第5話 春風
チュートリアル回&はじめての魔法
こうして、マスターさんのチュートリアルが始まった。
「よし!なんか、それっぽかったろ?」
「……ええ」
マスターさんは、やりきった良い顔をしている。まぁ、確かになんかそれっぽかったけどさ。
「じゃあ、始めるか。まず、種族についてだ。この世界では俺たちのような人間の存在を人族と言う。そして、それ以外を亜人と言うんだが、マオもこの定義で言うと亜人に分類される。あの角凄かったろ?」
俺は全力で頷く。ちょっとしたヘッドバッキングだ。
「まぁ、この亜人という言い方は人族が考えたからか「人族サイコー!」みたいで俺はあんまり好きじゃないけどな。好きじゃないが、説明では便利なんでこのまま使うぞ?」
「はい。わかりました」
岡崎サイk……なんでもないです。はい。それと便座カバー。
「でだ、亜人と言ってもいろいろと種族がある。ファンタジーでお馴染みの獣人族、妖精族、魔族とまぁいろいろだ。そして、その種族によって特長がある。獣人族は身体能力が人族と比べると圧倒的に勝っていたり、妖精族でドワーフという種族は鍛冶など手先が器用だったり……本当にいろいろだ。まぁ、この街にはいろんな種族がいるから、実際に会ってみるのが一番早かろう」
「あ、あの!獣人族って、人族に獣耳が付いてる感じですか?それとも――」
俺は『しゅぴっ』と手を挙げ、今後を左右しかねない質問をする。紳士淑女諸君なら分かっていただけるだろう。マスターさんは俺が最後まで言い終わる前に、被せるように言った。
「安心しろ!それは、前者だ!そう、この世界には、天然の猫耳メイドや犬耳メイドがいるぞ」
ひゃっほーい!!夢が広がるね!モフモフやね!パナいっすね!
「耳とか尻尾とかを……モフモフができるんですね?」
「ああ。そうだ!」
俺たちは、何か大事なものを噛みしめる様に頷いた。マスターさんも俺も、きっと考えることは一緒なのだろう。そう、だって男の子だもの。
「よしっ、次だな!この街についてだ。この街の名は『アストルダム』という。別名では、迷宮都市、冒険者の街、自由の街とまぁいろいろと言われている」
「迷宮ですか?」
「おう!この街には迷宮がある。昔、300年程前かな。魔王を倒したと言われていた勇者がいてな、そいつはこの迷宮で採れる素材や迷宮の管理するためにこの街を作ったんだ。そしたら、迷宮に潜る冒険者たちや、素材を手に入れようとする商人、迷宮について研究したい研究者、どこからか追われて逃げてきた者、本当に様々な人や種族が集まってな、今じゃ馬鹿デカイ都市になったんだ。そんでもって、この街はどこの国にも属していないし、迷宮に潜って一発当てれば大金持ちになれることから、さっきも言った通り他種族が一緒に住まう自由の街とも言われている」
「じゃあ、ここは王や領主といった貴族?でいいんですかね、そのような人はいないんですか?」
「ああ、この街には威張り散らす貴族はいないが、言うならばその勇者が王様みたいなもんで、この街が一つの王国だな。所謂、都市国家ってやつだな。そんで今は、その子孫がこの街を統治してるって訳だ」
「なんか、その勇者って凄い人だったんですね!」
「……お、おう」
俺の食い付きが良過ぎたのかな?マスターさんは俺の言葉に少したじろぎ、目を逸らし「ふぅ」と息を吐いて説明を続ける。
「まぁ、その勇者はいいとして次だ。この街は中央にある迷宮を中心として、東区、南区、西区、北区と分かれている。中央区は今言ったように迷宮の入り口があり、勇者の……まぁ王城みたいなんがある。東区は治癒院や研究所、教育機関がある。南区は今俺たちがいるんだが、宿屋や飯屋などがある商業区と呼ばれているな。西区はギルドがあったり、工房があったり、鍛冶職人や革職人とかがいて、職人街となっている。北区はガラの悪い兄ちゃんがいたりちょっと治安が悪いが、ギャンブルや娼館といった娯楽施設がある、アレだ、つまり大人の街だな。とまぁ、街についてはこんなものか」
「ギルドと言えば、お約束の冒険者ギルドですか?」
「そうだが、冒険者だけじゃなく職人や商人といったギルドも存在する。ギルド、つまり組合だな。これは横との繋がりを強化したり、保証してもらったりとあるが……今は冒険者ギルドだったな?説明が面倒だから後で行くか?」
「是非もなし!」
やばっ、テンション上がり過ぎて変な返事しちゃった。
