黒膚病と堕天
【伝染病:黒膚病】
シリア菌に感染する事で起きる伝染病と感染後に起きる人体への影響、その症状について──ここに記述する。
その致死率は非常に高く60〜90%に達し、全身の皮膚が徐々に黒紫色へと蝕まれてゆく事から、未知の伝染病として世界中に広まった。
主にめまい・嘔吐・発熱などの症状に始まり、黒紫色の侵食が全身へと広がるに連れて、呼吸困難・意識不全・幻覚などの症状が多く見受けられた。特に幻覚症状は麻薬中毒の症状と酷似しており、世間に知れ渡る以前は多くの人々が中毒患者と見間違え、現状を放置してしまった為に多くの感染者が続出する。
頭部にまで侵食が広がると感染者は自我を完全に失い、人肉だけを欲する奇形へと変異した。その為に血液感染による被害が拡大し、史上最大規模のパンデミックと化す。
その姿はまるで彷徨う亡霊の如く、不気味な姿へと変貌してゆく。見開いた瞳孔は紅蓮に染まり、視覚や嗅覚さえもやがては失ってしまう。
世界保健機関は事態の収拾に感染者の隔離政策を推し進めていたのだが、国際連合安全保障理事会の先走りにより、大規模な一斉虐殺が軍事決定の下に執り行われてしまった。
意識の混濁する者や道端で人を喰い殺している者など症状は様々であったが、無作為な武力行使を実行した世界各国は混沌の末に──惨劇の血に全てが染まる。
一方的な虐殺が連合軍及び自国軍によって横行する中、感染者を庇う者もその対象として感染の有無に関わらず、虐殺の被害者となっていった。その中には小さな子供を庇う母親や年老いた夫婦にまで及び、世界秩序の崩壊と共に史上最大規模のパンデミックは終息を迎えたかに思われる。
しかし、数週間後──道端に放置されていた感染者の死体の山が腐敗を始め、黒紫色に蝕まれていた身体が突然、硝子の様に砕け散った。すると、その砕け散った微粒子が大気を汚染し、更なる感染者が再び現れだしてしまう。
やがて人口の約7割が彷徨う亡霊と化し、終には歯止めが効かなくなると富裕層の一部だけが保持していた隔離施設へと一斉に身を隠した。そして各国のパイプラインを駆使し、新たに世界財閥機構を設立すると共に、以前から計画を進めていた都市保安計画を実行に移す。
更に過酷な環境下で生存する為には、当時の人類では生き延びる事は難しいだろうと遺伝子操作の道を選択する。
そして人類は禁忌とされる人体実験の末──多種多様な姿へと進化を遂げるのだった。
この計画が天空都市設立へと繋がり、後の暗天戦争を巻き起こすキッカケとなる。
そして時代は移ろい、人種間での覇権争いの末──12種属が世界財閥機構の主軸となった。
【突然変異:堕天】
別名:解離性堕天症候群とも謂われているその症状は、シリア菌に感染した黒膚病感染者の突然変異によって起きた──人類の悲劇である。
黒紫色の皮膚が強靭な性質へと変異し、これまでであれば腐敗し始めていたはずの期間を経ても尚、活動を続ける個体が出現しだした。その存在は次第に自我を取り戻し、時の経過を思い知らされる。
およそ数十年という時の流れに荒廃した嘗ての大都市は廃墟と化し、天空には巨大な都市群が煌々と浮遊していた。人類に見放された彼らの中で、沸々と湧き上がる憎悪。地上を放棄した人類に対して、疎外感と劣等感を抱く中、始祖と呼ばれた1人の青年が人類との共存を願い──天空都市を目指してその翼を大きく広げた。
地上より現れた始祖“黒”の姿に世界財閥は驚愕し、有無を言わさず彼を迎撃する。そして、天空より失墜する彼の姿を見て、地上に取り残された堕天達は遂に反撃の狼煙を上げた。
後に暗天戦争は世界財閥が有する“叡智の力”によって奇しくも終結するのだが、堕天は古の怪物として旧約星書に記される事となった。
そして、現代──堕天は闇に蠢き、始祖“黒”が蘇るその時を待ち侘びている。