絵美 面白い写真を撮ろう
いよいよカナダ滝です。
二日目(水)爽やかな晴れ
朝の4:00にすっきりと目覚める。今日は夕方にプリンスエドワード島へ飛行機で向かうため、荷物の整理をする。新婚旅行をどこにするかフミくんと話し合った時に、私は一番に赤毛のアンの島、プリンスエドワード島へ行きたいと言った。フミくんは山を見にスイスに行きたかったみたいだけど、ヨーロッパがテロの問題を抱えていた時期だったので、私に付き合ってプリンスエドワード島を含んだカナダ旅行ということになった。
最初にナイアガラ、そしてプリンスエドワード島、最後にバンフという駆け足の旅である。飛行機でミランダに私達が行く場所を伝えた時に、「ふーん、いい選択ね。それで三か月ぐらいかけて回るの?」と聞かれたので、「ううん、全部で九日だけどカナダにいるのは一週間。」と言ったらひどく驚かれた。移動距離に驚いたのもあるだろうが、日本人とは休暇の取り方が違うのだろう。
朝食は、飛行機で食べられなかったパンやビスケット、それに持参したお粥、緑茶、そして部屋に備え付けてあったスターバ〇クスのコーヒーでゆっくり食べる。フミくんはこれでは足りないので、後で観光に出てから何か食べると言っていた。コーヒーを入れる機械が日本とは違うので、私には入れ方がさっぱりわからなかったが、フミくんはさすがエンジニア、「んー、こうなってるから・・。」と機械をちょっと見ただけで、コーヒーを入れていた。
綾香から、外国は調味料を持参していくべきだっ。と力説されたので、カナダの法律に引っかからないような、動物性のエキスの入っていないレトルト食品や調味料を大量に持って来た。・・・ところがカナダのケチャップなどは日本でも売られているらしく、あまりに酷い味のものには出会わなかった。ただ、私は普段味噌汁をあまり飲まないのだが、カナダで食べた物の中で一番美味しかったのは、日本から持って行ったレトルトの味噌汁だった。・・・不思議だ。
早く起きたので、まずは朝の散歩に行く。人も車も少なく爽やかな空気だ。風が吹くと少し肌寒い。道路や公園の手入れ作業をしている人たちがいた。
アメリカ滝の近くにある橋の真ん中が、カナダとアメリカの国境だそうで、橋を渡る前に国境ゲートがある。そのゲートの建物の前に掲げられた両国の旗が、朝風にパタパタとはためいていた。
ハ〇シーのチョコレートの会社の建物の屋上に、巨大なチョコのオブジェが乗っかっていた。あの有名なスライムの形をした銀紙に包まれたあれである。このオブジェがフミくんを写真撮影の虜にした。
「絵美、ちょっとそこに立って手を上に挙げて。」
何の為に手をもうちょい右だとか、手のひらを伸ばせだとか言われているのかと思ったら、私が落っこちそうなスライムチョコを支えている絵が撮りたかったらしい。
「おーー、面白い写真が撮れたっ。」
撮った映像を見て見ると、本当に私が大きなチョコを支えているように見える。次は、私の番だ。今度は建物に寄りかかっている板チョコとフミくんを撮ることにする。この板チョコは、二階分の高さがあって、ご丁寧にも上の包装をビリッと破って誰かが一口食べかけたようにしつらえてある。
「そこに立って顔を下に向けて、はい口を大きく開けてーー、そのままっ。」
これもいい写真が撮れた。ビッグな板チョコを食べるフミくんの図である。私としては、側に止めてあったイエローキャブ(アメリカのタクシー)も構図の中に入れた会心のショットである。
楽しくなった私達は、今度は滝の見える公園にやって来た。お化けのように垂れ下がる大きな木の前で、フミくんがゾンビを演じたり、階段のように刈り込まれた植木を登っているみたいに見えるように足を極限まで上げて撮ったり、鏡張りになっている建物に公園の木々と私達を映して、鏡面撮影をしたりした。
これも早起きの巧妙だね。誰もいなかったからこそ好き放題に撮影会が出来た。
部屋に帰って、コーヒーを飲んでゆっくりとした後で、十時にホテルをチェックアウトする。
フロントに大きな荷物は預かってもらって、フミくんと私はリュックサック姿でカナダ滝までお散歩だ。しかしこれはお散歩というような軽いものではなかった。すぐそこにあるように見えるカナダ滝が、結構な遠さだったのである。完璧に遠足だった。
歩いて行く途中に広い芝生の公園があって、そこで茶色のリスが朝ごはんを食べていた。何とも可愛い。人に慣れているのかフミくんがそぉっと近くに寄っても逃げようとしない。一心不乱に何かを食べていた。
眩しい日差しのもと初夏の花が満開だ。大きなタンク車から細いホースを伸ばして街路灯につるしたパンジーのハンギングバスケットに水をやっているのも観た。その物々しい図体での可愛らしい水やりの様子にウケた。こうやって景観を保っているのね。
カナダ滝のすぐ側にあるテーブルロックセンターの近くで、変わった服を着た団体を見た。私はアーミッシュの人かなぁと思ったのだが、フミくんはその名前は聞いたことがないと言った。私もウロ覚えなのだが、アメリカに何かの宗教か信念で未だに開拓時代の生活をしている村があると聞いたことがある。大草原の家のローラたちの服装を思い浮かべて欲しい。頭の被り物とタイツと靴は黒で、ワンピースは青、子ども達はその上に水色のエプロンをつけている。女性全員がこの色合いだ。男の人たちは白シャツにベージュのズボンにサスペンダー、麦わらのカンカン帽を被っていた。徹底しているなぁと感心した。
