名もなきうたはいまもどこかで
あるところに無知な王様がおりました。
王様になったというのに人間について無知なので様々な問題がおこりました。
無知な王様は思いました。
人間が持つ当たり前の感情を知りたい。
友達の妖精達はそんな王様にそれぞれ思い付いた話を聞かせます。
音の妖精は音楽の楽しさを教えてくれました。
火の妖精は人間に対する怒りを教えてくれました。
風の妖精は実りの喜びを教えてくれました。
水の妖精は喪失の哀しみを教えてくれました。
王様が毎年そんなことを繰り返すものだから人間は面白いとそれぞれの妖精に春夏秋冬の呼び名をつけました。
王様がその話を妖精達にすると妖精達は王様の力になれたことを嬉しく思いました。
ところが人間の一人が言います。
「王様は妖精の話ばかりで私達の話を聞いてくれない。」
妖精達は人間の為にしていたことが、間違いだと気付きました。
王様と妖精が話をする為の搭には鍵をかけて誰も入れなくしました。
王様は言います。
「妖精達が扉を閉ざしてしまった。お前達が季節を止めたのだ。」
その後雪に埋もれたまま新しい季節の訪れなくなった国で人々は長く過ごすことになります。
やがておかしいと気付いた人々は王様に謝罪しますが、王様は妖精達に謝ってももう季節を戻すことは出来ないと知っています。
王様はお触れを出しました。
冬の女王を春の女王と交替させた者には好きな褒美を取らせよう。
ただし、冬の女王が次に廻って来られなくなる方法は認めない。
季節を廻らせることを妨げてはならない。
いくら謝っても聞き届けてくれない王様に人々は怒り、誤って殺してしまいました。
それ以降この国の雪は止んだことがありません。
そうして誰もいなくなったのです。
「このお話はこれでおしまいです。」
詩人は詠う。
「まぁ、死んでしまうなんて可愛そうな王様。」
「おかしいわ。誰も助からなかったのに何故あなたはこの話を知っていたの?」
「妖精達の名前は今でも有名なんだよ。彼女達は今でも嘆いている。」
「後味の悪い話だ。そんな話を聞かせるなんて。」
「さて、数年前に新たな国がその近くに出来たのはご存知ですか?雪止まぬ地となった国に人の住まない国が出来たのです。」
「人の住まない国?」
「人のいない国なんてなんの意味があるの?」
「それは国と言えるのか?」
「ここまで話せば、皆様は死んだ王様の正体が解りますね?」
「え?そういう話だったのか?」
「正体?」
「さては嘘を言っているな?」
観衆に詩人は唄う。
「さあ、皆様答え合わせをいたしましょう。この国の神の名前をどうぞ。」
「え?」
「神の名前?」
「そんなの神官様ぐらいしか知らないんじゃないか?お前知ってるか?」
「待てよ。その話が本当ならこの国が雪止まぬ国だったということか?」
「馬鹿らしい。」
「嘘つきだ。」
人々は興味を失い去っていく。
「ねぇ、お兄さん。答えは?」
一人残った女の子は詩人の服を掴んでいた。
「興味ある?」
「うん。だって間違えて殺されたんでしょう?話合わなきゃ仲直り出来ないって思うけれど。なんでその人達は話を聞かなかったの?」
「……じゃあ、聞かせてあげる。」
詩人は派手に楽器を鳴らして謡う。
「これより語るはある男の物語。」
「………え?」
驚く少女に詩人は氷の花を差し出す。
シャンシャンシャンシャン……
男の袖には何かが付いているのだろう。先程までは何も音など出さなかったのに腕を振ると綺麗な音がする。
謳う詩人を少女だけが見ていた。
その音はどこか静かなもので人々の声に消えてしまいそうなものだったが、少女の心に響くものだった。
「お兄さんは王様のお友達なの?」
「さぁね。」
男が笑いを残して煌めくように消えると少女は氷の花を像の下に置きます。
「王様神様お猫様。妖精様といつまでも仲良くいてください。」
残された花は溶けて消えました。
ゴロゴロゴロ………
「トム。何かいいことがあったの?」
喉をゴロゴロと鳴らす猫を妖精達は不思議そうに見る。
