カップ焼きそばのシュールな純愛 ~ カップ焼きそばの気持ちになって書きました ~
注:カップ焼きそばの一人称視点です。擬人化って素晴らしいですね。
登場人物: 私(カップ焼きそば)、彼(お湯)
純愛と笑いを詰め込んだつもりです。
誰か書いてそうな気がするけど気にしない!
朝焼けが世界を赤く染める、私(カップ焼きそば)が彼(お湯)に会ったのはそんな頃だった。
その日も私は、いつものように、身動きひとつせず。ただ流れゆく時にまかせる。
今日もまた、いつもの一日。そんなことを考えていた。
でも、その日、私の運命は激変する。
扉が開かれる。乱暴に、荒々しく。
家から引きずりだされる。まるで物を扱うかのように。
そして扉が閉められ、私は帰る場所を失う。
そこは、冷たい木の床の上。
そこで私は全てを露わにされる。
私は状況についていけず。
考えることもできず。
ただただ、流れに身を任せた。
やがて訪れる静寂。
静かな空間、静かな時間。
遠く彼方から聞こえる、悲鳴のような高い音。
そんな音さえも私を落ち着かせる。
私が彼と出会ったのはそんな時だった。
◇
それは突然に。一方的に。私は彼に包まれる。
つかみどころがない彼は、固かった私の隙間をうめる。
彼の煮えたぎるような熱さは冷たい私を温め、熱くする。
そんな彼に私の芯はとかされて。
そうして、彼と私は求めあう。
彼の熱が私に伝わる。
彼のみずみずしさが私をうるおす。
乾いた私は彼で満たされる。
乾いた私はただうるおいを求め。
冷たい私はただ熱を求める。
僅かな時間はまるで永遠のよう。
冷たく固い私は遥か彼方。
本当の私が産声をあげる。
◇
朝の陽ざしが世界を照らし、暗かった世界は終わりを告げる。
太陽が世界を温め、暁の陽ざしが世界を赤く染める。
無限の時間は終わりを告げ、彼との別れの時が迫る。
◇
彼の熱がほんの少しだけ冷める。
これ以上彼にひたっていてはいけない。そう悟る。
そんな心を察したかのように、至福の時間は終わりを告げる。
私と彼は引き離される。
突き動かされ、揺さぶられながら。
お前にはもう熱もうるおいも必要ないとばかりに。
これ以上のばしてはいけない。
これ以上は自分をダメにする。
そう自分に言い聞かせる。
遠くからなにかが凹む音が聞こえる。
その音が私の心を表している気がした。
◇
彼の熱を失って。
それでもまだ、私の中に熱さは残る。
簡単には無くすことはできない。
そうして、白く綺麗だった私は黒く染まり、かき回される。
戻れない。固く冷たい私には。
ぬくもりを、みずみずしさを得た私はきっと。
もうあのころのように流れゆく時に身を任せることなど許されない。
それでも、これで良かったと思う。
今の私が本当の私。
黒く汚れてかき乱されて。それこそが私の本当の姿。
きっと、今の私が一番。これ以上は無い。
こうして、私の輝く時間は幕を閉じる。
◇
朝の陽ざしが世界を照らす。
夜の時間はとうに終わり。
暁の時は静かに過ぎて。
赤く染まった世界は色をなくし。
やがて喧噪の中に世界は戻る。
きっとこれは、ありきたりな、何処にでもある、そんな小さな物語。
2016/10/17 ルビを一部削除
2018/09/08 ルビを一部追加