11話:アリ中
魔のお風呂から上がった私は黙ったまま用意されていた服を着、荷物を持って玄関ホールへ急いだ。
思い出してはならない。
絶対に思い出してはならんぞベルニカ!
自らの血の海にひれ伏したくはないだろう?
見た目が男でも女でも、鼻から下を真っ赤に染めたくはない。
それにしても、まだ全身が熱い。
主に顔が。
あのあと私はアリスの手から逃れられず、捕まってそのままお風呂へ連行された。
そう、あの魔の空間へ。
そして服を、脱が、脱がされ……アリスは私の体、を、キレイにしてくれました。
キレイに、してくれたのですが……逆に汚されてしまったような気分です。
その上死にたいような心境に陥ってしまった私。
これ以上詳しく説明することはできません。
アリスと同じ空気の中にいると私はダメになってしまう気がしたから、逃げることを決意しました。
とにかくアリスから離れなくては。
大声で雷憧を呼ぶ。
「雷憧〜!!」
「なんだい?」
「……」
雷憧は既に玄関ホールにいた。
「よかった。もう準備は出来てるんでしょ?早く行こっ」
「なんでそんなに急いでるんだい?」
「アリスから逃げるの!」
男としての私の心が罪悪感に苦しみ、体に引っ張られて徐々に女に近づいている私の心は自分が百合になることを全力で阻止しようと奮闘している。
私は男の頃からあまり女に興味を抱くことが無かった。
それはおかしいことだろうか?
どうだろうか?
でも女の体になって、女の子としての羞恥が身についてからは逆に酷く反応してしまう。
……なんでもいい、とにかく今は逃げることが先決。
「早くしないと……」
「……後ろにいるよ?」
「……(ニッコリ)」
「……(汗汗汗汗汗汗)」
……せっかくお風呂に入ったのに、私は全身冷や汗でびっしょり濡れてしまった。
彼女は私の期待を裏切らない笑顔でこちらを見つめているのだろう。
……いけない、振り向いたら負けだ。
振り向いたら死ぬ!
あぁ……私はどうしてしまったのだろう?
アリス中毒(アリ中)になりかけてしまっている。
あの眩いばかりに輝く笑顔は、私の四大欲求の一つに勝手に立候補しやがった。
ありえない
……もう一度言います。
ありえません!!
なんとしても振り払わなければ。
アリ中はそうとう性質が悪い。
麻薬みたいなもんだからな。
いや、もっと酷いかもしれない。
私は雷憧に目で訴えかけようとしたが雷憧は理解せず、首をかしげている。
後ろにいるアリスはやはり笑顔で私の後姿を見つめている。
……見なくてもわかる。
うぅ、怖いよ〜!!
誰か助けて……。
ふと私は頬に違和感を覚えた。
え、何これ?
両頬になにかが流れ落ちてくる。
それはゆっくりと顎に伝い、床にダイブした。
「アリス、外して」
雷憧がアリスに言う。
アリスは戸惑いながらも、頭を下げてから去っていった。
雷撞は悲しむというか、哀れむというかそんな感じの表情をしていた。
私は雷憧の表情を見て理解した。
これは、涙だ。
目から流れる雫。
私、泣いてる?




