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第32話 closing

「お前は見られている」が宗教。

「見られていなくとも」が道徳。

「どう見ているか」が哲学。

「見えているものは何か」が科学。



 時刻は夜。空には星が輝き、月が闇を照らして、とっても綺麗にゃ。

 こちらアルファ・スリーことクロにゃ。オーバー。


「待てぇ!待たんか!」

「にゃはははっ!私は風にゃ!誰も私に追いつけにゃいにゃ!」


 私は今、ご主人の命令通りに任務を遂行中にゃ。屋根から屋根へ移動しにゃがら、ご主人がいる所に憲兵を近づけにゃいように、ひっかきまわしてるにゃ。

 私は今回の修業で凄い事を思いついたにゃ!『属性魔装』と『妖魔法・風遁』を合体すると凄い事になるにゃ!そう!私はにゃんと疾風そのものにゃ!

 にゃははっ。クロは良い子だから言われた事は完遂するにゃ!さぁ、ご主人は存分に楽しんでほしいにゃ!


 ご主人は、これが終わったらいっぱい『特製猫まんま』を作ってくれるって約束したにゃ。前に食べたのは凄く美味しかったにゃ!


 ……じゅるり。


 おっと、今はもっと頑張って憲兵をひっかきまわすにゃ!


 にゃぁー♪とっても楽しみにゃ!









 時刻は夜。夕空を闇が食らいつくし黒く染め、月と星の輝きは闇に食われまいと必死にもがき抗いているようだ。

 こちらアルファ・ワンことユーリだ。オーバー。


 俺とマオは通信が入ってから戦闘を止め、街に転移し涼君を探した。見つかったら面倒なので仮面とローブも忘れない。マオも付いてきたのは想定外だが、なんか最後の『客』とやらが気になって様子を見に行ったのだ。

 すると、涼君は復讐するって言っていたあの嬢ちゃんを逃す為に戦っていた。


「はははっ!いいねぇ!それでこそ男の子だな!」

「何を笑っておる?どう見ても今のリョーじゃ、あの者には勝てんぞ?」

「まぁ、もう少し様子を見てみようじゃねぇか」


 マオは不満そうに俺を見て、落ち着かないご様子だ。マオはこう見えて常識人で身内に対して甘く、心配性で過保護な奴だ。マオにとって、その身内の最たる子がアテナだが……今はいいか。


 涼君がローブを着た奴に『居合』をくらわそうとするが、そいつは攻撃する直前で回避する。確かに今の涼君じゃ、一筋縄ではいきそうにない相手だ。

 涼君は次に≪火球(ファイアボール)≫を避けるが、それを読んでいた相手によって壁まで吹き飛ばされた。


「それっ、言わん事ない。ユーリ、お前が行かんのなら吾輩が助けに行くぞ?」

「いや待て。ほらよく見ろ。涼君はまだなんかやる気だぞ?」


 俺は今にも飛びだそうとするマオを止め、涼君を指差す。俺は涼君が倒れても、その目が死んでないのを見た。そして、ぶつぶつ呟きながら立ち上がる。そして……


「なっ!?」

「ほう!」


 俺とマオは予想外の事に驚きつつも感心した。恐らくだが、涼君は自分の≪称号≫つまり『祝福(ブレス)』を使用したのだろう。涼君の周囲の魔素が、涼君に取り込まれていく。そして、それを体内で大量の魔力に変えている。

 この現象は涼君の体内に埋めた『特殊な魔核』の影響か?それともそういう『祝福(ブレス)』なのだろうか?

 これはまた面白い事になった。


「ユーリ、お前が教えたのか?」

「いや、俺はその事はまだ教えてなかったぞ?ただ以前、能力の説明をする時に、一度だけ「いきなり『全ての力』は使えんと思う」とは言ったがな。涼君の性格からして覚えていると思わんがな」

