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君の居なくなったこの世界で  作者: 篠井秋生
19/23

ー19ー

(………は?)


ーー今の、何かの聞き間違いか?


『色が白』くて、『可愛い』って、誰が?


え?………もしかして……オレっ⁉︎


ヤスコさんの発言にギョッとして、思わず隣にいたナツの方を伺う。


すると


「そうでしょ〜、ヤスコさん。羨ましいでしょ?ハル、可愛いよね。オレもそう思う」


などと、当の本人は涼しげな顔で臆面もなく言いのけていた。


(オイオイ、何なんだ、この会話‼︎ っつーか、ナツ、何云ってんだ!……可愛いって!可愛いって…コイツ、アタマに何か沸いたんじゃないだろうな⁉︎ )


オレの葛藤をよそに、ナツは更に付け加えた。


「…でもハルはオレのだから、いくらヤスコさんの頼みでも譲りませんよ。なぁ、ハル?」


ナツの言葉を聴くなり、ヤスコさんが女子高生みたいな黄色い声を上げる。


「やだわぁ、ナッちゃんたら!ご馳走様!よっぽどハルちゃんの事、気に入ってるのね〜」



………何なんだ、この人達。


入る隙間も云いたい言葉も見つからず、ただただ唖然としていると、やっとオレの様子に気づいたらしいナツが、オレの顔を覗き込んだ。


「アレ?ハル、固まっちゃった?」


「えっ?」


ナツの言葉に、ヤスコさんがビックリしたようにオレの方に視線を向ける。


「あら、やだ、ハルちゃんごめんなさいね。ナッちゃんとはいつもこんなカンジだから、つい…。びっくりしたわよね?大丈夫?」


「はぁ……まぁ…」


オレがボソボソと答えると、隣に居たナツが性懲しょうこりもなく続けた。


「でもハルが色白で可愛い顔してんのは、ホントのことだから」


(コイツ……‼︎ )


「……いや、仮にも高2男子を捕まえて、『可愛い』は無いだろ。それに確かにオレは日に焼けてはいないが、『色白』ってほどでもないと思う。めちゃめちゃ焼けてるオマエの隣にいるからそう見えるだけで、オマエがかなり焦げてるんだよ」


「『焦げてる』って……。ハル、オレは昔からこうなんだ」


「じゃ、『地黒』ってこと?」


「まぁ、そういうことになるの、かな?……っていうか、なんかキビシイぞ、ハル」


「そうか?これでもかなり優しい表現だと思うけど」


ワザとらしく口を引き延ばしてニィーッ、と笑うと


「まぁまぁ、ナッちゃんもハルちゃんも本当に仲が良いのね」


と、その様子を見ていたらしいヤスコさんがニコニコしながら云った。


(仲が、い??)


「とにかく、ナッちゃんの大事な知り合いなら、今日は腕によりをかけてご馳走しちゃうから。さ、座って、座って」


「ヤッタ!」


勧められるままにカウンター席の椅子に並んで座ると、ヤスコさんはオレとナツにそれぞれメニューを出してくれた。


(うわ、いろんなのがあるなぁ。どれも美味そうで迷う)


「えっ、と…何か『オススメ』とかありますか?」


以外に多い種類に迷って尋ねると、横にいたナツがさらり、と云った。


「どれを選んでも全部美味しいけど、オレのオススメはここのスペシャルだな。ハルの好きな具が全部入ってる」


「え?どれどれ?」


ナツが指差したメニューの場所を覗き込むと、ひときわ目立つ赤い字で


『ふくスペシャル』


なるものがあった。


「これなら肉と魚介がめっちゃ、入ってる。好きだろ?ハル。そういうの」


「あ〜〜!コレ!コレにする!」


柄にもなくテンションを上げた時だった。


ふと、ギモンが頭の隅をかすめる。


(アレ?そう言えばオレ、ナツに好物のハナシなんかしたっけ?)


