表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/12

6 防犯カメラの映像

「その男はどちらの方へ向かっていったのです?」

 根来は少し身を乗り出して尋ねた。

「そうですね。玄関の方でしょうか」

「ふむ。こいつは疑わしい人物ですね。その後は?」

「私はすぐにベッドから起き上がって、リビングにゆきました。リビングには、古賀さんと友子さんがいて、私を見て「やっと起きてきたか」というようなことを言いました。何か様子がおかしかったので二人に尋ねたら、兄が殺されたとそういうのです。私はその意味がすぐには吞みこめなかったのですが、二人の様子があまりにもおかしいので、二階に一人で見に行きました。そこには、ご存知の通り、ドアが壊されていて、ベッドにはあのような無残な兄の姿があったのです」

 卓二は頭痛がするらしく、頭を押さえた。

「二人はなぜ、あなたをもっと早く起こさなかったのでしょう」

「起こそうとしたというのです。しかし、私が一向に起きてこなかったと言うのです」

「妙ですな、それは。あなたは日頃から一度眠ると起きてこれなくなるのですか」

 卓二は、とんでもないとばかりに首を横に振って、

「そんなことはありません。まったくもって奇妙です」

 と青ざめた顔を俯かせた。

「その後は?」

「その時、古賀さんが仰るには「たった今、警察を呼んだのだけど、この山道だから、一時間ほどかかるだろう、それにひどく分かれ道の多いところがあって警察の人も分からないだろうから、途中の分かれ道まで車で迎えに行こう」ということでした。それで古賀さんは、自分がゆくから君たちは待っていてくれ、と」

「それで、あなたはこの別荘で待っていたのですね。友子さんは?」

「友子さんも、古賀さんと一緒に車で迎えに行くと言うのです。こんな怖いところでずっと待っているのは嫌だと言うのです。友子さんは、兄の遺体のことが怖いとは口には出しませんでしたが、本当はあの遺体が怖かったのでしょう。弟の私でさえも、あの遺体のあるこの別荘で待っているのはひどく怖かったものです。しかし、それでも、この別荘を留守にするわけには行きませんから」

 根来はなるほどと頷いた。

「するとですな、古賀さんと友子さんが車を運転して、山道の途中の分かれ道まで警察を迎えに行っている間、あなたはこの別荘に一人でおられたわけですか」

 殺人鬼が近くにいるかもしれないのに、とはさすがの根来も言わなかった。

「ええ。それは、ひどく心細い時間でした。二人はこの話を決めると、さっさと玄関から出て、手前に駐車している自動車に乗って、山道の方へと走って行きました。私は二人の車を見送ってから、一人でソファに座って色々と考えていたのですが、突然に、あのバッドを持った人影のことを思い出しました」

「そうですね」

「私はあの人影が殺人鬼のように思えました。まだ、この近くにいるのかもしれないと思って、慌てて、窓の戸締りを確認しはじめたのです。それからしばらく後に……四十分ほど経ったのでしょうか、パトカーのサイレンが遠くから聞こえてきて、パトカーと古賀さんたちの車が到着したのです」

 根来はしっかりと頷いた。そして、その話を感慨深そうに語るチンパンジーを一睨みしてから、

「話は大体分かりました。あと二、三、お伺いしたいことはですね、この別荘の部屋の鍵を物置の金庫にしまっているということですが……」

「ええ。物置きというのは、この一階の一番奥の部屋になります」

「この金庫の番号を知っていたのはどなたですか」

「兄と僕の二人だけです」

 それを聞いた途端、根来の頭部には稲妻の如き頭痛がかけめぐり、全てが一度に分かってしまったような気がした。根来は頷きながら、卓二の顔を睨みつけて、鬼のようなしゃがれた低い声で、

「金庫の番号を知っていたのは、お兄さんとあなただけ。間違いありませんね」

 と尋ねた。卓二はその迫力にあっけに取られて根来を見つめていたが、とにかく返事をしなくてはならないと思って、

「は、はい」

 とだけ呟いた。

「ふん。現場となった寝室には鍵がかかっていたそうです。つまり、犯人は鍵を持っていたわけです。その部屋の鍵は金庫の中にあって、その金庫の番号を知っていたのは、あなたとお兄さんだけだったわけですね!」

「えっ」

 卓二は嫌な予感がして、顔が真っ青になった。そして、わなわなと震えながら、

「わ、私が犯人だとそう仰るのですか!」

 と甲高い声で否定をしようとた瞬間、根来の眼光がビカッと光って、

「他に誰が鍵を扱えたというのだぁ!」

 と力一杯に握りこぶしを机に叩きつけて、大声で怒鳴った。白百合荘全体に聞こえそうな凄まじい怒号が鳴り響いたものだから、卓二はあまりのことにめまいがして、少しばかり白眼をむいてよろめいたのである。

「ち、違います。私はやっていません。そ、そうだ! あの物置には防犯カメラが付いているんです。あの部屋には色々と貴重品がありますから、去年から防犯カメラを取り付けることにしたんです。それを見て頂ければ分かると思います」

 それを聞いて、根来の顔がパッと明るくなった。

「なに、防犯カメラだと! よし、その映像を見てみよう。犯人が映っているかもしれん!」


            *


 このようにして、根来が、防犯カメラの映像を確認してみると、そこには警察が到着するまでの時間、誰一人として人影は映っていなかった。一応、画像が加工されていないかなども確認したが、そのような痕跡もまったくなかったのである。

 さらに映像を見てゆくと、警察官と一緒に卓二が物置に入ってきて、金庫を開け、中から鍵やマスターキーが取り出したところまで映っていた。金庫内の鍵は、事件当日には誰も触っていなかったのである。

「どうなってんだ、畜生……」

 根来は、頭の中に小鳥が飛んでいるような気がした。


            *


 この話を聞くと、羽黒祐介は手元のコーヒーを眺めながら、

「面白い話ですね」

 というだけの簡潔な感想を述べた……。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