「私は神様として人々の心に残るらしい。嬉しい。私を長く縛り付ける人間達にはさすがに文句を言ってやりたいという気持ちもあったが、私はこうして自由に草原を走れるようにまでなった。これで私は夢を叶えることが出来る。ありがとう。」
トムは走るのを止めて四人に頭を下げ、感謝した。
妖精達は不満を漏らす。
「夢って、草原を走ること?他の国でも出来るでしょうになんでこの地に拘るの?」
「あなたは人間達に騙されたのに。」
「また人間があなたに酷いことをしたら氷漬けにしてあげるから!」
「あなたはやり過ぎよ。」
四人がそれぞれに言いたいことを言うのを猫はゴロゴロ言いながら聞いている。
「私を王にした人間達はもういない。もうレオ様と呼んで崇められ、閉じ込められることはない。十分だ。」
「トムは甘いなぁ。」
「人間があなたを王にしなければ、あなたの体は死ななかったかもしれないというのに。」
「私はあなた達にも感謝しているが、人間達にも感謝している。妖精になれたのは彼らのおかげなんだ。」
「白猫が私にお願いしなければ、あなたの魂も甦ることなく妖精になることもなかった。ねことして亡くなっていましたわ。……私達はとても寂しいわ。」
冬の女王が思い出して泣くと涙は吹雪のように回りを凍らせた。
「薄情な人間達に何を感謝しているというんだ?!お前は体を失ったんだ!もっと怒るべきだ!」
夏の妖精がカッと怒るとトムは穏やかに言った。
「人間のおかげなんだ。私が皆に会えたのも、白猫と会えたのも。」
にゃーお
搭に集まっている四人に白猫はにゃーおとないて一人ずつ頭を下げます。
「私の友達がレクイエムを作って私を思い出し、白猫がそれを聞いて私を探して花を届けてくれたからこうして皆とまた話せる。私は皆にとても感謝している。」
「偶然が重なった奇跡のようなことで人間の過ちが許されるなんておかしいわ。」
「また同じことが起こる前に正すべきだ。」
「………でも、トムを王にした人間達はもういないわ。私達は何も知らない無実の人間になんでそこまで楽しくないことを続けなければならないの?」
「……そういえば。もうあの人達は死んだのね。」
「人間の寿命は短いから解らなかったけれど……」
「どうしましょう?」
四人が悩んでいるのをトムはゴロゴロと喉を鳴らしながら見守ります。
「とりあえず、再会のお祝いをしましょうか?」
「そうね。」
搭でごちそうを皆で仲良く食べ終わる頃には妖精達は面倒なことは考えなくなり、寄り添う二匹の猫達とすっかり仲良くなりました。
「主ー!俺にも何か恵んでくだせー!」
「ん?ジンはまだランプに戻らないのか?」
「当たり前でしょう!主が友達が欲しいって言ったんですよ。」
「え?もう妖精の友達出来たよ?」
「そりゃないですぜ、主ー!俺主が死んでも側にいるのにー!あ、新しいうた出来たんですよ!」
「賑かな男ね。」
「無駄にうるさいわ。」
ジンと呼ばれた男は手品のように色々な楽器を出して様々な曲を演奏していく。
「楽しい曲ね。」
「激しいものもあるのね。」
四人と二匹が聞き入っているとジンはふと演奏を止めた。
「そういえば、こちらの白い猫さんはどうしてトムさんにお花を?」
にゃーお
「なんて言っているのかしら?」
五人には解らなかったが、猫二匹は固まっていた。
「嬉しい。」
お花をくわえた白猫は黒いトムの体に体をスリスリするとゴロゴロとなきます。
二匹が仲良くじゃれているのを見て五人はなんとなく悪いことではないのだろうと察しました。
「みんな。私に色んな感情を教えてくれてありがとう。」
妖精達は白と黒の猫の幸せそうな姿を見ると心が暖かくなりました。
数年後、帰ってきた猫二匹はそのまま搭に住み着くようになります。
四人はその後交代で搭を訪れ、友達に会いにきたついでに人間を見張ることになります。
めでたしめでたし。
童話になっているでしょうか……?
猫は複数の名前を持っているものですので色々な話をまぜてます。
まぜすぎてランプまで……あれ?猫関係ない←