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(珍しいな……パイプタバコ、初めて見た。それにこの香り……何だろう。なんか、懐かしい気が……する?)
オレがしげしげと眺めているのに気付いたのだろう。
爺さんは咥えていたパイプを手に持つと、横を向いて煙を吐き出してから口を開いた。
「なんだ、煙草は苦手じゃったか?」
爺さんの問いに、オレは首を振った。
「ううん、パイプタバコ吸う人、初めて見たから。煙も別にイヤじゃないよ」
「……ほうか。竹雄は……父さんは今も吸うとらんかったかな?」
「吸ってない。というか、見たこと無いけど……えっ?父さん、煙草吸ってたの?」
初めて聞く話に、オレはちょっと驚いた。
「アレはパイプタバコじゃあ無かったが、若い時分は結構なヘビースモーカーだったぞ?知らんかったか?」
「うん」
オレは、自分の記憶の中の父親を頭の中に思い浮かべた。
オレの覚えてる父親の姿は、大人しくて、口では絶対に母親に勝てなくて、背中にいつも疲れが滲んでいるような、そんな姿だ。
背も高い方だし、堂々としてればそれなりに見えると思うのだが、いかんせん、家の中では影が薄い。
「……アイツ、煙草とコーヒーだけは死んでもやめられん、とその時分から云うとったが、そうか……今は吸っとらんのか」
(タバコ、ね……)
オレは煙を燻らせている爺さんを見ながら、小さく溜め息を吐いた。
遡れるギリギリまで記憶を遡っても父親が煙草を吸っていた姿を見た事が無いということは、オレが生まれてから、少なくとも家では吸っていないということだろう。
昔はいざ知らず、いま現在のオレん家の中においては、ヒエラルキーの頂点は母親で、間違っても父親じゃない。
そして母親は昔から『オレの健康』についてはちょっと引くほど煩かったのだが、ここ数年で更に勢いを増していて、かかわるコッチが息苦しくなる程になっていた。
「どうした?」
急に黙ったのが気になったのか、爺さんはパイプを置くと静かに訊ねてきた。
「……いや、父さんがそんなに煙草が好きだったなんて全然知らなくて。『死んでも』なんて相当だな〜って。なんで止めたのかな、とか……」
知らず知らずのうちに、視線が下がる。
思い当たるフシがあり過ぎて、胸の奥がムカムカした。
(そんなの、分かってんだろ。たぶん、いや、絶対オレのせいだ……)
「……ふぅん」
爺さんの視線が自分に向いているのを、カッ、と熱くなった頰の辺りに感じる。
顔を上げるのが躊躇われて、俯いていると、少しして、ちょっとトボけたような爺さんの声が聞こえた。
「……まぁ、なんか思うところがあったから止めたのかも知らんが、本人も居ないし、そんなことは分からんな。気になるなら、後で本人に直接訊けばええ。自分の親なんじゃから。それより……おぅ、どうした?ワタ坊?」
爺さんが声の調子を変えたので、気になって顔を上げると、居間の縁側に面した庭から轟さんがやって来るのが見えた。
「あ、轟さん」
「どうも。すっかり来るのが遅くなっちゃって」
轟さんは軽く頭を下げると、手に持っていた白いビニール袋の中から、子供の頭よりも大きなスイカを取り出した。
「ほら、コレ。持って来るっつったろ?」
「あ、スイカ」
「それとコレはウチの母親から。惣菜な。今晩の夕食の足しにして下さい、師匠」
轟さんがタッパーの蓋を開けると、中には肉じゃがとほうれん草のゴマ和えがギッシリと詰められていた。