幕間 魔王
今回は涼君視点ではありません。
よく来たな。ここは『安らぎ亭』だ。
なんだ、またお前らか?こないだユーリと話していた奴だろ?
こんな夜遅くに訪ねてくるとは……困ったものだ。
一杯やったら帰るのだぞ。
ん?なんだ?吾輩が化け物?魔王みたいだと?
いきなり人の顔を見てよくそんなことを言えるな……
まぁ、その問いの返答なら『是』だ。
吾輩は魔王である。吾輩の名はマオ=セガ=サトゥーン。
魔族の国『セガ』の領土を治める者だ。
正確には『元魔王』で治めていたというのが正しいのか?
今は息子達に国を任せ、この街の迷宮の管理と宿屋の料理を受け持っている。
そうだな、今はただの宿屋の『おやっさん』だ。
そう呼ぶといい。取って食ったりせんわ。
なにも怖がる必要などない。
なんで魔王が宿屋をしているのかだと?
ふん。吾輩については、そう語らなくてもよかろう?
そんな些細なこと、今はいいだろう。
それよりもだ!我が友、ユーリが拾ってきた馬鹿者について語ろうではないか。
こんな時間に飲みに来たんだ……
どうせ、お前も暇を持て余しているのだろう?
知っておると思うが、この者の名はリョーという。
ユーリに負けず劣らずの馬鹿者だ。
最近ではそのリョーとユーリが手を組んで馬鹿なことをよくしておる。
ユーリが二人に増えたようで敵わん。
まったく、吾輩はあやつらの保護者ではないのだがな。
最近何をしたか?ああ、そうか。聞きたいか?
あやつらは、最近ここら辺で悪さをしていた盗賊団を壊滅させたんだ。
正確には、ユーリが、だがな。
まぁ、それはいいとしよう。
問題は、もう一つの方だ。思い出しただけで頭が痛い。
お前らは聞いとらんか?ここらに出没したローブを纏い仮面をつけた、風魔法を使う謎の二人組の変態がいたであろう?
そいつらは『義賊ルーエ』で、誘拐犯や窃盗犯などの極悪人を倒して回っているのではないかって?
違う。変態だ。ただの変態。
それ以上でも以下でもないわ。
この話をしたって事は分かるだろうが、その謎の二人組の変態が、ユーリとリョーだ。
あいつらは「自分たちは崇高な目的のために行動している」と言うのだが、吾輩にはどうもやっている事は変態行為にしか思えん。
はじめ、あやつらはギルドの受付嬢を……なんと言ったか?『ラッキースケベ』なるものの標的にしおったのだ。
吾輩が気づいて止めに入ったのだが、逃げられてしまってな。
あの時、本気で捕まえておけば良かったと今ではそう思っておる。
だから、店の前でケンカしていたのかって?
その通りだ。あの後、店に返ってきたユーリに灸を据えてやろうしたのだが、ユーリが抵抗してきおったのだ。それで、その後は……これは語らずともよかろう。
そういえば、お前らも見ていたな?
……まぁ、その話はまた今度にしてやろう。
そして、噂で聞いたろうが、バリーと言う者のことか。
実際は、ユーリとリョーが『リベンジ』と称して遊んでる時に偶然出会っただけなのだがな。
あやつらは2カ月かけて、ある憲兵の情報を入手し、作戦を立て、実行可能になるまで実力をつけておったのだ。
吾輩も2カ月何もなかったから忘れかけておった。
まったく困ったもので、こんな時だけ用意周到でかなわん。
逆に感心したぐらいだ。
アテナに悪影響が及ばんか今から不安で仕方がない。
賊の話は分かったが、あの日南の空に星が降った事と凄まじい発光について、だと。
さ、さぁ……知らんな。お前ら気のせいではないか。
凄い轟音と地響きがこの街まで聞こえた?
さ、さぁ……分からんな。それらについては、吾輩は何も知らん……
「おやっさ〜ん。閉め作業終わったんですけど、次何しましょうか?」
噂をすればというやつか……助かった。
「もう、今日はあがっても構わんぞ」
「うっす。お先に失礼します。お疲れっす」
「おう、お疲れ」
ほら、お前たちも帰れ。もう、いい時間だ。
まだ聞きたい?また来てもいいかって?
……好きにしろ。
また話を聞きたくなったら、この宿に来るがいい。
これにて第一章は終了です。
次から第2章です。
ストックが切れたので、毎日更新はできません。
ごめんなさい。




