ハジマリ
100年前。
勇者と魔王が恋に落ち、結ばれた。
双子の我が子を抱く二人は、本当に幸せそうだった。
互いの意見を尊重し、世界は安泰の道を辿っていた。
勇者が魔王に殺されるまでは。
『二人はどっちの血が濃いのかな?』
魔王は不敵に笑う。
双子の我が子を見つめる目は、世界を脅かした魔王そのものだった。
それは、混沌。
赤と黒に染まる視界。
耳を劈く悲鳴や怒声は、心拍数を速足にさせた。
手を引かれる。
よく知ってる皮の硬くなった大きな手が、強く、痛いぐらいの力で、僕の小さな手を握る。
顔を上げる。
涙で歪んだ僕の目に映ったその人の横顔は、焦燥と怒り、悲哀の色で染まっていた。
崩れる城。襲い来る魔物。
どうして? 昨日まで普通だったじゃないか。仲良く暮らしていたじゃないか。
「右へ曲がれ!」
「出口が塞がれてます!」
「二階の窓から飛び降りるぞ!」
「駄目よ! こっちには子供がいるのよ!?」
「待て! 瓦礫の下にまだ子供が!」
「いやあぁぁ! 私のっ、私の子がぁぁ!!」
転がる死体。逃げ惑う人。
何が起こっているのか分からない。
脳内が混乱していて、散らかっていて、事態の把握が出来ないでいる。
ただ分かるのは、生まれたときから仲良く暮らしていた魔物たちが、突然人間たちを襲いだしたということだ。
涙が溢れる。知った人の死体や、人を殺す魔物。
殺意の色が滲んだ魔物の瞳と目が合った。……僕を、殺そうとしている。
仲間だったのに。友達だったのに。
「こっちだ!」
誘導されるがままに、逃げる。
……あれ?
ふと、違和感。僕は空いた左手を見る。
…なんで、僕は1人で逃げてるの? なんで、僕は…。
僕の手を引く彼を見上げる。彼は僕の視線に気づいたのか、一瞬こちらを見て、目を細めた。
どうして貴方がそんな顔をするの…? そんな顔されたら聞けないじゃないか。
ねえ、アテナはどこ?