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7 友子の証言

 根来は困惑しながらも、卓二をリビングに帰して、次に牧野友子を取調室に呼び寄せた。

 友子はパッチリと目を見開きながら、中の様子を伺うようにして、室内に入ってきた。その様子があまりにも滑稽だったので、根来は誤魔化す為に眉をひそめながら、細かい咳払いを繰り返したのである。

「警部さん。どうされたんですか」

「い、いえ、別に何でもありません。さあ、そこに座って下さい」

「はい。今日は、本当にもう大変なことになってしまって……」

「被害者の荘一さんとは、もう長いお付き合いだそうですね。なんでも高校の同級生だとか」

「そうなんですよ。だから今日は同窓会のつもりだったんです。それがもう、こんなことになってしまいまして」

 根来は頷きながら、先ほどのメモをペラペラとめくる。

「あなたは吉川さんの車で、この別荘に来られたそうですね。それは何時のことですか」

「お昼の少し前だったと思います。でも、よくは覚えていませんけど」

「ふむ。それでその後は」

「荘一くんがいつの間にかいなくなって、どこに行ったんだろうという話をみんなでしていたんですよ。まあ、その時は私もあまり気にも留めていませんでしたけど。夕食の時までは吉川くんもいました。夕食の直後に卓二くんが突然、眠いと言い出して、ふらふらと部屋に戻って行ったんです。それからすぐに、吉川くんも見当たらなくなって、リビングには古賀くんと私の二人だけになったんです」

「なるほど」

 すると、友子はどういう訳か、少しばかり浮かれた顔にだんだんとなっていった。

「その時に、私、古賀くんにこう言ったんです。ねえ、古賀くんって高校の頃、私のこと好きだったんでしょう? って」

「………」

 根来は不機嫌そうにため息をついた。それを気にせずに友子は顔を赤らめながら話を続ける。

「古賀くんったら認めようとしないんですよ。あれでけっこう頑固なんです。昔からそうなんですよ。でも今、振り返ってみると、どう考えても古賀くんは私のことが好きだったみたいなんですよねぇ。それで私、もう! あんまり隠すと前歯を折るわよ! って冗談を言ったら、古賀くんったらちょっと困ったような顔をして笑って……」

「あの、それが事件と何か関係があるんですか?」

 根来はジロリと睨んだ。友子はその睨みにちょっと困ったような顔をして、

「まあ、関係はありませんよね。でも、なんですか。私たちの関係というのを洗いざらい話すことが捜査に協力するということでしょう?」

 と言ってから、思わず笑った。

「ふん。それで、その後は?」

「その内に古賀くんがね、吉川さんがいないことを気にしだしたんです。それで、ちょっと見に行ってみようじゃないか、って。私、それが古賀くんがデートに誘っているんだと勘違いしちゃったんですよ。てっきり二人で外にでも行くのかなと思ったら、古賀くんったら、嫌ですよね、階段を登り出したんです。どう考えても、階段の上には二階しかないんですよね。面白くもなんともありゃしないと思ったんです。でも、部屋に誘われているのかもしれないと思って、ここは古賀くんの頭を信じて、一緒に階段を上がって行ったんです。そしたら……なんだか、古賀くんったら、荘一くんの部屋を気にしているんです。そこには誰もいないのは分かりきっているじゃないですか。ついに古賀くんもちょっと変になったんでしょうね。私もドアノブを回しましたけど、鍵がかかっていて開きませんでした。そしたら古賀くんったら、突然に「天窓が空いている」なんて言うのです。古賀くん、廊下に出しっぱなしになっていた椅子を持ってきて、それに乗って、天窓から室内を覗き込んだんです。そしたら、急に慌てた様子になって、椅子から飛び降りて、ドアを開けようとしたんです。開きませんよねぇ。だって鍵がかかっているんですもの。そうしたら、古賀くん「ドアを壊そう」と言い出して、何が何だか分からない内に、私までドアに体当たりをすることになったんです。はじめての共同作業と言うんでしょうか。私、訳が分からなかったんですけど……」