滝の近くに来ると益々塩っぽい匂いがする。瀑布の名の通り霧が滝の縁から濛々と立ち上がっている。風向きが変わると頭の上から霧雨のシャワーだ。ロックセンター前のレンガ敷きの広場には所々水溜まりもできていた。
滝をすぐ側で見える柵の所には、大勢の観光客が集まっていた。でも日本人は一人もいない。漏れ聞こえる会話からするとアメリカ人やヨーロッパの人が多い気がした。
「ここは、ムービーだな。」
フミくんが写真ではこの凄さが伝えきれないと言う。
緑がかった水の色、その厚み、ドドッドドッと絶え間なくしている腹に堪えるような滝の音、舞い散る水飛沫と潮の匂い。滝の上にはカモメが舞い、瀑布の霧の中に観光船の「霧の乙女号」が果敢に突っ込んでいくのが見える。
これは見に来る価値があるね。観光客が夏だけで年間1800万人というのも頷ける。
滝の向こうのエリー湖の中には沢山の段差があって、小さな滝があちこちに見られる。こういう所はあまりテレビ映像では映さないので新鮮に見えた。
ひとしきり滝を堪能した後、フミくんの「腹が減ったー。」の声でテーブルロックセンターの中に入ることにする。お弁当のようなものを売っている店があったので覗いてみたら、小さなパックのサーモン寿司が17ドルもして日本の2倍以上のお値段だ。
「とにかく、肉肉っ。」と叫ぶフミくんにこんな小さなお弁当では足りそうにない。結局ハンバーガーを食べることになった。
taxが18%かかるので、チップも合わせると支払いがめんどくさい。ところが列の前の人が皆カードで払っている。フミくんもカード払いにすることにしたようだ。ビーフとチキンの2種類のバーガーをフミくんは頼んでいた。余程お腹が空いていたらしい。私はそうでもなかったので、フレンチフライ(フライドポテト)を頼んだ。あまり愛想のない受付のおばさんに、カードで払うと言うと、ほれっと何かの機械を差し出された。私はその機械に暗証番号でも打ち込むのかと思ったが、フミくんは自分のカードを横にある溝に滑らせて磁気で読み取らせていた。へぇ、普段はお店の人がするようなことを客がするんだ。
「やり方がよくわかったね。」と言うと「犯罪防止でああやって客にやらせるようにしてるんじゃない?」と言っていた。なるほどーー。」
フレンチフライはあまり塩が効いていなかった。なので綾香がくれたラミネートの袋に入っているお弁当用のケチャップを使った。食べながら他の人たちの様子を見ていると、みんなハンバーガーを持ったまま私達の後ろの台を行き来している。何があるのかと見に行ってみると、そこには大瓶のケチャップや塩、ナプキンなどが置いてあった。どうも味付けは自分でするらしい。参考の為にケチャップを貰ってきてみる。日本のカ〇メの味とは違うが、まあまあの味だった。
フミくんにハンバーガーの味を効くと、「普通ー。でもチキンのほうはレンジでうまく温まっていなくって一部が冷たいままだった。」と言う。おいおい。でも腹減りボーイには何だってよかったらしい。
お腹が良くなったので、ガイドブックで前もって調べて来ていた「ジャーニー・ビハインド・ザ・フォールズ」に行く。これは滝を直ぐ真下から、そして裏側からも観ることが出来るようになっている。これが良かった。チケット売り場に日本人の女の人がいて、私達が日本人かどうか確信が持てなかったらしく「Where are you from ?」と聞かれた。お互い日本人だとわかり大笑い。この人は現地に住んでいるらしく、「良い旅を!」と言ってもらえて嬉しかった。
滝を真下から見ることのできるテラスには私達と同じ黄色いカッパを着ている大勢の人がいた。下から滝を眺める迫力は凄かった。水飛沫の向こうに虹が見えた。ここで初めて日本人の観光客に会う。ノリのいい二人の若い女の子で、お互いに写真を撮り合った。
洞窟の中を通って滝の真後ろに行くのだが、だいぶ昔に掘られた洞窟らしく水があちこちで染み出してジメジメしていた。フミくんはこの探検っぽい感じが気にいって、滝の裏側を除ける場所では暫く柵の向こうを眺めていた。洞窟の回廊にここを訪れた有名人の写真が掲げてあった。私はジョン・F・ケネディとマリリン・モンロー、そしてダイアナ妃と二人の王子さまの写真が特に印象深かった。
滝の裏側から無事生還し、建物の外へ出てみると日差しはますます強くなっていた。フミくんとリュックからサングラスを出してかけた。優しいフミくんの目が隠れるとちょっと悪い人に見える。私は面白がってバシャバシャとサングラス姿の写真を撮った。雲一つない真っ青な空とナイアガラ・スカイロン・タワーとカッコつけたサングラスのフミくんの写真が会心のベストショットだった。これはトイレから出て来たすっきり顔のフミくんを撮ったものだが(笑)、映画スターのように見える。部屋に飾ることにしよう。
これから歩いて、そのスカイロン・タワーに向かうことにする。
二日目も長くなりそうなので分けます。




