表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/22

綾香 キュランダ

旅慣れてきたら、旅も終わりに近づくようです。

 六日目(月)ほかに天気はないのだろうか?今日も雲一つない快晴


 朝一番にバスの予約をする。智樹は「帰る頃に予約するのが上手くなった。」と残念そう。

ベランダで朝食を食べた後に、Don't desterbの札を出して、ゆっくりと出国カードを書く。

智樹がさすがに教師、出国カードの書き方の紙をちゃんと持って来ていたので、助かった。その紙を参考にしながらスムーズに空欄を埋めることが出来た。


荷物の整理をしていると、花粉症の薬が出て来た。そう言えば、こちらに来てから一度も鼻炎の症状が出ていない。私も智樹もぴたりと鼻水が止まっている。

ケアンズには花粉が飛んでいないのだろうか?


今日のドライバーは、男の人だった。毎回違う人が来るので何人のドライバーがいるのか聞いてみると、30~40人ぐらいかなぁと言われた。そんなにいるの!今日のドライバーさんもいい人で、ロープウェーの券の買い方などを丁寧に教えてくれた。


スカイロープウェイは想像していた以上の規模のものだった。ジュラ紀の森林の中で途中下車をしながらなんと片道1時間半ぐらいかかる。こんなに長くロープウェイに乗ったことがない。

滝や大河も眺めることが出来る。鳥になって森の上を飛んでいるみたいだ。何か所かトイレ休憩があったが、森の木々の間に踊り場や通路を作ってあって、ツリーウォークといって散歩ができるようになっている。スターウ〇ーズの森の中に住んでいる子熊さんになった気分だ。


ただ、こんなにすごい設備なのに、搭乗口の切符の切り方が、むかーしのバスガイドさんのような感じだったので、それに智樹はウケていた。


智樹は新しく買ったカーボーイハットを被ってご満悦である。

長ーーーいロープウェイの終点はキュランダという高原の町だ。お腹が空いたので、まずは食事をする所を探す。観光都市になっているようでパームコーブより賑やかだ。カレーのいい匂いにひかれてランチ広場に行ってみると、そこの屋台に日本人のお兄さんがいた。

なんとそこの軽食は日本で食べるものと同じ味だった。智樹はコロッケカレーを、私はサーモンの巻き寿司を食べる。・・・なんと安心の美味しさなのだろう。オーストラリアに来て日本を知るだ。


蝶の館なるものがあったので行ってみる。

人の顔ぐらい大きいものや青い羽根をパタパタさせて集団できらきらと飛んでいるものもいる。夢中で写真を撮っていると、側にいた外人の夫婦が「ここに大きい蝶がいるよ。」と教えてくれた。その蝶は魔法使いのような衣装で、茶色のフレアのあるジュディ〇ングのような羽を広げていた。これは、凄い。

ロープウェイから見たどこまでも続く森の中に、沢山の珍しい生き物が暮らしているんだなぁ。と感慨深かった。


ここで楽しいことがあった。智樹が柵に寄りかかって休んでいると、蝶が飛んできて智樹の手のひらにとまったのだ。これは写真だね。と、そうっとズームにして撮っていると、またすぐ「綾ちゃん、綾ちゃん!」と智樹が小声で呼ぶので何事かと見てみたら、手のひらだけでなくTシャツ胸の上にももう一羽の蝶がとまって、羽を広げたり閉じたりしている。いやにモテている。智樹、とうとう美しき蝶にモテ期到来と大笑いした。


帰りは列車に乗って帰るつもりだったが、工事中とのことで、また一時間半かけてロープウェーに乗って帰った。

帰りのバスの運転手さんは、日本語ぺらぺらのミスター・ヘンリーだ。日本人の奥さんと二人の子どもがいるらしい。自然の豊かなオーストラリア人らしく環境問題に敏感で、日本の電気自動車について興味津々だった。どのくらい開発されているのか性能はどうかと突っ込んだ質問もされた。帰って、絵美ちゃんの旦那に聞いとかなくっちゃ。・・・マンガやアニメの事だったらもう少し答えられたんだけど・・・。


ホテルに帰って、両替のきかない小銭を使うためにまた隣のスーパーに行く。

どうしても、もう一度食べておきたくてヨーグルトを買ってきた。昼間にキュランダで買っておいた果物と合わせて食べると絶妙の美味しさだった。日本に帰ったらこのヨーグルトが食べられなくなると思うと悲しい。


部屋でコーヒーを飲んで少し休んだ後、最後のプールをゆっくりと楽しむ。

私達の下の階にいる子沢山の一家がプールに来ていた。六歳と四歳の男の子、二歳の女の子、それに赤ちゃんがいる。この中で、二歳の女の子が私によく話しかけてくれる。このキャリーと記念写真を撮る。

この子たちのお父さんは実によく子ども達の世話をする。日本ではこういう小まめなお父さんはなかなか見ない。これもお国柄なのかしら。


ここのホテルには日本語を話すスタッフがいるとガイドブックには書かれていたけれど、一週間いたが一度も会わなかった。日本人にも日曜日の団体のおばさまたち以外には会わなかったし、プールでは日本人は一人も見ていない。みんなケアンズに泊まって観光をしているんだろうな。

私達は、新婚旅行というのもあって滞在型ののんびり旅行をチョイスしたが、これは正解だったなと思う。人生観が変わった。せかせかとした日常の渦の中から離れて、客観的に自分の生活を見ることが出来るようになった。


「何のために生きているのか。」この問いが、旅行の間中頭の中にあった。

朝は鳥の声と波の音で目を覚まし、眩しい日差しを浴びながらプールでゆっくりする。

木漏れ日の射す木陰で、お酒を飲みながら頬を撫でる風を感じる。

親しい人と語らいながら海辺を手を繋いで散歩する。

食料を調達してきて、篝火の下で星影が落ちる中晩餐を囲む。

こういうシンプルな生活をしていると、自分たちに本当に必要なものはさほど多くないんだな。という事がわかる。私達の場合これにマンガとアニメを読む楽しみさえあれば、日々幸福に生きていくことが出来る。


旅行から帰って、

私は、今日をどんなふうに過ごしたのか。なにが私にとって幸福か。

そして智樹は、家族は、友達は、・・オーストラリアのシンプルな生活と比べて振り返るようになった。



複雑な日常の中では味わえない気づき。これも旅の贈り物ですね。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