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綾香 オーストラリアへ

スピード結婚をしたのんびり屋の綾香。やっと、新婚旅行に行くようです。

 春休み、新婚旅行に行くことになった。

秋の終わりに親族と親しい友達だけのプチ結婚式を挙げただけで、学校の仕事の関係上新婚旅行には行っていなかったのだ。


旅行会社のパンフレットをもらってきてアパートで智樹と二人検討する。

マンガ以外の読み物をこんなに真剣に読んだのは久しぶりだ。

まず目についたのが、「洗練されたプレミアムな休日」と銘打ったオーストラリアの冊子だ。智樹は似合わないことに一度ハワイに行った事があるらしい。

「時差があるのは厳しいよー。向こうについても頭がふらふらしてしばらく使い物にならないし、僕たちの場合、帰ってきたらすぐ新学期だろ、時差ボケで新学年はきついよ。綾ちゃんも新しい学校だから歓迎会とかいろいろあるでしょ。」

という泣きも入ったので、あまり時差のないオーストラリアに行くことにした。



第一日目(水曜日)晴れて良かった。

 軽めの昼ご飯を自宅で取り、三時十五分に最寄駅を出る。

駅前で智樹が写真を撮りたがり、親切なタクシーの運転手さんが二人の写真を撮ってくれたのだが、ちょっと恥ずかしかった。


大賀駅で新幹線に乗り換える。

新幹線に乗る前にコンビニでチョコレートと飲み物を買う。ここで智樹がビールを買おうとしたが、どこで保護者に見られているかわからない。空港に行ってから買えと説得する。代わりにアニメ雑誌を強請られた。うーん、こっちの方が変な先生のインパクト大かも・・。どっちが良かったのかしばし悩む。

大きなスーツケースを転がしてホームに出るためにエスカレーターに乗ると、これから非日常の極め付きの外国旅行に行くんだっ。という感慨が湧いて来て、胸が期待でドキドキし始める。なにしろ私は智樹とは違い初めての外国旅行なのだ。


新婚旅行なので奮発して指定席だ。ここでグリーン車にならないところが私達らしい。新幹線の座席に座るとまずは後ろの人にお断りを入れて、座席を少し倒させてもらう。そしてテーブルを出して飲み物を置くと二人分の切符を車掌さんが来た時に困らないように出しておく。私は物の出し入れにもたつくので予防措置だ。智樹が張り切って、スーツケースの小さいほうを上の棚に載せてくれる。こういう時は男の人と一緒だと助かるのよねぇ。


二人で新学年で一緒になる同僚の話などをする。智樹は新谷先生と今度同じ学年らしい。普通は学年団の顔ぶれが大体決まっているので、今年新谷先生は三年生の予定だった。けれど智樹たちの学年団にいた英語の先生が転勤になったので、智樹たちの学年主任が新谷先生を引っ張ったらしい。一緒に一年生の担任を受け持つことになったそうだ。あの学年主任は副校長に顔が聞くからねー。旨い事やったな。新谷先生はアメリカ留学もしているので、ネイティブ並みの英語を話す。

かく言う私たちもこの度の旅行に際し最低限の英会話をレクチャーしてもらってきた。

それが通じるといいのだが・・・。


中阪に着く直前に、車内放送があった。関空方面に向かうJB線で事故が発生したらしく、JBの切符を持っているお客様でも大海線のテピートに乗れるので、それに乗り換えて欲しい。ということだった。

「ほらっ、こういうことがあるから早く出てきて良かったじゃん。」と私は鼻高々だ。実は何日か前の夢の中で、飛行機に乗り遅れて置いて行かれた夢を見たのだ。空を飛んで追いかけたが、カラスにも笑われるスピードでしか飛べなくて、泣くに泣けなかったという苦い夢だった。

これも海外旅行初心者であるが故のことだろう。

智樹はそんなに早くに空港に行かなくても大丈夫だよーとあきれていたが、あの夢は、私たちが時間の余裕を持って空港へ行くべしという神のお告げだったのよ。


しかし、中阪に降りてびっくりした。駅の中が変わってしまっているのだ。どこに大海線の乗り場があるのかわからない。すると「こっちこっち。去年の研修で名花山に行く時に大海線に乗ったんだー。」と意外にも智樹が頼れるところを見せてくれた。ホームに着くと始発の駅なので時間前だがもう電車が止まっていた。「あっ、あれでしょ。テピート。もう来てるじゃん。早く乗らなきゃ。」私が焦って乗り込もうとしていると、ホームにいたアジア系の五人の男女のグループに声を掛けられる。彼らはシンガポールからの旅行者でこれから帰りの飛行機に乗るために関南空港に向かうところだがJBの事故のため私達と同じく乗り換えを余儀なくされ、どの電車に乗ればいいかわからないというようなことを英語と日本語を混ぜて言っているようだった。

