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19話:ある日の曇り空

 あぁ……今風呂場の床を流れていくのはお風呂の湯か、私の涙か……。



《あまりにもベルニカが可哀想なので、割愛させて頂きます》



「うをぅ〜、ぁん」

「うん、大丈夫。貸したげる」


 二人の着替えを持ってきたティア。小さい方をマリナに手渡し、自分は荒い呼吸でベルニカに向かう。妖しい目付きを向けられている当の本人は、未だにショックから脱しきれないでいた。


「……(´Д`)ァーー……」


 最早魂を手放してしまっているようだ。

息子を人質にとられたグランバニア王の如く、全く抵抗というものをしない。

無気力なマネキンと化してしまったベルニカに、ティアは猫耳&メイド服を装備させた。その完成品を目にし、急激に広がってゆく果てしなく危険な世界(妄想)に必死で鼻血を止めようとするティア。今にも襲い掛かりそうな形相だが、何やら不満そうな顔でポカポカ叩いてくるマリナに、寸でのところで阻まれた。


「……イヤなの?」

「ぅん」


 どうやらマリナはメイド服が好きではないらしい。

必死に哀願するマリナの愛くるしさに一瞬心を奪われそうになったティアは、仕方なくベルニカをまた着替えさせた。着替えさせる間は両手が塞がっているため、鼻血は垂れ流し状態。イリスを出た時と同じく白のYシャツに黒のミニスカートという格好だった。途端にマリナがベルニカに抱きつき、装備したままの猫耳をコリコリして嬉しそうな顔をした。……マリナも猫耳属性か。







「傷口が塞がらないよ……」


 ようやっと意識を取り戻したベルニカは、呆然としながらぼそっと呟く。無論見た目には怪我などしてはいないのだが。


「時間が解決してくれるよ♪」

「んぅ」


 その傷口を抉った二人はまるで反省の色が見られなかった。






「……なんでイリスに来たの?」

「む」

 ベルニカの問いに振り返るマリナ。ベルニカは再びイリスの地を踏むことは無いと覚悟して出てきたつもりだったが。


「寝ぼけてたんじゃないの?二人ともここに来る直前に寝てたでしょ。寝起きはいつもこんなもんだし。セーレちゃんヨダレ凄かったもんね」

「……いつも?」


 え?いつもって、どういう……?


「ん?いつもだよ?セーレちゃんよくうちに来るもん。ガーちゃん知らなかったっけ?」




(・∀・`)



「あの……セーレってのは、マリナのこと?」

「そうだよ。『マリナ・セーレ・ストレンジ』っていうの」

「セーレ……?」


 どっかで聴いたことあるような……セーレ……?まいっか。そんなことより、


「マリナ、ティアと知り合いだったの?なんで?」


 どこか困った様な表情をして考え込む。言葉を選ぶ必要があるのか、または言えないのか。……あっ、そういえばマリナ喋れないんだっけ。どうやって伝えればいいか悩んでるのか。


「ねぇ、ティア、なんで?」


 ティアに直接訊いた方が早いじゃん。


 ベルニカの問いに答えようとティアが口を開こうとした。










 イリスの村はいつも通りに外を出歩く人間が少ない。時々ちらほらと見られるのは、親の目を盗んで飛び出した子ども達。十三年前、レイゲンが殺された事件で村人達は矢鱈と外に出ることはしなくなった。魔物の侵入を阻むための壁が、全く意味を為していなかったからだ。魔王を倒したと言われるレイゲンが殺された。結果魔女であるアデリアに救われたのだが、村人達は戦慄し、一層子ども達の育成に力をいれた。


 灰色の空の下で子ども達がまた勝手に遊び回っているようだが、それでも村の中はいつもとはまた違った静けさに包まれているようだ。こんな日はどうも昔を思い出してしまう……。

 家の中で少し硬い気がするソファに老体を沈め、村長は誰かに話しかけるように呟いた。


「思えば……あの血筋の始まりは、お前だったな……」

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