001
あまり厳しい目で見ないで軽い気持ちで読んでください。
どうかお手柔らかに。
妹のおっぱいは、マシュマロみたいな揉み心地だった。
ふかふかでプニプニでモチモチで、どこまでも指が沈んでいきそうな柔らかさがあると同時に、掌を軽く押し返す張りと弾力。小ぶりながらも夢と希望が詰まっていて、正反対の性質を合わせ持ちながらそこに体現し続ける奇跡の物体。
これがおっぱい。
これがパイ乙。
これが乳房。
女という生き物はこれ程までの神秘を抱えて生きているというのか!
おっと待て待て、落ち着くんだ俺。冷静になるんだ凛洞卯兎。
いくらこのおっぱいが、現在進行形で俺の腕の中に収まっている超絶美少女のものとはいえ、血を分けた肉親に、ましてや気絶している相手に手を出すなんて……あっ、やべ、鼻血出てきた。
そもそもなんなんだこの衝撃は。なんなんだこの胸の高鳴りは!
ただの肉塊に触れただけなのに何故ここまで心地いいんだ!
俺が年齢イコール彼女いない歴の童貞だからか?
暗闇なのをいいことに、公園で妹を相手に破廉恥な行動をしているからか?
否! 俺がこんなに興奮しているのは、このおっぱいが永延片想いの相手、凛洞恋焦のおっぱいだからだっ!!
なるほど、この俺もおっぱいを前にしては、兄である前に一匹の狼だったというわけか。
いや、この興奮は何もおっぱいとの初体験だけで生じたものではない。
気絶している実の妹を相手取る、という二重の意味での禁断の展開。服越しとはいえ、最愛の人の性感帯に接触しているという満足感と、その行為を無断で行っているという背徳感。さらには、恋焦の背中から伝わってくる体温と心音。それに首筋から仄かに香る女の子の匂い。
その他諸々の心理的な高揚と、物理的な刺激が合わさったこの状況だからこそ俺はこんなにも興奮してるんだ。
ああ、ごめんよ、我が妹よ。
中学三年生の胸なんてこんなものか、とか思ってて。
恋焦の最大の欠点は巨乳じゃないところだ、とか思ってて。
本当に、本当にごめんな。
お兄ちゃん、もし過去に戻れるなら、巨乳エロ画像を見てニヤニヤしていた自分を殴り飛ばしてやりたい。そして言ってやるんだ。本当に大事なのは大きさじゃない、そのおっぱいを愛せるかどうかだろって。
それにしても心地良い。
ただ揉んでるだけの単調作業なのに、全く飽きが回ってこない。なんならこのまま天寿を全うするまで、ずっと揉みしだいていたいぐらいだ。
おっぱいと共に生き、おっぱいと共に死ぬ。
これ以上男冥利に尽きる生き方が他にあるだろうか。
人間なんて所詮は獣、本能には逆らえない。
とかなんとか。
ついつい一人語りに花を咲かせてしまったが、それもどうやらここまでのようである。
初めてのおっぱい体験で舞い上がっていた心が、段々と、徐々に徐々に冷めてきた。
頭がクールになってきた。
結果、おっぱいおっぱい言いすぎて趣旨を見失っていることを思い出したが、これは俺が悪いのではなくおっぱいが悪い。かわいいはいついかなる時でも正義だが、時にはエロが悪に染まることもある。
俺は悪くない。悪いのは魅力的すぎる恋焦のおっぱいだ。俺は悪くないんだっ!
兎にも角にも、俺にはもうくだらないことを考えてる猶予は残されていない。
暗闇の、屋外で、去れるがままの、妹と、二人っきり、という実にたぎるシチュも、そろそろ終わりを迎える頃合いである。
至福の時はそう長く続かない。
だから変態トークも終わりにして、ここからは真面目な話をしよう。
現状をより深く理解するために、そして未来を明確にするために、これまでの軽い話はやめて重い話を、もとい、重さの話をしようではないか。
俺は桜が舞う時期である今日この頃。
多くの家庭に幸せの香りが漂っているであろう夕食時に、つまりは今から計ること数秒前に、やっとの思いで手に入れた。
全てを投げ出してようやくこの手に掴んだ。
男の夢。この世に残された最後の希望。死ぬ気で、必死に、決死の覚悟を持って初めて手が届く代物。
すなわち、――――生涯おっぱいを揉み続ける事が出来る権利を!
