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第8話 ギルド

 さて、俺はなぜか分からないが、まるで悟りを開いたかのようにとても冷静になり、マスターさんと会話を再開する。

 

「これで大体のことは話したが……他に聞きたいことはあるか?」

「そうですね。ここで生活するなら仕事を探したいですね」

「そら、そうだな。身分証も必要だしな。じゃあ、お待ちかねの冒険者ギルドにでも行ってみるか?」

「行きます!」


 二つ返事ですよ、ええ。魔法とかのファンタジー要素に興味津々ですが、職無しは俺の心臓に悪い。なにより世間の目が怖い。無職アレは、なったことのある奴しか怖さを知らないだろう。

 こうして、俺たちはギルドへ向かうこととなった。


 ギルドに向かう途中は街をキョロキョロと眺めながら、マスターさんについていく。いろんなファンタジーの誘惑に負けそうになりながらも、今は我慢だ。

 マスターさんの説明にもあったように西の区画に到着すると、革のマークの看板や剣と楯のマークの看板がたくさんあった。これが、西区――職人区か。

 そこから、少し歩いた所に大きな立派な建物があった。マスターさんは親指でクイッと指さし説明してくれた。


「ここが冒険者ギルドだ。この街では迷宮探索の依頼とかがメインだが、護衛任務や魔物討伐、お使いやら、工房の手伝いとかなんでもあるぞ。まぁ、一種の職業安定所的なものだな。外見も中々でかいだろ?」

「ええ、すごく……大きいです」

「だろう」


 マスターさんは満足そうに頷くと中に入っていく。俺も聞く人が聞けば違う意味に聞こえそうな発言をしながら中に入る。おかしいな、また神か?

 中はゲームで出てきそうな内装だった。左手に掲示板があり、大量の紙が貼ってあった。何人かの人は掲示板を見ながら会話している。この一枚一枚が依頼なのだろうか?これなら、職にあぶれることはないだろうけど。右手には、酒場があり恰幅のいい男たちが酒を飲んでいる。きっと、依頼が終わって打ち上げなのだろう。中央にはカウンターがいくつかあり受付の人がいた。


「おしっ!依頼や登録は左の窓口だが……一番左の窓口にしよう。ついてきな」

「はっ、はい」


 マスターさんは周りを見渡し、悪戯小僧みたいな顔で笑った後歩き出した。俺はマスターさんに言われるままに後ろをついて歩く。俺は剣とか人を殺せる道具がすぐそばにあるだけで腰が引けまくってる。日本だったらは銃刀法違反で警察に逮捕さ(パクら)れちゃうもんな。

 完全武装する人が周りにいるせいで、正直ビビりまくりな俺と対照的にマスターさんは、悠々と歩いてカウンターに向かう。しかも、マスターさんが通ろうとすると道が開いていく。掲示板前で相談していた完全武装の屈強な奴らもだ。くそっ!この人かっけぇわ!なんだ?ナイスミドルオーラか?


「ちょっといいか?」

「は〜い。少々お待ちくださ〜い」


 カウンターの向こう側でゴソゴソしていた女性は、マスターさんが声をかけると、ほわ~んとした可愛らしい声で答えこちらを向く。


「……あっ!マスターさ〜ん!お久しぶりです!どうされました?ご依頼ですか?」

「いや、今回は違う。こいつの登録をしてやってくれ。訳ありでな。これが金で保証人は俺でいい」


 マスターさんは懐から銀貨とカードを取り出しカウンターに置いた。


「はい!わかりました。あっ」

「あっ」


 そうして、俺は再会した。パンチラの君と。











 マスターさんは悪戯が成功して、嬉しそうに笑い「ちょっと話してくる」と言い、俺をカウンターにおいて酒場に行ってしまった。俺は脳裏に白い脚やその先などがフラッシュバックし焦っていたが、スキル『賢者タイム』を使用し冷静になったのはここだけの秘密だ。


「ふぅ……あの、登録をお願いしてもいいですか?」

「は、はい。しょ、少々お待ちくださいね。書類を取ってきますので」


 受付嬢は顔を真っ赤にしてあわあわしながら書類をとりに行った。純真な子というか初心な子なのだろうか?まあ、可愛いもの見れたのでマスターさんの悪戯はいいとしよう。


 偉い人は言ったのだ「可愛いは正義!」と。

 

