

 その内1人がヘルメットを取る。そこから出てきたのは、凛斗と同じくらいの年齢の少年の顔だった。


「久しぶりだな、凛斗」

「お前こそよく生きてたな、剛毅(ごうき)!」


 久しぶりの戦友との再会に、凛斗は本心から喜ぶ。ここ(ハワイ)ではただ1人の例外を除いて見せなかった顔だ。


「まったく、お前がここに来た理由を果すだけじゃなくて、こんな土産までくれるなんてなあ。それに、他にもあるんだったろ?」

「ああ、データはそっちに入ってる。それに、多少の工作は必要なんじゃないか?」

「だな、頼んどくぜ。けど凛斗、これからは……」

「分かってる、復讐はこいつで終わりだ。いや、終わりにしないとダメだ」


 そう言って海堂から目を離すと、凛斗は真面目な顔に戻る。

 わざわざ危険を冒してここへ来させた理由を終わらせないといけない。


「じゃあ、始めるか。例のデータはこのコンソールの中だ」

「パスワードは?」

「知ってる。ファイルの場所も……ここだ」

「よし。ならあとは任せておけ、凛斗」

「あ、大さん。久しぶり」

「おい、久しぶり。大きくなったなぁ」

「やめてよ。もう17なんだから」

まだ(・・)、17だ。まだまだガキだよ」

「ちぇ、大人はいつもそうだ」

「でもまあ、1人でよく頑張った」

「……ありがと」


 子ども扱いとはいえ、褒められて悪い気はしない。それが心を許せる相手ならなおさらだ。

 だからこそ、なのかもしれない。凛斗はいつになく張り切っていた。


「死体はそのままで良い!ルシファーでまとめて消しとばす!」

「八葉根さん、そっちはお願いします。ああそうだ、大さん!こいつ忘れてる!」

「ん?あー、それだそれ。剛毅、ありがとな」

「それは?」

「特殊なウイルス、ネットワークで繋がったコンピュータまで丸ごと破壊するって聞いたぜ」

「へえ、そんな便利ものが」

「メガネさんが例のルートから貰ってきたんだと。相変わらず、良い仕事をしてくれてるぜ」

「流石はメガネさん」


 また仲間の名を出され、凛斗は崩れかけた顔を引き締める。

 と、ここで大さんから声をかけられた。


「おーい凛斗、剛毅、終わったぞー!」

「ありがとうございます!で、凛斗、何かやるんだろ?」

「ああ、こいつをな」


 そこで凛斗はパイロットスーツの下から、赤い液体の入った袋を取り出す。


「それは?」

「俺の血だ。少しずつ抜いて、劣化しないよう機器で保存しておいた」

「はぁ⁉証拠が残ったらどうすんだよ!」

「大丈夫、もう廃棄済みだ。ちゃんと俺の手でプラズマ化処理をしてある。誰にも見られてないぞ?」

「そうか。流石凛斗、しっかりしてるな」

「それが取り柄だからな。それで剛毅、こいつを撃ってくれ」

「お安い御用だ。でもよ、何でそんなことやるんだ?」

「これだけの血をコンソールにかければ、ある程度は中に入る。ついでに壁にめり込んだ弾丸にも血がつくから、偽装工作にはうってつけだろ?熱で炙られれば、正確なことはほとんど分からなくなるし」

「なるほど、任せとけ」

「間違って俺を撃つなよ?」

「誰に言ってんだ」


 まあ、剛毅の実力は凛斗もよく知ってる。というか、3年前より上達しているはずだ。

 そのため何も起こることなく、凛斗の目論見通りの結果になった。


「これくらいなら……いい感じかな」

「壁もいい感じだぜ。上手く炙られそうだ。……これで凛斗は死んだってことか」

「まあ、リント・ケンザキ候補生の方だ。あんなのどうでもいい」

「日本国籍からも、だぞ?行方不明扱いの俺達とは違うだろ」

「……分かってる。どのみち、長くてもあと5年だったんだ。遅いか早いかの違いだけ、指名手配されないだけマシなんだ」

「凛斗……」

「しんみりしてるとこ悪いんだけど、全部終わったわよ。凛斗、どうするの?」

「八重さん……じゃあ撤収してください。あとは俺がやります」

「そ、なら任せるわ」


 ここは敵地、決まってからの行動は早い。

 歩兵達は素早く扉から出ていい、凛斗はルシファーへ乗り込んだ。


敵味方識別装置(IFF)改変、明けの明星の共通信号へ変更。通信コード変更、既存コードは……」


 だが今はまだ帝国軍仕様、ロックがかかるため帝国軍機とは戦えない。


「……受信のみ有効。送信は新コードへ。座標判別システム、方式、受信周波数、共に変更……って無理なのかよ。っち、なら……」


 なのでタッチパネルにキーボードを出力させ、システム周りを書き換えた。


「レーダーシステム確認、識別方式改変。ブレイン・コントロール・システムと脳波検出システムは……ちっ、無駄に硬いプロテクトだな、これ。解除、解析、簡易最適化……」


 通信、レーダー、敵味方識別装置(IFF)。やらなければならないことは多い。


「ジェネレーター出力正常。常温超電導モーター、油圧システムチェック完了。各部スラスター異常なし。レーダー、光学システム、共に正常。エネルギー伝導ライン、問題なし。全システムオールグリーン」


