絵美 ナイアガラの夜
ナイアガラ、どんなところなんでしょうね。
「明るいうちに散歩に行って、夕食も食べに行こう。」と出かけることにした。
カナダはなかなか日が暮れないので、外にはまだ大勢の観光客が歩いていた。やはりまずは、滝を観に行くことにする。ホテルの近くにはアメリカ滝を眺められる展望スペースがあったので、歩いてそこまで行くと、いろいろな国から集まった人たちが滝を眺めながら思い思いに寛いでいた。
アメリカ滝は、滝が落ちて来る下の所に岩がごろごろしていて、そこに落ちて来た大量の水が勢いよく岩にぶつかって霧がもうもうと立ち上っていた。
ナイアガラの町全体が、海の近くのような塩っぽい匂いがする。この町に着いた時に、内陸なのに潮の匂いがしたので、Wさんに尋ねたのだが、「岩塩から塩が溶け出しているので、こういう匂いがするんでしょう。」と言われた。川の上空を飛んでいる鳥もカモメかウミネコのように見える。不思議な光景だ。
滝のビューポイントでひとしきり写真を撮って、今度は坂を登って繁華街があるナイヤガラ・スカイホイールの近くのピザ屋に行く。飛行機の中で、ミランダに「ナイヤガラでは、ピザは食べてねっ。」と勧められていたのだ。トッピングを自分で選んで注文するようになっていたので、フミくんと頭を突き合わせて散々悩んだ。注文するためにフミくんが手を上げると、物凄く背の高い黒人の青年がやって来た。最初はその風貌にびっくりしたけれど、このアレクと名乗った青年がとても親切な人だった。外国人で注文の仕方などに慣れない私達に、「これとこれを組み合わせると美味しいよ。ソースは、この具材だったらこっちの方が合うよ。」などとアドバイスしてくれたり、メニューの読み方を教えてくれたりと、色々と世話を焼いてくれた。
冷たい生ビールと具沢山のピザはとても美味しかった。暮れ始めた窓の外を見ると、ビルにぶら下がった大きなキン〇コングが見え、その巨体の向こうにカナダの夕日が沈んでいった。
日が沈んでネオンが力強く輝きだした坂道を、店を眺めながらぶらぶらと歩いてホテルに帰る。ホテルの近くまで来た時に、カジノの大きなタワー看板があったので、「初めてのカジノに挑戦してみるか。」と入ってみた。観光ガイドブックにここのカジノとホテルが連絡通路で繋がっていると書いてあったので、時間が遅くなっても安心かなと思ったのだ。
ところがこのカジノ・・・・。ラスベガスの映画に出て来るような場所を想像していたが、ここのカジノはただのゲーセンだった。いや、最近の日本のゲーセンを思い浮かべてはいけない。私達が生まれる前の昭和四十年代ぐらいの寂れた温泉街にあるゲーセンなのだ。置いてある機械もその頃の物らしく、コインを入れても動かないものも多い。フミくんが何度も係の人に「この機械にコインを取られたまま動かないよ。」と訴えることになった。まともに動くのが日本のセ〇の、私達からすると何年も前の旧式のものというお粗末さ。外のあの大きな東京タワーのような派手な看板はなんだったのだろう・・・。「僕たち場所を間違えたのかな?」とフミくんと悩んだが、翌日もここと同じようなゲーセン・カジノを見かけたので、やっぱりカナダではこれがカジノなんだろうなぁ。という結論に至った。
ゲームに勝つと出て来る何枚もの切符のつづり券(たぶん金券?)を両替所のお姉さんの所に持って行くと、
「この中から、好きなものを四個持って行っていいわよ。」と四つの大瓶を出してくれる。ガチャガチャに入っているような小さいゴム製のロボットや恐竜のおもちゃが瓶一杯に入っていた。うーんこれが商品なのね・・・。フミくんが四個のゴムのおもちゃをなんとかその瓶の中から選び出す。それらをじっくり手に取って見て見ると、大雑把なつくりでこれも昔風だ。海外から日本にやってきた人たちが日本のガチャガチャや付録について来るおもちゃの精巧さに驚いているテレビ番組を以前観たことがあったのを思い出した。今回このおもちゃを見てフミくんと二人で、外国から日本を訪れた人がそう言うのもわかる、なるほどと納得した。
くねくねとした連絡通路を通り、ホテルに帰る。
部屋の窓の外には、虹色にライトアップされたアメリカ滝が見えた。もうもうと湧き上がる霧の向こうの虹色の光と音を立てて流れ落ちる大量の水の他は漆黒の闇。幻想的な風景だ。フミくんと肩を寄せ合って、しばらく滝を眺めていた。
長い長い一日だった。朝、実家の母に会ってからいろいろなことがあった。今、日本から遠く離れたカナダでこうして二人で滝を眺めているのが不思議な感じがする。
マリリン・モンローも入ったというバスタブで長旅の汗を流し、疲れた身体を張りのあるシーツに横たえる。
フミくんの胸に顔をうずめて新婚旅行の一日目の夜が更けていく。
長ーい一日でしたね。お疲れ様。