智樹は「ユーアーライト。グッジョブ。ディストレイン、オッケーオッケー。レッツトゥゲザー。トゥーエァアプレイン。」と怪しげな英語で応対している。これが通じた。私などはいくつかの単語は聞き取れたものの咄嗟に返す文章に困って英作文をしている途中だったので、感心した。これが渡航経験者の強みかぁー。


その人たちとは同じ釜の飯ではないけれど同じ境遇に置かれている者同士一気に親しくなった。テピートに一緒に乗っていく間にいろんな話をした。日本でどこを観光したとかこの電車のあのドア横の表示は凄いなとかを相手が言えば、私たちは新婚旅行であるとかアニメが好きだとかの話をした。すると結婚のお祝いを言ってくれていた若い男の子がアニメ好きだったらしく、智樹と意気投合して私にはわからないアニメの話を二人で始めた。私もその子の側にいた女の子も呆れた顔をする。その女の子と彼氏同士の愚痴を言い合っているうちに、私もなんとか単語を並べて会話ができるようになっていった。

わーまだ日本にいるのに海外旅行っぽい。


関空に着くとシンガポールの人たちは搭乗時間が迫っていたらしく慌ただしく別れの挨拶をした。「サンキュー、バーイ、ハブアナイストゥリップ。」等と言葉を交わしているともうベテランの旅行者気分だ。私達も搭乗手続きにいき、重たいスーツケースを預けてから身軽になった身体で小腹を満たすことにする。飛行機の中で夕食が出るそうなので、たこ焼きでも食べるかと飲食コーナーに足を向けた。

ここで以前から食べてみたかったお店のたこ焼きがあったので、テンションを上げて購入した。

「おー、こりゃあうまいな。」「うん。正解だったネッ。」その大きなたこ焼きは口の中でとろっと溶けてしっかりとしたタコの味が出汁の効いた生地の美味しさを引き立ててくれる。うーん、ボーノ。

智樹は生ビールも手に入れてご満悦だ。


軽食をゆっくり取った後、現金を六万円程オーストラリアドルに換える。しばらくこのお金を使うんだ。日本のお金とは匂いも違う。両替所のお姉さんが事務的に控えの転写紙を渡してくれたが、こういうところで働いている人はいろんな旅行者を見てきているんだろうなぁとその生活に思いを馳せた。普段の生活ではなかなか会えない人だ。


動く道路が珍しくてそこで写真を撮っていると、パイロットとスチュワーデスの集団が通りかかった。その中に・・・トモ君がいた!!・・私が惚れ込んでいる「いつか見た蒼穹」というマンガの中の主人公、榊智紀くんのイメージにドンピシャのパイロットが歩いている。凄いっカッコイイ。「あの人を背景に入れて写真を撮って!」とうちのとも君に頼むとぶつくさ言いながらシャッターを押してくれたが、微妙にずれててパイロットの肩しか入っていなかった。なんじゃこりゃ。


いやしかし世の中にはいるんだね。映画スターのようなルックスでパイロットなんていう憧れの職業についている人が。事実は小説より奇なりだな。

あまり私がその事ばかり言うと智樹の機嫌が低下しそうなので、これは帰ってから絵美ちゃんや麻巳子と話すことにする。


そんな事をしているうちに搭乗時間が近づいてきた。搭乗待合室に行かなければならない。その前に初めての金属探知ゲートだ。あれがブブーーッとか鳴ったら恐い警察官に捕まるのかしら・・・。ドキドキする。

ゲートの前の列に智樹と一緒に並ぶ。前の人がしているのを見ていると、平たい網籠に手荷物検査が必要なバッグ・腕時計・携帯電話等を入れてそれを動くベルトの上に置き、荷物を流してから自分が横にある四角い枠をくぐるということになっているようだ。よしっ、わかったぞ。多分液体も見せといたほうがいいんだよね。私は肩掛けカバンから保湿化粧水等の入ったビニール袋を出してバッグの上に置き、検査官の人が荷物を確認しているのを横目で見ながら、エイヤッと金属探知ゲートをくぐった。どきっとしたけれど何の音も鳴らずに普通に向こう側にいる自分に気づく。

なぁーんだ。意外と簡単に済んだね。まぁ、そうでなくては困るが・・。

智樹を見ると上着も脱いで、籠も二つも使っている。後で聞いたら最近は物騒になったから、上着も見てもらうことになっているのだとか。へぇー、知らなかった。


搭乗口の近くの搭乗待合室に行くと、大勢の乗客が集まりつつあった。この人たちが一緒に飛行機に乗るんだね。命運を共にする運命共同体だ。

私達の目の前の椅子に座った人たちは、なんとビーチサンダルをつっかけている。外国に行くのにビーサン?旅慣れていると言おうか何と言おうか。私では思いつかなかったスタイルだ。