 さらに機体状況もチェック、正常なことを確認する。


(あるじ)を裏切り、堕ちた天使か。名前の通りになったが……使わせてもらう」


 それらの作業を終え、凛斗は機体を完全に掌握した。自分専用の機体として。

 そして……


「これで終わりだな。剛毅、そっちは終わったか?」

『脱出完了だ。いつでも良いぜ』

「分かった」


 左手で高出力ビームライフルを持ち、周囲にある死体を全て爆炎に飲み込ませる。ついでに2射目を放ち、入ってきた武装法務隊を壁向こうの連中ごと消しとばす。

 さらに展開したプラズマ収束砲で天井を撃ち、上の装甲板ごと崩落させた。


「剣崎凛斗、ルシファー、出撃する!」


 そして完全に崩れ切る直前、堕天使(ルシファー)は飛び立つ。


「順調みたいだな。流石兄貴だ」


 そうして見た光景はメイと同じ、だがそれは凛斗にとって喜ばしいもの。

 同じ光景を見て、異なる感想を持つ。だからこそ、2人は出会ってしまった。


『リント!』

「メイ、か……」


 堕天使(ルシファー)熾天使(ミカエル)、剣崎凛斗とメイルディーア・ハイシェルト。

 クラスメイトであり同じ部隊の仲間になるはずだった者達、気のおけない友人同士で、さらに……

 だが、だからこそ、ここで対峙することとなっていた。


『大変なの!見てわかると思うけど……とにかく逃げよ!太平洋艦隊の方は安全だから!』

「……」


 ルシファーの背中、翼の付け根にある円筒。


『え?通信が繋がってない?何で?』

「……」


 それを保持するアームが起動し、正面から見える位置まで持ち上げる。


『ねえ……何で敵味方識別装置(IFF)味方()じゃないの?ねえ、リント?』

「……」


 そして右手で取り、振り抜いた。


『嫌だ。嘘だよね、リント。故障なんだよね?そうだって言ってよ、リント』

「……ごめんな」


 その瞬間には、光り輝くビームの刃が展開される。


『リント!』

「行け!」


 そしてルシファーはスラスターを全力で吹かし、袈裟懸けに斬りかかった。


『ひっ⁉』

「よく止めた」


 ミカエルはショルダーシールドで受け止めるものの、明らかに戸惑いが見え、精彩に欠けている。


『やめてよリント!ねぇ!』

「だけどな」

『キャア⁉』


 そしてその瞬間、ルシファーのつま先がミカエルの腹部を蹴り飛ばした。


「1手目だ」


 さらに左手の高出力ビームライフルがミカエルに向けられ、躊躇いなく射撃される。

 その閃光は容赦なくミカエルから左肩の盾を奪っていった。


『そんな』

「さあメイ、どう防ぐ?どう戦う?……まだ手加減はしてやる」

『リント……』


 覚悟を決めたのか、ミカエルは腰のビームソード2振りを抜き、二刀流となる。

 それに対しルシファーは左手の盾を展開し、構えた。


『はぁ……はぁ……』

「ふぅ……」


 しかし、どちらも動かない。

 本来ならシミュレーターと同様に、ミカエルの方が飛び込むべきだ。格闘戦用機なのだから。もしかしたら、メイにはまだ葛藤があるのかもしれない。

 そのせいで設計方針とは逆に、またしてもルシファーが先手を取った。


「来ないなら、行くぞ」

『来る⁉』


 プラズマスラスターの無いルシファーでは、ミカエルのような超高速は出せない。

 とはいえ常識外の高速機、凛斗がGに耐えながら放った上段からの振り下ろしは、交差させたビームソードが防ぐ。


『リントが、でも……だけど』

「喋ってる暇があるなら手を動かせ。頭を使え。そうじゃないと……死ぬぞ」


 左足の蹴りに連動して伸びたつま先の固定式ビームソードは、右のショルダーシールドで止められる。

 そこでミカエルは右手で斬りかかろうとするも……


「2手目だ」


 再び高出力ビームライフルが火を吹き、左膝が吹き飛んだ。


「仕方ないけど……脆いぞ、メイ」

『強い。何でこんな……』


 さらに左手の盾を構えて突進、体当たりでミカエルを吹き飛ばす。


「それにしても」


 だがミカエルはスラスターを強引に吹かし、体勢を崩しつつも斬りかかってきた。

 そこでルシファーはミカエルの左手を利用して背後へ飛び上がり、かかと落としで大刀型クルセイダーを弾き飛ばす。


「思うように機体が動く……!」


 背中を晒したままのミカエルに対してルシファーは膝蹴り、さらに高出力ビームライフルを握ったまま左拳を首へ入れ、左前蹴りも放つ。


『速すぎる……』


 それによって左腰のビームライフルは吹き飛ばされ、さらに銃撃により破壊される。

 同時に右手のビームソードが右腰のビームライフルを貫き、爆散した。


「望んだ通りに体が動く……!」


 さらに急接近からの回し蹴りを頭部へ入れてカメラを一時損傷させる。

 同時に右のショルダーシールドに残っていたビームスローイングダガーを奪い、回転の勢いそのままに地上で離陸しようとしていた帝国軍SAGA(シルフィード)へ投げつけた。


