15話:ブライン
右に曲がり、橋を渡り、階段を上り、左に曲がり、また左に曲がって橋から飛び降りた。
「!!ちょ、ちょっと!!!」
急いで私も飛び降りる。
女の子はまた走り出し、右に曲がって立ち止まった。私は数秒後に追いつき呼吸を整えながら、驚嘆の眼差しで彼女を見た。 こ、この子、どんだけ走るのよ…私にぶつかる前から走り回ってたんじゃなかったの?
女の子は振り返り、息一つ切らさずにベルニカを見つめている。 完全な無表情で見上げ、後ろにある扉を指して口をパクパクさせた。…?
「もしかしてあなた…話せないの?」
「…うん」
どうやらこの女の子、話は出来ないが
「うん」だけは言えるらしい。
私は少女の指し示す方向を見た。古くなった石造りの建物で、面した壁に窓は見当たらない。民家か否かが判別出来ないが、隅にある下りる階段の途中に真っ黒の扉があるだけだ。ブラインは地下に住んでいるということか。
でもこの子、何故ここを知ってるの?それに、憧源の家も。
少し目を離しただけなのだが、少女はまたも姿を消していた。
ちぇ、またお礼言えなかった。何者なんだろうあの子。まいいやどうでも。どうせまた会えるだろうし。ていうか向こうから接触してくるはず。
ベルニカは黒い扉のドアノブに手をかける。
おっと、不法侵入するとこだったぜ。
ドアを観察。ノックもインターホンもないし、覗き窓らしきものもない。
さぁどうするベルニカさん?
…決めた、不法侵入しよう!
再びドアノブに手をかけ、無造作に捻る。
開いた。素早く中に入り、静かにドアを閉めた。そして振り返るとそこには…仮面!!!
「!!キャーーッ!!!!」
「五月蝿い。黙らんと、加齢臭と犯罪の匂いが漂うオヤジしか乗ってない満員電車に放り込むぞ」
魔王ですら嫌がりそうなことをあっさり言ってのける、仮面を被ったヤツ。男か、女か。微妙な高さであるため、(そして平常心を乱されたため)声だけでは性別を判断できない。背はベルニカより少しだけ高いが。
「…マンインデンシャって何?」
この世界に電車は無いため首を傾げるベルニカだが、なんとなく嫌そうな顔をしているのは
「オヤジ」の部分にいやな予感を感じ取ったからに他ならない。
仮面は無言できびすを返し、ゆっくり階段を下り始めた。後に続くベルニカ。思い切って不法侵入したはいいが、元々無計画で部屋の中は暗くてよく観察出来ない上に正体不明(意味不明でもある)の仮面が気持ち悪い。どんな仮面かって?真っ白。何も無い。鼻も口も。装飾以前に、目の部分にあけるべき必須の穴さえも無い。つまり、この仮面野郎は前が見えない状態で、暗い階段を躊躇いなく下りていくのだ。
「…レイゲンの息子だな?」
「…!!?」
またバレた!しかも会って一分も経ってない。こいつも雷憧と同じなのか?
「なんでわかるの?」
「…娘が教えてくれたのさ」
白いソファに座りながら呟く。
「娘?まさかさっきのあの子…?」
「…うん」
ソファに座ったベルニカの隣に、あの子がいつの間にか座っていた。驚愕に一度体から飛び出し、二回深呼吸してから体の中に戻ったベルニカの心臓。でも深呼吸は無意味。まるで小さな爆発を何度も起こすかのように肋骨を乱打する。今にも呼吸困難を起こしそうだ。「い、いつからここに!?」
「…最初からいた。気づかなかったのか?お前と一緒に座っただろう」
き、気づくわけ無い!扉が開いた気配もなかったのに…。ほんとに何者なの!?そしてこいつも。仮面に向き直る。
「ねぇ、あなたがブライン?」
ここにいるってことはそうなんだろう。ブラインは頷く。
「じゃぁ、私が何しに来たのか知ってるわよね?」
隣に座る少女を見ながらいう。この子が私の正体を知ってるのなら当然わかるはず。
「グラドールは一人で倒せる相手ではない。ベラミシアもいるしな。それと、そのままでもいいんじゃないか?別に体が男でも女でも、生活に支障はないだろう」
ぐ…確かに、女の体は面白いけどさ。てゆうか顔を見せろコノヤロウ。ほんとはその仮面の下で爆笑してんだろが。
「マリナはそのままのお前を気に入ってるようだぞ?」 マリナ?私はまた隣を見た。そこにはさっきまでいた無表情な少女ではなく、顔を赤くして俯きながらも私の手を恐る恐る、そぉっと握る少女が…え?ナニコレ同一人物?ホントに?そしてナニコレ?私のこと、男と女どっちだと思って顔赤らめてんのさ?
「マリナはどっちでもイケる派だぞ」
Σ(@д@;)
「お前本当に親か!?危惧すべき大問題だぞ!?よくもそんなことを平然と…」
言いながらマリナの様子を窺ってみた。…さっきより顔が赤い。なんだそれは?肯定ということか?マリナはどんどんベルニカに近寄っていき、最終的には抱きつく形で落ち着いた。目を瞑り、ひたすらぎゅっとしている。なんか幸せそうだ。恋する女の子を見るとなんだか微笑ましいよね。でも私はロリコンではないし、人を好きになることもない(アリスは例外。だってアレ反則じゃん)。かといって無理矢理引き剥がして癇癪起こされても困るので、放っとくことにした。
「憧源は私のこと、魔王の器だって言ったわ。そう簡単にやられはしないし、それにグラドールに会って話が出来ればそれだけでも収穫。別に闘う必要性なんて元から無いんだから、何も問題ないわよ」
ブラインは動かない。魔王の器発言に驚いているのか、又は笑っているのか…たぶん後者だろうな。
「良い食材と下手くその料理人の組み合わせ…言ってる意味がわかるか?」 馬鹿にすんな。
「いくら良い道具を持っていても、それを扱うやつに才能が無ければ持ち腐れってことでしょ!」
ブラインは軽く頷き、次はこんなことを。
「お前はどうなんだ?」
馬鹿にすんなったら!
「イリスにいる頃から魔法の練習はしてたわよ。てか、闘わないって言ってるでしょ?」
「甘いぞ。生きてる限りお前は奴らに狙われ続ける。自分をもっと正確に捉えることだ。お前は魔王だぞ?奴らからすれば、どんな犠牲を払っても手にすべき魔の象徴だ」
イライラするほどの長い間、待たせてごめんなさい(-o-;)
どうも調子が安定せず、外に出ることすら出来ませんでした。
現在狼☆さんに、シリーズの別作品を書いてもらってます。投稿するのはだいぶあとになるでしょうが、『魔女の子ども』と併せて読めるようなものになるはず。