 根来は、どのようにメモを取って良いものか困ってしまった。

「ドアが壊れて、一気に開け放たれるでしょう。そしたら、そこには恐ろしいもので、荘一くんがベッドに倒れていたんです。あの恐ろしい形相でね」

「どんな状態でした」

 根来は、興奮して喋っている友子の顔をじっと見つめながら訊いた。

「その時、荘一くんの体の上には掛け布団がかかっていましたから、首が離れていたことには気付きませんでした。その布団の足元から冷たい足が二本にょきっと飛び出していましたね。またベッドから白い腕がだらりとぶら下がっていたんです。顔も青白くて、白眼をむいていて、どう見ても生きているようには見えません。古賀くんは荘一くんに走り寄って、掛け布団を掴んでひらりと持ち上げました。そして布団の中を覗き込むやいなや「あっ!」と叫んで、すぐに私に「絶対に見るな! 警察を呼んでくれ」と言いました。私、転げるように室外に出まして、一階に濁流の如く駆け下りて、電話機に飛びついたんです。それですぐに警察に電話をかけたんです。十分ほどしてから、二階の廊下に戻って、部屋の中を覗いてみますと、古賀さんが呆然と立ち尽くしていたんです。先ほど死体の上に乗っていた掛け布団は床に落ちていて、ベッドの上には首のない胴体と、荘一さんの生首があったんです」

「それはそれは恐ろしかったでしょう」

「私、すぐに古賀くんにしがみついたんですけど、古賀くんはなんだか私を振り払おうとするんです。でも、あからさまにはしないんです。嫌そうな顔はしていないのに、体はどうにか引き離そうとしてくるんです」

「それはどうでもい……いえ、すみません。それで?」

「ええ。そしたらね。とにかく、一階に降りて卓二くんを起こそうっていう話になったんです。そしたら、部屋に行ってもねぇ、卓二くん、まったく起きてこないんですよ。部屋に鍵をかけたまま。これは卓二くんも殺されたかな、って古賀くんが言った時はもう、心底冷え切りましたよ。古賀くんったら、そういうところあるんです。ブラックジョークって言うんですか?」

「ええ。それで?」

「しばらく、古賀くんと待っていましたら、卓二が起きてきました。そしたら古賀くんが1人で車で警察を迎えに行くと言うんです。山道に分かれ道がいくつもありまして、警察には分からないだろうと言うんです。私、古賀くんと一緒にいようと決めていましたので、私も古賀くんと一緒に車に乗って、山道を下ることにしたんです」

「その時に車内には変わったものはありませんでしたか?」

「嫌ですね。警部さん、そんな怖いことを。何もありませんでしたよ。それで私、古賀くんと二人でしばらく山道を下ったんです。一本目の分かれ道がありました。そこで古賀くんは突然、車を停めて、車外に出ました。そして、車のトランクから懐中電灯を二つだけ取り出して来たんです。そして私に「もう一本先の分かれ道まで行った方が良いかな」と言ったんです。私は何と答えたと思いますか?」

 またどうでも良いことを、と根来はため息をつきながら、

「さあ。何と言ったのです?」

 と尋ねた。

「行っても良いんじゃないの? って私、言ったんです。それで、もうちょっと先の分かれ道まで車で行きました。そこで車を停めて待っていると、古賀くん、そわそわし始めて「ちょっとトイレに行ってくる」と私に言いました。やっぱり私といるのが何となく、恥ずかしいんでしょうね。一人で森の中に入って行きました。私「迷わないでよー」と言ったんですけど、古賀くんったら、その後、一向に戻ってこなくて……私、だんだんと怖くなってきたんです。私、犯人と出くわして殺されやしないかしら。いいえ、古賀くんこそ犯人と出くわして、殺されていやしないかしらと思って……そんなことを思っていた時に、突然、運転席のドアが開いて、私、叫びました」

「誰だったのですか……」

「古賀くんだったんです! 古賀くんは呆然と私の顔を見ていました。私は一言「怖かった」と言いました。古賀くんも私と同じようなもので、森に入ったは良いものの怖かったそうですよ。なんでも森に入り込みすぎて帰り道が分からなくなってしまったそうです。そしたら、すぐにパトカーのサイレンが聞こえてきたんです」

 根来はそれを聞いて満足げに頷いた。

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