『リントより上なんて……』


 そこでようやく距離を取り、反転して反撃に転じたミカエルの連続攻撃。だがルシファーは5連撃の全てをビームソードだけでさばき、弾き飛ばす。

 さらに高出力ビームライフルを左腰に戻すとミカエルに急接近、頭部を掴んだ。


「最高だ!」


 その頭部を支点にルシファーは逆立ちとなって、落下する勢いのまま左翼を切り取る。


「これが3手目」


 そしてミカエルの背面へ回し蹴り、再度吹き飛ばした。


『それでも……』

「さあ来い」


 そこから体勢を整えたミカエルと、上下を戻したルシファー。ミカエルはビームソードの調子を確かめ、ルシファーは高出力ビームライフルを再度手に取る。

 そのタイミングは同時、そしてその後も同時。互いに突撃した。


『この!』

「そして……」


 ミカエルは右手のビームソードを水平に振るう。

 だが、ルシファーは冷静に上体をそらした。それと共に右手を動かす。


「4手目だ」


 その結果、ミカエルのビームソードは空を切り、ルシファーの固定式ビームソードはミカエルの右肘を切り落とした。

 そしてルシファーはその勢いのまま、むしろ加速させてサマーソルトを決める。


『キャァァー!!』

「あと一押し……」


 ミカエルを落とすなら、メイを殺すのなら、こんなに時間をかける必要は無い。だが、凛斗はミカエルを鹵獲するつもりだった。

 そして、それは実現直前だった。だったのだが、


『おい!あれを見ろ!』

『新型か⁉』

『黒いのは敵だ!撃ち落とせ!!』

「ちっ、邪魔を……」


 エアロに乗ったバトラーが12機、まっすぐルシファーへ向かってきている。

 先日試験をしたミカエルと違い、ルシファーの正式なお披露目はまだだった。だから敵だと思ったのだろう。

 実際その通りなのだが、今の凛斗は虫の居所が悪い。


「するなぁぁーー!!」


 オートの過程にもどかしさを感じつつ、凛斗はビームボーゲンを放つ。

 それらは命令通り敵機へ向かい、コックピットかジェネレーターを正確に撃ち抜いていく。12機全機が一斉射で消え去った。


『いやぁ、そんな……』

「よし、これで……」


 邪魔者を排除し、再度ミカエルへ向き合うルシファー。少し前と同じ絵なのだが、状況は完全に違う。

 先ほどの格闘戦、最新鋭機のミカエルですら内部機器にある程度の損傷を刻まれていた。ルシファーにも多少の不具合があるものの、攻撃側なのでほぼゼロに近い。

 戦わなくても結果は分かる。だが……


『凛斗、終わりだ』

「兄貴?時間はまだあるんじゃ?」

『いや、帝国軍太平洋艦隊の一部がもう近くまで来てるらしい。予想より早い』

「だけどこいつは……」

『本当に時間が無い。命令だ』

「……分かった」


 そう言われてしまっては、やれることは無くなってしまった。近くへ来た可変SAGAに従い、ルシファーはミカエルに背を向ける。

 ミカエルにはまだ武装が残っているが……追撃できる状態ではなかった。


「次からは……手加減無しだ」

『嫌、いやぁ……!』

「でも、一緒にいれて楽しかった。地獄の中にいた俺にとって、まるで夢の中にいるようだった」

『行っちゃダメ、行っちゃヤダよ……』

「でも、人はいつか眠りから覚める。俺も寝てばっかりはいられないんだ。だから」

『リント!リントー!!』

「メイ……ごめん」


 こうして、ムーゼリア帝国軍ハワイ基地襲撃事件、次世代概念実証試験機デーモンシリーズ・ルシファー強奪事件は、幕を下ろした。












・ルシファー

EXSG73-T01D → 試製特七三式一型機甲戦闘機

 全高12.5m。ムーゼリア帝国の作った次世代概念実証試験機の1機……だったのだが、日本系パルチザン:明けの明星によって強奪された第12世代SAGA(サーガ)

 高速射撃戦に特化した機体で、対多戦闘を強いられるパルチザンにうってつけの機体。また格闘用装備も揃っており、一般機なら格闘だけでも一方的に攻撃できる。

 その性能とパイロットの技量が合わさり、悪魔の如き戦闘能力を見せつけた。

 黒地に金と銀のカラーリング。1対2枚の黒い翼を持つ。

武装

___高出力ビームライフル×2

___可変式機動盾×2

___迎撃ビームバルカン×2

___ビームボーゲン×40

___ハイビームボーゲン×10

___手持ち式ビームソード×2

___固定式ビームソード×4

___プラズマ収束砲×2

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