それも、過去、今、未来、あらゆる時代を生きた全ての女性達のおっぱいの中で、最も価値があるであろう恋焦のおっぱいを、だ。
やったーー。
いぇーーい。
さいこーー。
と、普段の俺なら狂ったようにはしゃいでいそうなものだが。今は違う。そんな余裕は微塵も残されていない。
再度言うが、これは真面目な話だ。
俺の軽い命を賭けてもいい。不本意ながら恋焦の重い命を賭けてもいい。
またしてもおっぱいの話で悪いが、この話は至極真面目な話で、さっきまでのふざけたおっぱいの話ではなく真剣なおっぱいの話だ。
考えてもみて欲しい、おっぱいを生涯揉み続けるとはどういうことか。
それはいつ如何なる時でもおっぱいに接触し続けるということで、現代社会においては不可能と言っても過言ではないということを。
一種の運命共同体。
一心同体とまで言わずとも、それに近い環境を強いられることになる。
寝る時も食べる時も、しゃべる時も歩く時も、常におっぱいから手を離さなかったら、とても生活など出来はしない。
というか即座に通報される。
もし仮に、恋焦の許可を取ることが出来たとしても、周囲の人にはそんなの関係ないわけで、十中八九お巡りさんのお世話になることだろう。
だがしかし、人生何があるか分からない。
どの業界でも、どの概念でも、世界中を探せば例外はある。
例外中の例外は存在する。
裏技も反則技も、理を追求すれば正攻法に成り得るし、定石だって最初は奇抜な一手にすぎなかったはずだ。
方法は分からないが、手段があるのは確か。
ならば、やってやれないことはない。
断固たる意志さえあれば高すぎる壁でも乗り越えられる。
おっぱいという名の偉大なる双丘さえも登りきれる。
はっはっはーー。
世の男どもよ、俺を称えろ、そして慄きやがれ。
どうやら天は、地は俺の味方のようだ。
俺はおっぱいと共に栄光をこの手に掴む。
恋焦のおっぱいは誰にも触らせん。どうしても触りたいというのなら俺の屍を越えて行け!
「はっはっはっーー……」
おっと。
いけないいけない。
話が断線してしまった。またしても趣旨を見失うところだった。
三度言うがこれは真面目な話だ。
妹に面目なく、生真面目な内容だが、それでも真面目な話であることには違いはない。
そして当たり前の話だ。
それはもう、重さのある物は重力には逆らえない、といったようなごく普通な話で、人間そう簡単には自然現象にも自然の摂理にも逆らえないということを実感しただけの話である。
何度も言うようで悪いが、俺は生涯おっぱいを揉み続ける事が出来る。
当たり前のように我が物顔で、死ぬまでおっぱいを堪能出来る。
それは何故か。
答えは簡単。
死ぬ気で、必死に、決死の覚悟を持って今の状況を作ったからだ。
断固たる意志を以って、例外を成し遂げたからこその当たり前であり、努力の末に実った普通。
ならば当然――――俺が死ぬ運命にあるのも当たり前なのだろう。
死ぬ気で、必死に、決死の覚悟を持って挑んだんだから、死んじまうのもしょうがない。
「あーあ、死にたくねーなー。てか、死なせたくねーなー、こいつだけは」
俺は腕に加えている力を強めて、恋焦の体をぎゅっと抱きしめた。
そう、俺は今一人じゃない。
一人ぼっちではなく二人きり。
素晴らしいおっぱいの持ち主である恋焦も一緒だ。
この例外において俺達は運命共同体。生きる運命も、死ぬ運命も分かち合うことになる。
「不甲斐ない兄貴でごめんな――――恋焦」
本当に、情けない――――
出来れば恋焦の命だけでも救ってやりたいが俺にはどうすることも出来なさそうだ。
だって俺たちは今、ビルの屋上から地上の公園に向かって、高速で自由落下している真っ最中なんだから――――――。
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話は遡ること数時間前。
俺は決して広いとは言えない台所に立って、夕飯の準備をしていた。家のルールでは俺と恋焦が毎日交代で夕飯を作ることになっていて、今日は俺が当番の日だ。ちなみに、今日の献立はみんな大好きカレーである。