書類を持って来た時には、プロ根性か焦りは消えていて残念だったが、透き通るような白い肌が少し赤みを帯びているのを俺は見逃さなかった。


「では、この書類にお名前と年齢と、あればでよろしいので職業を。あと、よろしければ魔核や種族や得意なことを書いてもらえますか?」

「はい。あっ、すいませんが代筆お願いできますか?」

「ええ、問題ありませんよ」


 そういや、俺は指輪の効果で話はできるがこっちの世界の文字は読み書きできないんだった。今思うと、マスターさんに拾われてなかったら命的にも生活的にも詰んでたな。てか、言葉も通じない上に死にかけトリップって、人生ハードモード過ぎるな。

 もし、こっちに呼んだ神か召喚者がいるのなら、本当に何がしたかったんだろうか?あの大きな悪戯小僧マスターさんにはいつか恩を返そう。うん。

 おっと、話がそれた。


「では、お名前からお願いします」

「はい。名前は……リョー=タナー……リョーです。年齢はアラサ、失礼28歳です。職業はバイト……いえ、料理人です。魔核は大体30です。すいませんが、他は禁則事項に触れるで」


 人差し指を口に持っていき「内緒だよっ♪」の恰好をして、ぱちっとウィンクした。俺はできる限り嘘ではない情報を開示する。


「はい。では、この紙に血を垂らしてもらえますか?そこの針を使っていただいてかまいませんので」

「……はい」


 別にツッコミを待っていた訳ではないが、最初と違いまたもプロの対応だ。スルースキルが高過ぎるのも悲しいね。え?顔面偏差値の数値が低い?まさか?もしそうなら、蔑んだ目で見てほしかっ……いや、なんでもない。

 カウンターに置かれている針を人差し指に刺し、血を一滴紙に垂らす。すると、その紙が光りだしカードの形に変わった。マジか、さすがファンタジー。


「これがギルドカードとなり、個人の証明書となります。これに魔力を込め≪ステータス≫と唱えると登録した情報が見ることができます。また、紛失されると再発行には銀貨一枚かかりますのでお気をつけてください。それとギルドは冒険者同士の喧嘩などの争いは、基本として不干渉ですが、ギルドに多大な迷惑をかけるような方は、カードの没収や除籍。最悪の場合は粛清対象となりますのでお気を付け下さい」

「わかりました。すいませんが、ギルドについて説明していただいてもかまいませんか?」


 本当は魔力を込めるなんて知らないが、真剣な表情を作り頷いておく。後でマスターさんに聞いてみよう。てか、粛清って何?超怖いんですけど。


「はい。ギルドにはランクがありまして、下から順にFから始まり最高がAとなります。本来は、一番上にSというランクがあります。ですが、誰も見たことがない事と、上がる条件が不明なので、本当かどうかも分かりません。Fが初級冒険者、EとDが下級冒険者、CとBが中級冒険者、Aが上級冒険者となります。ランクによって受けることのできる依頼が変わります。初級冒険者の方はFのみ、下級冒険者の方はEとDとFという具合に増え、自分の冒険者のランクと同じか下なら依頼を受けることが可能になります。なので、頑張ってランクを上げて下さいね」

「ありがとうございます。ランクを上げるにはどうすればいいのですか?」


 Sランクが凄いな。アレか?名前だけしか知られてない秘密組織的な扱いか?目指しちゃうか?これ。


「ランクを上げるには、実績として決められた回数依頼をこなしていただき、試験を受けていただきます。Eランクに上がるには、Fランクの依頼5回と戦闘試験になります。Eランクから魔物の討伐もありますので、よくお考えになって受けて下さい。」

「わかりました。もし分からないことがあれば、その都度お聞きしますね。え〜っと、お名前をお聞きしても?」

「はい。あっ、私はエリーといいます。では、これからよろしくお願いします」

「ええ、こちらこそよろしくお願いします」


 パンチラの君もといエリー嬢と握手する。こうして、俺は名前をゲットし顔つなぎの終了だ。そうだな、分からないことがあったらエリーさんに聞きに来よう。え?下心なんてないですよ?私は紳士ですからね。ほんと、ほんと。

 

 

 

