うそつきつね
昔々あるところに、それはそれは仲の良い、たぬきときつねがいました。
ある日のことです。いつものようにきつねがたぬきの元へ遊びに行くと、たぬきは笑顔で言いました。
「きつねくんきつねくん。今日は君の誕生日だね。だから、この山を下った先にある人間たちの村で、好きなもの買ってくるといいよ。もちろん、人間に化けてね」
きつねが見ると、たぬきの手には金貨が三枚握られていました。
しかし、きつねは悲しい顔で答えます。
「ありがとうたぬきくん。でも、僕は悪さばかりする人間たちが怖いんだ。村にはいけないよ」
「大丈夫だよきつねくん。人間の中にも、優しい人はいるものさ」
話を聞いたたぬきはきつねを励ましましたが、きつねは首を横に振りました。
「ううん。やっぱりやめておくよ。その代わり、この金貨を大切にさせてもらうからね」
「そうかい。わかったよ」
たぬきはそう言って、きつねに金貨を渡しました。
それからきつねは、たぬきからもらった金貨をそれはそれは大切にしていました。
来る日も来る日も、大事に扱っていました。
しかしある日、事件が起きました。
きつねが小屋を空けている間に、金貨が一枚盗まれてしまったのです。
その盗んだ犯人は、村から来た人間でした。
後からそれを知ったきつねは酷く落ち込み、そして怒りました。
「やっぱり、人間には悪い人しかいないじゃないか!」
そう思ってしまうほどに。
そんな事件から数日が経ったある日のことです。
きつねは偶然、山の中で一人の男を見つけました。
そして思ったのです。
「この前の仕返しに、あの男から金貨を騙し取ってやろう」
そう決めたきつねは、足を怪我した女に化けると、ゆっくりと男に近づき、こう言ったのです。
「すみません。足を怪我してしまい、どうしても動けません。どうか、村の病院までおぶってもらえませんでしょうか」
きつねの話を聞いた男は、驚きながら言いました。
「それは大変じゃ」
男は持っていたタオルをちぎり、包帯のようにしてきつねの足に巻きました。
そして男は、女の姿のきつねをおぶって山を下り始めました。
最初こそ、順調に進んでいた男でしたが、少しずつ少しずつ、疲弊していき、漏れる息の音も大きくなっていきました。
それを見ながら、後ろできつねは、しめしめと笑っていました。
疲れきった男が、自分を見捨てた時こそ、金貨を盗むチャンスだと、考えていたからです。
「なぁ、おなごよ」
男の呼びかけに、きつねはやっとその時か、と思いながら答えます。
「なんですか……」
しかし、きつねの予想とは裏腹に、男は疲れた声で言いました。
「痛くは、ないか?」
きつねは驚き、返答に困りました。
そうしていると、男は続けます。
「病院まで、もう少しの我慢じゃ。待っておれ」
きつねは、返す言葉が見つかりませんでした。そして、自分のしていることがとても恥ずかしくなりました。
人間というだけで、こんなに優しい男から、金貨を騙し取ろうとしていたことがです。
そうだ。もしかしたらこのタオルだって、男にとって大切なものだったかもしれない、そう気づいたきつねは、女から元の姿へ戻り、ひっそりとそこから去りました。
「おなごよ?どうした?」
返事をしない女を気にしてか、男が後ろを振り返ると、そこにきつねの姿はありませんでした。
ただ、男の手のひらの中には、キラキラと輝く綺麗な金貨が二枚、残されていましたとさ。