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第30話 孤高の花

「こちら、アルファ・ツー。各員に告げる。ミッションコンプリート。ミッションコンプリート。各自撤退の用意をされたし。ポイントYにて落ち合おう。私もこれより、帰還す――いや、どうやら、お客さんだ」


 俺はパラスを放置して、ミッションコンプリートの報告を一人と一匹にしていると、誰もいないこの裏路地に近づいてくる者がいた。


「こいつは予想外だなぁ。俺より先に楽しんでる奴がいるとはなぁ……なぁ、そこの仮面の兄ちゃんよぉ?」

「それは我の事か?」

「他に誰がいる?」


 そいつは俺と似たようなローブを着てフードをしっかりと被り、顔が見えないようにしている。何かこの状況でも余裕があり、パラスと俺を見て質問をしてきた。


「確かにそのようだ。して、何か用か?」

「なぁに、俺の目的はそこの嬢ちゃんだ。ちょいと、俺に譲ってはくれんか?」

「残念ながらこの娘は我の獲物だ。他を当たれ。『風よ、我が敵を切り裂け』いけ≪風刃(ウィンドカッター)≫」


 俺の威嚇の意味で少し弱めの≪風刃(ウィンドカッター)≫が男めがけて飛ばすが、その男は片手で虫を払うかのように、俺の≪風刃(ウィンドカッター)≫を消しながら会話を続けてくる。


「手荒な返答だな?」

「貴様もやり合うつもりであろう?」


 俺は努めて冷静に返事をするが……この男ヤバいな、強いわ。マスターさんやおやっさんみたいな人外レベルじゃないが、さっきの威力を抑えたといっても≪風刃(ウィンドカッター)≫を片手で消した事。そして、この風格は明らかにパラスよりは強い。つまり、俺よりも強いってことだな。


「あぁ、そうだ。だが、俺の趣味とは違うな。そんなことして楽しいか?」

「ふっ、貴様も我々の崇高な目的が分かっていないようだな……嘆かわしい」


 俺は仮面の上から顔に手を当て「やれやれだぜ」のポーズだ。

 正直今すぐ逃げ出したいのだが、パラスが座り込んで身動きが取れない状態なので、置いて行くのは忍びない。まったく、パラスはなんて恰好しているんだ。まぁ、俺がやったんだけどさ……とても良いものをありがとうございます。

 俺が一人どうするか悩んでいると。


「貴様は私に用があると言ったな?何者だ!」

「おっと、名乗り遅れたな?俺はバリー。バリー・ザ・チョップスティックスだ」

「お、お前が……あの残虐非道の『首狩りチョップスティックス』なのか?」

「ほう?お嬢さんの方は俺の事を知っているのか?その名はここより、だいぶ南のはずだがな。俺も有名になったものだ」

「ぷっ」


 俺はこいつが堂々と名乗るから我慢した。人の名前を笑うなんて……ね?それに、なんかシリアスな空気を読んで黙っていようと思ったが、無理だ。止めてくれ!その『二つ名』はもう無理だ。


「はっははははっ!」


 皆さんご存じな、このなんか強そうな『チョップスティックス』という単語。これを訳すと『箸』となる。そう、こいつは残虐非道の『首狩りお箸君』なのだ。ドヤ顔で言うセリフではないだろう。どうやって箸で人の首を狩るんだよ?せめて『首狩りバリー』にしようぜ!


「おいおい、仮面の兄ちゃんは何がそんなにおかしい?」

「いや、すまんね。笑うつもりはなかったんだ。ただ、お前たちは自分の名前の意味や起源を知らないのかと思ってね」

「どういうことだ?」

「説明してやろう。まず、パラス。そう、そこの小娘の名前だ。パラスとは『大型の小惑星』という意味があり、また、この国ではないが、ある神話に出てくる女神の名だよ。素晴らしいではないか。そして、バリー君。君のチョップスティックスは、ある国では『箸』の意味がある。そして、極めつけは『猫踏んじゃった』とも訳すらしいが、これは……もう駄目だ。我が笑った意味がわかるか?『人斬りお箸君』?それとも、『猫踏んじゃったバリー』の方がいいか?」


 俺はバリーを全力で挑発する。パラスから俺にターゲットを変更させる為だ。別に、本当に笑った訳じゃない……と思う。

 まぁ、誰にだって大なり小なりあるじゃないか。中二病って。

 ただ、それでも言葉の意味は知っておいた方がいいだろう。なんかカッコいい英語が書いてあるシャツを買う時だったり、意味は知らないけど響きがカッコいい単語を人前で使う時とか……いや、止そう。なぜか俺の心がざわつく。この手の話は誰も幸せにならない。


「てめぇ!」

「『魔力よ。集いて我が敵を阻む盾となれ』≪魔盾(マジックシールド)≫」


 バリーは腰の剣を抜き俺に斬りかかってきたが、俺の前に展開する≪魔盾(マジックシールド)≫と相殺されるだけで、俺にバリーの攻撃は届かない。攻撃されて分かったが、やはりこいつは俺の手に負えない。バリーの身のこなしが俺の想像以上なうえに、かなりの量の魔力を込めて作った≪魔盾(マジックシールド)≫が一撃で破壊されてしまったのだ。