オーストラリアは検疫が厳しくて靴の裏も調べられると聞いたので、私なんかは新品の靴を履いてきた。

この緊張感の違いに唖然とする。


「多分あの飛行機に乗るんだろうね。」と智樹が言うので窓の外を見てみると、真っ暗闇の中、飛行機の顔がこっちを向いて止まっていた。乗客が乗り込むアコーディオンの蛇腹のような搭乗道路が飛行機の耳の辺りにもう付いていた。あそこの中を通って飛行機に乗るんだね。

窓の側で飛行機と一緒に写真を撮る。

その時、芸能人に気が付いた。「智樹、斜め後ろの家族を見て! さりげなくよっ。あのお父さん、お笑いの人じゃない?」「うわっ、そうだ。あの人八時からの番組に出てる人じゃないか。」

他の人も気が付いているのか、皆ちらちらとその家族を見ている。ただ一人ではなく小さい子供さんを連れていたので皆遠慮して遠巻きにしていた。

これはまた土産話が出来た。日本を発つ前にこれである。

盛りだくさんの旅行になりそうだ。


ペンタス航空の飛行機に搭乗する。

私達の座席の周りを担当しているお兄さんは日本語がペラペラだった。頭の中でコーヒープリーズとか復習していたので、一気に気が抜けた。これは日本語オンリーでいけそうだ。

シートベルトをして、飛行機の安全に関するビデオを観る。画面の隣でスチュワードさんが首にかける浮き輪の紐の引っ張り方を実演してくれる。手馴れている。これを毎日何回もしているんだろうな。


飛行機は20:30に出発した。オンタイムだ。

ゆっくりと飛行機が動き始める。整備の人たちが手を振っているのが見える。

巨体を重たそうに引きずりながら時間をかけて滑走路の定位置に着くと、急にゴーーーッという重たいエンジンの音が響いてきた。前方を見据えて何かに飛び掛かろうとするように、ガタガタと機体全体が音を立てて揺れる。これでもかというようにエンジンの出力があがる。そして短距離走者が走り出したかのようにスタートを切ると一気に高速にギァチェンジして見る見るうちに空港の建物を後ろに飛ばして走り出した。

ぐぅっと喉の奥につまるものを感じたかと思うと重力に逆らって機体が斜めに上昇していく。

「飛んだっ。飛んだね。」

智樹の手を握ってそう言った時には瞬く間に街の明かりが遠く小さくなっていた。


飛行機の中というのは快適だ。これが雲の上にいるとは思えない程普通に腰かけていられる。乗り物に乗って動いているとは思えない。並行飛行になってシートベルト着用の赤いランプが消えると、トイレに行ってみることにした。これが狭いけれどよく考えられている。これだけのスペースによくこれだけの機能を詰め込んだものだ。荷物置き場も荷物が落ちてこないように工夫されている。一人一人の重たい旅行用の荷物、そして太った人や年寄りや子供も何百人という人を乗せて何万メートルもの上空を飛ぶのだ。そしてその中を立って歩くこともできる。人間ってすごいなぁ。


しばらくすると夜食が出て来た。

小鉢に南瓜のサラダ、蕗と蒟蒻の旨煮。メインは智樹が牛肉豆腐とご飯、私が若鳥のハーブ風味レモンポテトとグリーンピース添え。飲み物は智樹がビール。私が白ワインを頼んだ。

ワクワクして蓋を開けたが、なんともショボ・・失礼簡素なお食事だった。そりゃあ無理もないよね。何百人の食事を何人かのスタッフで用意するんだもの。こんなもんか。


食事が終わるとだんだん機内の明かりが落とされていき、就寝タイムになった。智樹はすぐに寝たが、私は初めての飛行機に興奮して寝られない。

窓の外を見ると下は雲で一面覆われていて、水平線のように雲と夜の境が見える。翼の先の白い点滅灯の向こうに三日月が輝いている。いくつかの星が真横に見えるこれは新鮮な感覚だ。思わず夜間飛行の歌を口ずさむ。ボルネオ島かミンダナオ島の辺りでは雲が途切れ、暗い海に雷がビカビカ光っていた。「智樹、もうすぐ赤道よ。」と声を掛けると「ほんと?赤い線見えた?」と寝ぼけ声で言ってまた毛布をかぶって寝た。翼の手前にある赤い点滅灯の向こうに十文字の形の南十字星が見えて来たころ、私も眠くなってきて毛布をかぶってうとうとする。


・・・ところがこの後すぐ、真夜中に叩き起こされることになる。「グッモーニン。」と言いながらスチュワードさんがバナナを配り始めた。大きなプリンのカップも配られる。これはなんと中身はジュースだった。

どうもこの飛行機は、オーストラリアのケアンズに現地時間の4:55に着くらしく、これは朝ごはんという訳だ。しかし、乗客の身体はまだ真夜中。みんな目をホチホチさせている。私も寝入ったばかりだったので目が開かない。

無理矢理バナナを一口食べるとまた毛布に潜った。


これが私の新婚旅行一日目である。



一日目にしては、盛りだくさんでしたね。

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