「……そうか。では、早めに制御方法教えた方がよかろう?」

「そうだな。修業に追加しておこう」


 俺たちは今後の事に話し合っていると、居合の恰好をしていた涼君の剣が一瞬光った。


「これは……」

「ほう?あの技も教えたのか?」

「いや、これも一度見せただけだ」

「リョーはアヴァン(こっち)に来るまで、料理人をしていたのではないのか?」

「そう聞いてるが、涼君……無駄な所でガンバリ屋だから、正直俺にはよく分からんよ」


 俺はマオに本心を告げる。そうなのだ。長年生きてきたが、俺はあんな愉快な人物の思考回路を全て読むことなどできない。まぁ、だからこそ面白いんだが。

 そして、先程の一撃で涼君が勝ったのが分かった。

 だが、その後がまずかった。涼君はそのローブの奴が隠していた短剣に気付かずに刺されたのだ。


 俺とマオはそれを見た瞬間、その場へ移動した。


「お、おまえらはなんだ!?」

「やれやれ。涼君にはまだ荷が重かったか?」

「いや、つい最近刀を握ったにしては、なかなかの身のこなしであったではないか!」

「まぁ、俺が師匠だからな!」

「だが、今回の件は良い経験になったであろうな」

「そうだな。敵に情けをかけたのも含めてな」

「誰だと聞いているんだ!」


 いきなり現れた俺たちに、そのローブを着た奴は怯えながらも問いただしてきた。


「少し黙れ。吾輩は我の身内に刃を向ける者に黙っておけん!」

「お前がやるのか?」

「当然だ!この者にはそれ相応の報いを受けてもらう!」


 マオが怒りを露わにし、その男を睨みつける。そいつはマオの威圧だけで動く事が出来ない。


「今は、安心して眠れ」


 俺は涼君にそう言い涼君の頭を撫でる。涼君が気を失った所で回復魔法を使用して傷を治しはじめる。


「それとついでに、りょ、アルファ・ツーの体のメンテもしてしまおうかな?」

「ゆー、アルファ・ワンよ!吾輩はこの者に灸を据えてから帰る事にする」

「了解だ。ま、アルファ・フォー。では、お先っ!」


 俺はマオをその場に置いて、涼君を担ぎそこから離れる。去り際に、地面に風の魔法で落書きをしておいた。




 内容は『義賊ルーエ見参!』だ。











 俺は目が覚めるとベッドの上だった。こちら、アルファ・ツーこと涼であります。


「知らない天井……でもないな」


 俺は宿の自分の部屋にいる。まいったね。またやってしまったらしい。

 いい加減、気絶は勘弁したいね。

 さて、俺はバリーに刺された後の記憶がどうも曖昧だ。とりあえず、どうなったか聞くべきだろう。ちょうど、足音が聞こえるから久々にやっとくか?

 俺はベッドの上でブリッジをする。ここで言うセリフは決まっている。前も言ったしね。

 さぁ、この姿を見てとくと笑え!あれ?なんかスースーする様な……


 そして、「がちゃ」っとドアを開ける音がする。


「貴方が私のマス……」

「……」

「……って、俺全裸じゃん!」

「……涼君、君はいつも俺の想像を凌駕するな」


 マスターさんは顔に手を置き呆れていた。そう、俺は全裸、つまりZEN☆RAだった。服を着てないのは、治療の為だったのかもしれない。そうであってほしい。俺はそこまで変態の露出狂になった覚えはない……まだな。

 それよりここで問題になってくるのは、俺の怪我でもなく、俺が全裸でブリッジしたことによって生じる視覚的汚染の問題だ。とても汚いものをマスターさんに見せた事になるかもしれない。これは、後悔しかない。恥ずかし過ぎる。流石の俺も笑えない。

 俺はベッドの掛け布団に包まって、ベッドの上で正座している。マスターさんはベッドの横の椅子に座る。


「……もう大丈夫そうだな?」

「え、ええ。ただ、治療していただいた方には申し訳ないのですが……今、とっても死にたい気分です」

「まぁ、なんだ……体を張ったギャグが、こうなるとは……誰も予想できないさ」

「……ええ」


 俺はもうあの後どうなったかとか聞くよりも前に、とりあえず泣きたくなった。


「まぁ、傷が直ってあまり経ってないから、もう少し安静にしときな」

「はい、新しい傷も心にできましたし。お言葉に甘えさせていただきます」


 マスターさんはそう言い、椅子から立つとドアに向かう。俺は自分の服がテーブルの上にあるのを今更ながら発見し手を伸ばす。俺は「時が傷を癒してくれるだろう」とか考えていると。すると、マスターさんが振り返りニヤリと笑ってこう告げたのだ。


「涼君、落ち込むことはない。大きさなんて、7か8センチあれば大丈夫らしいぞ?」

「出てけーーーーーーーーーーー!!!」


 俺はこれまでの人生で最も大きな声で言い放った。




 分かってると思うが、誤解は解いておくぞ!




 俺が落ち込んだのはサイズ(そっち)じゃねぇよ!





「見られて興奮する」のが変態。


2chの名言より


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