BGM代わりにテレビをつけ、最近のお花見事情なる企画の街角インタビューで、場所取り中のサラリーマンが話をしているのを聞きながら黙々と手を動かす。
男子高校生がキッチンに立つのはあまり一般的ではないかもしれないが、十数年間料理をしていれば慣れたもので、同年代の紳士淑女と比べたら数段上の腕前があると自負している。もっとも、恋焦には料理どころか家事全般に置いて到底かなわないのだが。
「花見ね~、この辺りも丁度満開だろうし、食べ終わったら恋焦と一緒に夜桜でも見に行きますかね~~」
鍋の中でカレーをかき混ぜながら一人呟く。
花見スポットとして最初に思い浮かぶのは近所にある小さな公園だ。
名前は知らないが、桜の公園、と言えば一発で伝わるぐらいには有名な公園で、桜、というキーワードで直ぐに思いつくだけあって、その公園の桜は日本全国津々浦々の有名な桜にも引けを取らない立派な物だ。
何十年、何百年とそこに在り続けた一本桜は、その雄大さと美しさで見る者たちを圧倒させる。
そんな凄い桜なら公園なんかじゃなくて、もっと人の目が多い所に植えられそうなものだが、一本桜はひっそりとその土地に根を張り続けている。
なんでも俺が産まれるよりも昔、一本桜をえらく気に入った資産家の夫婦がいて、その人たちが小規模ながらも桜の周辺の土地を買い取り、小さな公園にしたらしい。
今では都市化が進み、公園の周りをアパートが林立するようになってしまったが公園と一本桜は形を変えることなく健在で、公園のシンボルとしてそびえ立ち続けている。
一時期は公園を取り壊し、ビルを建築しようとする計画があったそうだが、合計年齢が百八十を越えた老夫婦はお金をいくら積み立てられても首を縦に振らなかったらしく、桜は春になれば美しいピンク色の花を満開にする。もっとも、風景や活気はコンクリ色に枯れてしまったが。
俺としては薄暗い街灯と窓から漏れ出す生活光で淡く照らされた夜桜もなかなか趣があると思うのだが、世間的にはそうでないらしく、次第に人の足は遠のいてしまったようだ。
まあ、高層ビルに囲まれた公園なんて一番の客である子供達や、その保護者達にもあまり良いイメージを湧かせるこもとないだろうし、ここだけの話、二年前に人が死んだこともあって近隣住民の間じゃ心霊スポット的な扱いになっている。
最近では恋焦もすっかり近寄ろうとしなくなってしまったが、俺はどうにもあの場所を嫌いになれない。過去に色々あったとは言え、俺にとっては大事な場所だ。
閑話休題
俺は花見がしたいという用件のLINEを送るために、鍋を警戒しつつスマホが置いてあるリビングに向かう。
べつに火を止めても良いのだが、カレーは時間をかけた方が美味しくなるイメージがあるし、なんなら丸一日煮込んでいたいぐらいなので、少々マナー違反でも火を止める気はない。
料理は時間との勝負でももあるが、時間と友達でもあるのだ。
「さてさて、どう説得して恋焦を公園に行かせるかね。あの場所に近づきたくない気持ちも分かるけど、そろそろ吹っ切れないと恋焦も辛いだろうし……にしてもあいつ、今日は帰りが遅いな」
いつもはもっと早く帰ってくるのに。何て考えながらふとテレビに目をやる。
今度は中年サラリーマンとは打って変わり、大学の飲みサーとやらで花見酒を交わしているお兄さんお姉さん達に白羽の矢が立ったようだ。緊張してるのか酔っているのか、顔を紅くしながら呂律の回らない口でインタビューに応えている。
残念ながら俺にも恋焦にも友達と呼べる人間はいないようで、その光景が羨ましいと思う反面、目に毒だとも思う。俺は自他共に認めるシスコンで、恋焦さえ隣にいてくれればそれでいいと思っているが、恋焦は自分の境遇をどう思っているのだろうか。
「そういう事もこれを期に話し合ってみるかねって、あれ、メール来てる」
小さい決心をしながらスマホの電源を入れ、ホーム画面を見てみるとメールを報せる数字が表示されていた。
どうせ迷惑メールだろと思いつつアイコンをタップし、受信覧、ガラケーでいうところの待ち受け画面を見てみると俺の予想が外れたことが判明する。どうやらそのメールは、深愛に信愛を重ね真愛し尽している親愛なる妹、凛洞恋焦その人から送られて来たもののようだ。
