絵美 カナダへ
絵美と文也くんのターンです。どんな新婚旅行になるのでしょう。
第一日目(火)晴れ
森尾の実家に冷蔵庫の残り物を持って行くと、母に「どうして、ここにいるのよ。カナダに行ったんじゃなかったの?!」と言われた。家の両親は関南空港から飛行機で出発すると思っていたらしく、新幹線の停車駅とは反対方向にある実家に私達が顔を見せたものだからびっくり仰天したらしい。
「さっき、お父さんが仕事に出る前に『二人とも今日から新婚旅行だよな。もう飛行機に乗ったかなぁ。』って言ってたから、絵美も文也さんも新幹線で中阪に向かっているんだとばかり思ってたのよ。それが、目の前に立ってるんだもの、何かあったのかとびっくりするでしょう。」
お母さん、説明不足でごめんなさい。
「大賀空港から国内線で羽田に行って、それから成田に出て、国際線でトロントに行くの。今日はナイヤガラのホテルに泊まる。ここに旅行日程を持って来てるから。後で見といて。緊急連絡先はお父さんの携帯にしてるから、そう言っといてね。」
と今更の説明をする。
「お母さんすみません。ホテルに着いたらメールをしますから。」
「えっ、文也さんの携帯は外国からメールができるの?」
「ええ。ホテルの方も全部メールできる環境になっていますから、毎晩メールを送ります。それを見て無事を確認してください。」
「まぁ、便利な世の中になったものねぇ。」
母は、未だに自分の携帯を持っていないので、こういう機器のことには疎いのだ。うちの実家のパソコンも買い替えた時にフミくんが設定を全部やってくれた。短い間に、フミくんは我が家にとってはなくてはならない人になっている。
大賀空港に着くと、長期不在者の為の駐車場に行く。空港からは少し遠いが、空港利用者は無料で自家用車をとめておけるのでありがたい。私達は大きな荷物を持って、空港行きの連絡バスに乗った。座席に座ろうとすると、携帯が一台落ちていた。これは大変だ。落とした人はさぞ困っていらっしゃるだろう。フミくんがバスの運転手さんに落とし物を届けてくれる。
「ありゃ、これはさっきの子ども連れのお母さんだな。」
運転手さんには心当たりがあったらしい。その人が飛び立つ前に渡せたらいいのだが・・。他人事ながら心配になる。
空港入り口のバス停に止まると運転手さんが「あっ、いたいたあの人だっ。」と言うので入り口を入った先を見て見ると赤ちゃんをスリングで抱っこして、三歳ぐらいの子どもを連れて片手で大きなスーツケースを転がしているお母さんがいた。フミくんが走って行ってそのお母さんを連れてくる。やっぱり落ちていた携帯はその人の物だったらしい。「すみません。助かりました。」と言われたが、フミくんも私も運転手さんもホッとした。地方の小さな空港だからこそできたことだろう。
保育園の遠足で飛行機を見に来たことはあるのだが、ここの空港から飛行機に乗るのは初めてなのでドキドキする。中はどうなっているのだろう。
飛行機の券は、B5のコピー用紙に乗車する飛行機の会社名や便名が書かれているだけのものだ。こんなんで、大丈夫なのだろうかと思っていたが、これでチェックイン?出来た。
荷物の検査もロビーにチェック用の機械が置いてあり、これでオッケーとのこと。
何日も前から服を入れたり出したりして重さを確認していたが、なんだか拍子抜けする。
待合室に入ると、窓から二機の飛行機が見えた。遠足で眺めた時より近いので機体が大きく見える。クラスに飛行機が好きな子がいるので、写真を見せてやろうと飛行機を撮影していると、「絵美、こっちの飛行機を撮ったほうがいいんじゃない? 機体にス〇ーウォーズの絵が描いてあるよ。」とフミくんが言う。
ホントだ。珍しい。
やはり珍しいからか、こちらの飛行機には団体さんが多く満席のようだった。
私達が乗るのは、絵が描かれていないほうの飛行機だった。
ボーイ〇グ737と言うらしい。私はジャンボジェットには乗ったことがあるのだが、こういう中型機は初めてだ。この飛行機の離陸時の臨場感は半端なかった。空に向かって飛び立つ感じがダイレクトに伝わってくる。フミくんも「うわー、これは凄いな。」と感心していた。
飛び上がって何分も経っていないのにもう中阪の上空です。と言う。スチュワーデスさんたちは、飲み物を配るのに大忙しだ。早くしないと着陸態勢に入ってしまう。なんて忙しないのだろう。
私はホットティ、フミくんはホットコーヒーをいただいた。
窓の下を見るとどこかの湾の上だけが晴れていてぽっかりと雲の穴が空いている。湾岸線が綺麗に見えた。こういうこともジャンボに乗った時はなかった気がする。飛んでいる高度が違うのだろうか。飛行機の翼の下の鱗雲が水玉模様のようだ。上空は藍色の空なので、その対比が美しい。思わず窓から写真を撮った。
しばらくすると雲海の上に富士山が見えて来た。本当に「頭を雲の上に出し」なんだね。