「ん?どうした、ハル?急に難しい顔をして」


「なぁ、ナツ………オレさ、お前に好きなもののハナシなんか、したことあったっけ?」


「え?」


オレの急な問いかけに、ナツがちょっと驚いたようにコッチを見た。


「……お好み焼きが好きって、オレ、お前に言ったことあった?」


「あ〜〜」


ナツは首をポリポリと掻きながら、あさっての方向を見て答えた。


「……あったよ。もう、だいぶ前の事だけど」


「そうだっけ?」


「うん。…そんなコトより、飲みもの何にするんだ?ハル」


「あ、え〜っと、オレはお茶」


「冷たいヤツ?あったかいヤツ?」


「もちろん、冷たいヤツ」


「了解」


ナツはオレの返事に頷くと、カウンターの中で準備していたヤスコさんに向かって、スペシャルとお茶をそれぞれ二つずつ注文した。


その流れでヤスコさんと会話をし始めたナツの横顔を見ながら、オレはいつ自分の好物をナツに話したのか思い出そうとしたが、ここまでさんざん夏の暑さに晒されたアタマは、もはや完全にショートしかかっているらしく、全く機能しなかった。


(…ま、いっか)


自慢じゃないが、自分の記憶力については全くもって自信がない。


ナツがそういうのなら、たぶん初めの頃に話題の一つとして口にしたのかもしれない。



そうこうしているうちに、目の前の鉄板でヤスコさんが材料を焼き始めると、美味そうな匂いと音に、オレの忘れていた腹の虫が、ぐうっ、と鳴りはじめ、意識は百パーセントそちらに移ってしまった。


次々と材料を合わせていくヤスコさんの手付きはさすが本職で、見ているコッチも楽しい。


「お待たせしました〜。さぁ、どうぞ!」


「いただきます!」


まだ上にかけたカツオ節が踊っている熱々のお好み焼きを一口頬張ると、途端に引きかけていた汗が一気に額に浮いたが、まったく気にはならなかった。


「うわっ!旨っ!なにコレ!めっちゃ、ウマイ!」


「だろ?」


余りの美味さに思わず叫ぶと、


「お口にあったようで、嬉しいわ」


と、ヤスコさんが嬉しそうに笑った。


「ここら辺では向かう所敵なしの美味さだからな。祭りでもいつも行列が出来るし」


「祭り?」


ナツの言ってる意味が分からず、首を傾げると、


「あ、そうか!ハルは知らないんだっけ」


と、ナツは動かしていた箸を止めて言った。


「再来週にさ、神社で夏祭りがあるんだけど、香具師やしの人達に混じって、『ふく』も出店するんだよ。毎年やってるんだ」


「へえ〜」


「毎年すごく評判いいからさ、長い行列出来るくらい」


「スゴイな」


感心してヤスコさんを見ると、ヤスコさんは照れ笑いをして、慌てたように胸の前で手を振った。


「行列っていっても、そんなじゃないのよ。ナッちゃんはちょっと大げさに言ってるから…」


「でも評判いいのはホントだし。オレ、去年は手が足りないからって、マサコさんに急に駆り出されたもん」


「あ、そうだったわね」


「じゃ、やっぱり評判いいんですね」


お好み焼きを頬張り始めたナツの会話を引き継ぐと、ヤスコさんはオレに向かってニッコリと笑った。


「ウチの味、気に入ってくれたなら嬉しいわ。良ければお祭りにも是非来てね。ハルちゃんなら、サービスするから」


「ハァ……ハイ。ありがとうございます」


約束はしかねて、つい曖昧な返事を返していると、横からナツが口を挟んできた。


「ダイジョーブ。ハルはオレとお祭り行くから。必ず寄るようにするよ」


「そうなの?良かった!」


(ハァ⁉︎)


寝耳に水のナツの発言に思わずそちらを見ると、この短時間にペロリとお好み焼きを平らげたオトコは満足そうにニッコリと笑って言った。


「ハル、祭り、楽しいぞ〜!オレ、今からめっちゃ楽しみ!」


ヤスコさんの手前、否定する事も出来ずに思わずナツを睨みつける。


そんなオレの視線を物ともせず、オモチャを貰った子供のようにニコニコと笑っているナツが小憎らしくて、カウンターの陰になっているのをコレ幸いとばかりに、オレはナツの脇腹を思い切りつねってやった。


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