いつもは大抵の事をLINEで連絡し合っているのに、今日はどうしたのだろうか。
さっそくメールを開いてみる。
差出人の欄には、恋焦、と登録名が表示され。
件名には、お兄ちゃんへ、と珍しく丁寧に綴られていて。
本文には――――――
「――――――…………!!!」
俺はスマホを放り投げながら玄関へ直行し、踵を潰しながらスニーカーを履き、戸締り鍋の火テレビの電源を放棄して外へ駆け出した。
宙を舞うスマホには、『いままでありがとう、さようなら』という一文が確かに書かれていた。
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「恋焦の奴、なにバカなこと考えてやがるっ!」
辺りを見回しながらひたすら走る。
屋上、川辺、横断歩道。
とにかく自殺に向いていそうな所をしらみ潰しに探して行く。
自殺。
メールを読んだ瞬間、頭を過ぎった恐怖の言葉。
あの文面から想像するにはいささか飛躍しすぎているかもしれないが、どうにも胸騒ぎがして、嫌な予感が頭から離れない。
ただの反抗期、ただの家出、ただの冗談、可能性はいくらでもある。
でも俺は自殺を真っ先に想像した。恋焦の境遇を知っていれば、何より俺たち家族の境遇を知っていればそれは当然かもしれない。
「俺の考えすぎたと、いいんだけどな。はぁ、はぁ、にしても、どこをどお探せば良いんだよ。室内にいたら、絶対見つからないだろ、これ、はぁ、」
膝に手を付き、息を切らしながら愚痴をこぼす。
所在範囲不明。
現在状況不明。
タイムリミット不明。
分かっている情報は妹の容姿性格と、これから起こすであろう行動呑み。
どんな人探しだよ、こんなのハードモード過ぎるだろうがっ!!
走る。走る。走る。走る。走る。走る。走る。走る。走る。走る走る走る走る走る。走る。
ただひたすらに、がむしゃらに、めちゃくちゃに、全身全霊の力を使って走る。
道という道を、まるで迷路を塗りつぶしていくかのように駆け抜けて可能性を潰して行く。
道無き道を、まるで無人島を開拓する様に突き進んで可能性を増やしていく。
愛を原動力に、恋を歯車に、涙で頭を冷やしつつ、怒りでネジを飛ばしながら、凛洞卯兎という人間を構成している最後の恋焦を血眼になって探す。
幸いなことにここは田舎町。
元々の人口が少ないのだから今の時間帯に出歩いている人間はさらに少ない。
そんは人口密度が低い環境下で恋焦のような目立つ人間が、十人中十人が二度見する。実質十人中二十人が振り返るような美少女が、誰もが目を疑う不審な行動をしていたら目立たないはずがない。
だから肝心なのは場所ではなく時間。
捜索は比較的容易でも、捜索時間が生死を分ける。
今日は時は金なりとはよく言ったものだと、つくづく痛感する一日だ。
走る。走る。走る。走る。走る。走る。走る。走る。走る。走る走る走る走る走る。走る。
「くそっ、帰ってきたら『お兄ちゃんの一日メイド刑』に処してやるからな、あのちんちくりんめっ!」
走る。走る。走る。走る。走る。――――――。
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もうどれくらい走っただろうか。
すっかり日が暮れてしまい空には爛々と数多の星が輝いている。
ゴールの無い疾走を繰り返し、息は絶え絶えで、額には滝のように汗が流れ出ていた。
足は生まれたての小鹿の様に痙攣を起こしていて正直立っているのもきつい。
その一方、脳みそは妙に冷静で、もっと早くメールをチェックしてれば良かったとか、そもそもあの時、放り投げないでそのままスマホを使って説得すれば良かったとか、走らずに自転車に乗って探せば良かったとか、今更遅いと分かっていながら自分の失態を恥じているが、今となってはそんなことどうでも良い。
何はともあれ、結果オーライだ。
まだかなりの距離があるとはいえ、俺の眼球にはしっかりと、凛洞恋焦の姿が映っているのだから。