今度はカメラを望遠にしてシャッターを切る。何枚か撮ったがその中の一枚は浮世絵のようだった。フミくんに見せると、「これはうまく撮れてるよ。絵美、才能あるんじゃない?」と感心してくれた。ちょっと嬉しい。
飛行機はこのまま降下していくと思っていたが、頭を海の方に向けてどんどんと日本から離れて行こうとする。どういう事だろうと不思議だったが、フミくんが「羽田沖で高度を下げながら滑走路に入る順番を待つんじゃない?」と教えてくれた。フミくんが言う通りのようで、飛行機が大きく旋回していくのがわかる。富士山の位置が目印みたいだ。段々富士山が大きくなったか思うとずぼっと雲の中に突っ込んでいった。東京は曇りのようだ。羽田沖には赤潮が出ていた。わー赤潮ってこんなにはっきりわかるんだ。と思っている間に飛行機はもう滑走路を捉えていた。
到着の挨拶をする機長さんの声が若い。私が「二十代かなぁ。」と言うとフミくんは「三十代でしょう。」と言う、どっちだったんだろう。気になる。
羽田空港はきれいになっていた。子供の頃に一度来たことがあるけれど、その頃の面影は全然なかった。
成田に向かう連絡バスの時間まで間があったので、空港内にあるコンビニで稲荷ずしとお茶を買ってきた。
これが物凄くおいしかった。フミくんは美味しい美味しいとぺろりと食べてしまい、「もう一パック買ってこよう。」と行ってしまった。成田でレストランに行く予定だったけれどお腹は大丈夫なのだろうか。
「そんなにお寿司が好きだったの?」と聞くと、「稲荷ずしが特に好きなんだ。」と言う。私達は交際期間も含めてまだ一年以内の付き合いなので、まだまだ相手のことがわかっていない。偶にまだこういう驚きがある。
空港連絡バスは、空港内の敷地からすぐに高速道路に乗った。便利に出来ている。成田までの65分の道中、所々に工事中のマークが出ている所があった。オリンピックに向けて、道路が拡張されているのだろうか。
成田空港に着くと、これがまた田舎者には想像もつかない凄いつくりになっていて、自分たちの乗る飛行機会社によってバスを降りる場所が違うのだ。「三か所に停車しますが、距離がありますから降車場所を間違えないでください。」と運転手さんによる放送があった。バス停では三人ぐらいの係の人が荷物を下ろすために待ち構えてくれていた。すごいサービスだ。
レストランに行く前に荷物を預けようとメア・カナダの受付に行ったが、お昼休みなのか誰もいない。もはやここは半分外国なのだ。先程の日本のサービス業者とは考え方が全然違うのがわかる。
仕方がないので大荷物を持ったまま空港内のレストランに行く。
ここでもフミくんは、日本食の食べ収めだとうどんのランチセットを頼んだ。・・よく入るお腹だ。私は単品の山菜うどんにした。関東でうどんは不味かったかなと思ったけれど、ここのおうどんは出汁が効いてて関西風の味だった。
メア・カナダの受付が再開されていたので、荷物を預けに行く。ずらりと並んだ人たちが皆、当たり前だが外人さんだ。私がひるんでいると、フミくんがペラペラ英語を喋って荷物を預けていく。・・・そう言えば、この人は国立大学を出ている人だった。(注:これは絵美の感想です。)助かった。
出国手続きもスムーズに済んで国外?に出ると、長い長い通路があった。どこまでこの動く歩道は伸びているのだろう。お店と待合場所・動く歩道・お店と待合場所・動く歩道、という繰り返しを何度もして、やっと一番端っこにあるメア・カナダの待合場所に着いた。成田、広いっ。なんと出国手続きをした場所から4✖番搭乗ゲートまで歩いて二十分もかかる。ふぇー。
待合所に座って待っていると、いやにハイな外人さんたちがいた。側にある店で何杯もビールを買ってきては飲むというのを繰り返している。よくも酔いつぶれてしまわないものだ。大柄なおじさんおばさん達にとって、ビールは水みたいなものなのかしら。
放送で、「デンバー行きの○○便に搭乗予定のクリスなんとかさん、いらっしゃいましたら✖✖番搭乗口までおいでください。」というのを日本語・英語・フランス語で繰り返していたかと思ったら、私達の座っていた横をクリスなんとかさんと書いたボードを持った女の人が、その人の名前を呼びながら通り過ぎて行った。
大捜索のようだ。クリスなんとかさんにいったい何があったのだろう。
「あれは、荷物がもう飛行機に乗っているのに、本人がまだ搭乗していないんだろうな。時間も迫っているし大変だな。」
とフミくんが言う。なるほどー。スタッフの人たちはそんな事にも対応しなくてはならないんだな。考えただけでも大変そうだ。
まだ飛行機にも乗っていないのに、なんだかいろんなことがあった。
カナダは行った事が無いので楽しみだ。そして、フミくんと一緒の初めての旅。どんな旅になるんだろう。
絵美の言うように、まだ飛行機に乗っていないのですが・・。
長くなりそうなので、ここまでします。前後半?もしかしたら三部構成になるかも・・。