「お、おう。で、次に貨幣についてだな。銅貨、大銅貨、銀貨、大銀貨、金貨、大金貨、白金貨となる。大金貨や白金貨なんて滅多に見れんからいいとして。銅貨10枚で大銅貨1枚、銅貨100枚で銀貨1枚、銀貨5枚で大銀貨1枚となり、銀貨25枚で金貨1枚となる。銅貨1枚が1ウェン、銀貨1枚が100ウェン、金貨1枚が2500ウェンとなる。ちなみに銅貨1枚が食パン一斤ぐらいだと思ってくれたらいい。まぁここで生活しようと思うなら、ひと月に銀貨1、2枚もあれば楽勝だな。いきなり、全部覚えるのは無理かもしれんから使いながら覚えればいい」
「……」
あれ?俺、覚えられる気がしないぞ……いや、決して俺が馬鹿な訳ではないんだ。決して。とりあえず、ひと月に銀貨1枚は確実に確保しよう。うん。
「最後に魔法か。魔法とは世界に干渉する力と云われている。それで魔法を発動させるには、それぞれ詠唱が必要となる。この世界で魔法を使うには『魔核』が必要だってのは前に説明したな?この『魔核』は『魔素』と呼ばれる不思議元素を『魔力』と呼ばれる不思議な力に変え、その『魔力』を利用してやっと『魔法』を使用できるって訳だ。まぁ、言ってもあまり理解できないと思うから実際にみせてやろう。ついてきな」
そういい、マスターさんは宿の外に出る。俺もついて外に行くと、そこは中世ヨーロッパを彷彿させる街並みだった。テレビやネットの映像でしか見たことがなかったが、実際見てみると何か風情があり、自分の知らない場所――本当に異世界に来たことを改めて実感した。
「なかなかいいだろ?」
「はい。実際見てみるとなんと言いますか……こんなにも感動するものなんですね」
「そうか。俺もこの街が気に入っているから、そう言われると嬉しいものだな」
マスターさんも嬉しそうに頷き、機嫌が良さそうに言った。
「よしっ!これから見せるのは風の魔法だ。俺がこの世界で編み出した俺だけのオリジナル魔法だ。あの女の子に注目しろ。本当に一瞬だから見逃すなよ?」
そういい、マスターさんは歩いている一人の女性を指さした。年は18歳ぐらいだろうか?金髪碧眼で白い肌、美人というよりは可愛いという印象の女性だった。
「じゃあ、いくぞ?」
「はい」
俺は返事を返しマスターさんの方を向くと、マスターさんは右手の掌を上に向け呪文を唱え始めた。
「『草花に恵みを、暖かで穏やかな、春の訪れを知らせる風よ』吹け≪春風≫」
すると、マスターさんの掌から何かが飛んで行った。それはマスターさんが言うような暖かい風だった。
そしてそれは、さっきの女性に向かって飛んでいく……いや、正確にはその女性のスカートめがけて飛んでいったのだ。歩いていた女性はいきなり現れた風の存在に気付かない。そして、その風はスカートを捉えた。
その瞬間。風がスカートを巻き上げる。
この時、俺の中の時間が極限まで縮んだ錯覚に陥った。先程の女性のスカートがあった個所が、なんということでしょう。匠の技によりなんと白い脚があらわになっているではありませんか。
さらに上に目線をずらすと、普段お目にかかる事ができない所と申しましょうか。白い脚よりも白いモノが、レースをあしらった可愛らしくもあり、どこか気品のある純白のモノが見え隠れしているではないですか。これが見えないところのオシャレというものでしょうか?
え?俺が見過ぎだって?そんなことはない。これは魔法を見るために仕方がなくだ。そう、決して彼女の脚やその先のモノを見魅っている訳ではない。
細部まで見ることにより、この魔法がどのような効果を示すのか。そして、この魔法の有用性を観察するためである。やましい気持なんてないさ、本当に。
そして、時は動き出す。
その女性はいきなりスカートがめくれたことに驚き、あたふたしながら、めくれるスカート必死に抑えた。その後、キョロキョロと周囲の様子を見渡し、俺と目が合うと顔を真っ赤にし、俯いて走り去って行った。
「どうだ!すごいだろ?」
「ええ、凄いですけど……」
何やってんの?この人?
パンツが見たいが為にオリジナル魔法を作るだと?……さぞ苦労したでしょう。
マスターさんはどれだけのものを犠牲にして、この魔法を作り上げたのだろうか?確かにさっきの光景と表情を見れば、苦労に合うだけの対価はあるかもしれない。
しかし、これはただのスカートめくり、いやもう、パンチラ魔法というべきだろうか?イイ大人がやってしまったら、これは悪戯では済まないのではないか?
なんて非人道的だ。さすがにこれは……
皆も言いたいことはあるだろう、ここは俺に任せてほしい。
ドヤ顔をするマスターさんに、一言言ってやらねばならん。
「あなたが神か?」
ってな!!!
風魔法?パンチラ?何の事です? by神