 

 

 

 無事登録も終えたので、マスターさんと合流するためキョロキョロと周りを見ながら探す。すると、ギルドの入り口から一人のやんちゃそうなお兄ちゃんが入ってきた。そのやんちゃなお兄ちゃんと偶々目が合ってしまい、俺はすぐに目をそらした。だが、案の定声をかけられた。ちょっと、マジ勘弁して。

 

「おい、おっさん。何じろじろ見てんだよ?」

「おっさ、いえ、見ていませんよ?」

「んだとぉ?おっさん、てめぇ睨んでんだろ?ああ?」

「おっさ、いえ、そんなことはありませんよ。気に障ったのなら謝ります。すいません。では、私は人を探しているので、これで……」


 早口で謝り踵を返し華麗に逃げる。こんなテンプレやお約束は逃げるに限る。俺はほんの少しだけ人より目つきが悪いと言われるが、ほんの少しだけ人より目が細いだけの一般人だ。これが素の顔なんだよ!

 やめてくれ。こちとら、精神を豆腐以下と言われるぐらいなのだ、神に。そんな若さ溢れる対応をしないでくれ。

 それとな!俺はおっさんじゃない!まだ、お兄さんだ!まだな……


「ちょっ、待てよ!」


 どうも対応をお気に召さないらしいこのお兄ちゃんは、キ○タク風に叫び後ろから俺の肩を掴もうとするが、俺はすっと避けて歩いていく。そんな怒鳴られても『魔王様マルカジリ』の恐怖を体験した俺には効かないな!う、うん……ちょっと焦っただけだよ。


「てめぇ、舐めやがってぇ!」


 その大きな声に振り返ると、このお兄ちゃんは頭に血が上ってしまったのか、この場で剣を抜いたのだ。抜いてしまったのだ。その瞬間、俺の横を風が通り過ぎた。


「俺の連れに何か用か?坊主?」

「「「……」」」


 いや、正確にはそれは人だった。その風はマスターさんだった。


 助けてくれようとしていたのか、周りにいて様子を見ていた冒険者の人も、俺も誰もが言葉が出なかった。マスターさんの声には普段の声とは違い、怒気が含まれていた。やんちゃなそうなお兄ちゃんは、マスターさんに顔を掴まれ、片手一本で持ち上げられプラーンと浮いていた。いろいろツッコみたいが、マスターさんが放つ殺気的なもので動けないし、しゃべれない。


「おいっ!エリー?」

「はっ、はい!?」


 マスターさんに呼ばれたエリーさんは、体をビクッと震わせカウンターから返事を返した。マスターさんは声を抑え、優しく微笑みこう聞いた。


「こいつは粛清しても構わんのか?」


 顔の表情と声から全く違う冷酷な言動。それはまるで、日常会話みたいで「このゴミ捨てていい?」みたいな軽い質問のようにすら聞こえる。皆は恐怖を覚えたのは言うまでもないだろう。プレッシャーに耐えられなかったのか、持ち上げられているお兄ちゃんは泡を吹いて気絶している。


「い、いえ。できればそれで勘弁してあげて下さい。ギルドの方で厳重注意いたしますので」

「……そうか」


 少し残念そうにマスターさんが手を離す。『ドスン』という音と共に、絶賛気絶中のお兄ちゃんは床に落ちる。


「じゃあ涼君、用も済んだし帰るか」


 そして、俺の方に笑顔を向けた。周りの緊張した空気は収まり、俺の後ろ側にいた冒険者や受付の女性陣は、怖いけど強くてカッコよくて頼りがいのあるナイスガイなマスターさんに黄色い声をあげる。


「……はい。助けていただきありがとうございます。行きましょうか」


 俺はなんとか返事と感謝の言葉を返しマスターさんと共に出口に進む。


「かっこよかったね」

「でも、怖かったよ?」

「なに言ってんの。そこがいいんじゃない!」


 とまぁ「わー」やら「きゃー」やら、このような黄色い声を上げている女性陣の気持ちは分かる。男の俺でもカッコいいと思ったが、マスターさんについて一言だけ忠告をしたい。







 ええ、確かにカッコいいですよ。







 でもね、実はね……







 この人『パンチラ魔法』を創るほどのド変態ですよ?






 と。

 


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