「やっと見つけたぞこんちくしょう。はぁ、はぁ、まさかここにいるとは思はなかったぜ、あーーテレビ見てて良かった。お花見企画にはマジで感謝だな。もし見てなかったらここに来るのはもっと後になっていたかもしれーや」
俺は視線をずらし、どでかい桜の木を見つめながら今度は歓喜の声をこぼす。
そう。
俺がたどり着いたのはついさっきまで回想していた公園で、恋焦はその公園の真横に建てられているマンションの屋上にいた。
公園の桜は予想通り満開で、こんな状況でも心を踊らされる程美しく、惚れ惚れする。
機会があればゆっくりと眺めたいものだか生憎そんな時間は残されていない。
恋焦はヘッドホンを装着しながら目を固く瞑っていて、まるで世界を自分から拒絶しているかのようだ。
律儀なことに、わざわざ裸足になっていて、綺麗な素足をぶらぶらと前後に揺らしながらマナー講師顔負けの姿勢で優雅に座ってる。
見つかった事、そして何より生きていた事に安堵するが、残念なことに、状況は改善されたとは言い難い。
なんせ恋焦が座っている場所は、屋上に設置されている柵の上なのだから。
高さは十階相当。足場は無し。
花見をするには最高のロケーションだろうが今の状況においては最悪の場所。
ザザザッと桜の枝を鳴らすビル風が恋焦の長い髪やスカートをなびかせていて、月明りに影を揺らされるその姿は、近づいたら崩れそうな程儚げだった。
さて、どないしよう。
これはかなりまずい状況だ。
関西人でもないのに思わず関西弁が出るくらいまずい状況だ。
恋焦の華奢な体を支えているのは不安定そうな鉄柵だけ。
今はギリギリセーフだが、突風が吹いただけで、下手したら風向きが少し変わっぐらいで、もしかしたらもしかするかもしれない。
何かしらの手を打たないとこのままでは――――――
「――――――恋焦のスカートの中が見えちまうだろうがぁぁぁぁぁああ!!」
俺は体に蓄積された疲労を無視して思いのままに叫ぶ。
スカートの中が見える、それはすなわち、パンツが見えるということである。
下腹部を守る最強にして最後の防衛ライン、麗しい少女の下着姿、それが露見するかもしれない緊急事態だ。
こんちくしょーーっ!
恋焦のぱんちらは正直、是非とも見てみたい。この眼でしかと見届けたい。
が、しかし。
この俺ですら片手で数えられる程しか見たことのない恋焦の下着姿を、現役女子中学生の生パンツを、風なんてベタな原因で世間に晒すわけにいかない。
なんとしてでも阻止しなくてわ!
恋焦の貞操は文字通り風前の灯火。
恋焦が身を投げるよりも前に恋焦の下に辿り着くのは勿論、スカートが捲り上がる前に手すりから降ろすのは絶対条件だ。
俺は公園を横目にマンションの敷地に無断侵入し、鉄製の非常階段に駆け寄る。
そして非常階段の手すりを掴みながら走り幅跳びの要領で思いっきりジャンプし、非常時以外使用出来ないように張られていた鎖を一気に跳び越えて、ガシャンッ、と大きな音をたてつつ三段目に足を掛けた。
目指すは屋上。
甲高い足音を響かせながら、乳酸が溜まった筋肉を動かす。
一階、二階、三階。
元々切れていた息が更に激しくなる。
今日だけで数年分の酸素を摂取した気分だ。
四階、五階、六階。
恋焦との思い出が頭を埋め尽くす。
子供の頃一緒に遊園地に行ったこと。
恋焦に恋愛相談をされて本気で落ち込んだこと。
つい最近、スリーサイズを聞いたら全力で殴られたこと。
色んな情景が脳裏に浮かぶ。
七階、八階、九階。
足が悲鳴を上げるどころか絶叫しているように感じる。
体力はとうに燃え尽きていて口を動かすのもしんどい。どうしてまだ動けるのか、どうしてまだ走れるのか、我ながら不思議なぐらいだ。
そしてついに屋上。
恋焦と同じ舞台に足を踏み入れる。
一歩、また一歩と恋焦に歩み寄り、俺たちの距離が三メートルを切ったとき、体力とは裏腹に気持ちが爆発した。
「恋焦ぉぉぉぉぉおおおおおおーーーー!!」
卯兎君は決して変態というわけではございません。
今回はちょっと気が動転してただけです。
その証拠に文章がきれいじゃなかったですよね(ただの作者のいいわけ)