 俺は被っていたローブを脱ぎパラスに投げつける。


「小娘よ!今すぐこれを着て、この場から離れ西門に行け!貴様の隊長を連れて来い!」

「私に命令するのか!?」

「ええい!揉めている場合ではないわ。我では足止めしかできんと申しておるのだ!それとも、貴様は奴に殺されたいのか!?」

「こ、これは、借りではないからな!別に助かったとも思ってないのだからな!」

「ああ、それでいい。早く行けっ!」


 パラスはローブを着て走り出す。俺は「なんだその分かりやすいツンデレ台詞は?」とツッコミたかったが、案の定、邪魔者が現れる。


「おいおい、俺がそんなことさせると思っているか?」


 バリーはそう言いながら、剣を抜きパラス目がけて走りだす。俺はパラスに迫るバリーから、庇うように立ち塞がる。


「残念だが、貴様の相手は我だ!」

「邪魔だぁ!」


 俺は腰の刀に手をかけバリーが近くに――間合いに入った瞬間に抜く。俗に言う『居合』だ。


「しっ!」

「おっと!妙な技を使うな?仮面の兄ちゃんよぉ?」


 バリーは俺に攻撃しようと剣を振り下ろす直前で、危険を感じてとっさに後ろに下がり攻撃を回避していた。


「ほう?これを避けるのか?この技は『居合』と言う。次に我の間合いに入った瞬間、貴様の胴と首が離れるであろう」

「おいおい。何が俺に勝てないだぁ?まだこんなの隠してんのか?」

「ふむ。アレを出さねばならんか……」

「こいつは……厄介だな」


 とか、言ってるが……内心で俺はめっちゃ焦っている。いや無理だって!てか、自分で言ってなんだけど、アレって何だよ!ねぇよそんなもん!

 皆忘れてるかもだけど、俺の本業は料理人だからね!


 そもそも、居合とは「鞘から抜刀する時に刀が鞘を滑り、本来剣を振る速度より早く振るうことができる」なんて事は、実際はないらしい。

 居合は刀を鞘に収めている状態の時や座っている時の奇襲に備えて考えられた技で、相手の攻撃のカウンター技みたいなものらしい。

 達人になると動きが速過ぎていつ斬られたのかも解らないほどらしいが、俺にもよく分からんのだよ。

 さっきのは、バリーが見たことない攻撃だったからなんとかなったが、次はは危ないかもしれない……とか考えていると、バリーは先程と違う魔法の攻撃を仕掛けてきた。


「戦闘中に考え事か?『火よ、我が敵を焼け』いけ≪火球(ファイアボール)≫」

「Shit!」


 俺はつい英語で悪態をつきながら、右側に攻撃を避ける。あまり速い攻撃ではないので、マスターさんの魔弾に比べれば、攻撃を避けるぐらいならできた。しかし、バリーは俺が攻撃を避ける事を読んでいた。


「おらぁぁああ!」

「くそっ……誘導されたのか!?」


 ここはそれほど広い場所ではないので、攻撃する場所を限定する事によって俺は避ける先を誘導されていた。バリーは俺が避けた先に回り込んで左から剣を横なぎに払う。俺はなんとか持っていた刀で防御するが、吹きとばされ、壁に叩きつけられる。地面に倒れた時に刀を離してしまったので拾おうとするが、激痛で体が言うことをきかない。


「ははははっ!次で終わりだぁ」

「ぐっぅ」


 バリーはそう笑いながらも、警戒しゆっくりと俺に近づいてくる。流石プロだ。強い。アイツのたった一撃でこの様だ。俺じゃ歯が立たない。幸いなのは、パラスがこの場から無事逃げきった事だけだろう。


 そこで、ふと俺は考えてしまう「もしかして、俺の人生これで終わりなのか?」と。


 ここにきて俺は急に怖くなった。嫌だ、嫌だ。まだ、死にたくない。アテナちゃんに結婚も申し込んでないし、エリーさんに『ラッキースケベ』を成功させてない。他にも、やりたいことはいくらでもある。

 何か手はないのか?マスターさんも言ってたじゃないか。モブキャラでも強くなれるって!俺にもまだ力は残っているはずだ。まだだ!まだ諦めてたまるか!こうなれば、一か八かだ!





 俺は地面に倒れながら、呪文を唱える。


『我、孤高の戦士』


 俺の魂に刻まれたものだ。


『駆けた戦は常に独り』


 思い出せ!封印していたあのセリフを! 


『我に力はなく栄光もない』


 最後の悪あがきでも何でもいい!


『何度も辛酸を嘗め、後悔ばかりが胸に残る』


 そうだ。無様な姿なんて、いくらでも晒してきた。それでも――


『それでも、我は立ち上がろう。その呼びかけに応えよう』


 俺は、悲鳴を上げる体に鞭を打ち、体を起こしながら詠唱を続ける。


『そこに、一縷の望みがある限り――』


 たとえ、叶うことがなくても、己が信じるものだけは裏切るな!


『我が信念を貫こう』


 さぁ、戦の時間だ。立て。前を向け。そして叫べ、我は――



 ――孤高なる武士マーベリック・ウォーリアー――



 詠唱を終えた後、俺の体から先程とは比べ物にならない魔力が溢れだす。

 そして、俺はバリーを見て言う。


「まだだ!幕を引くには早過ぎる……お楽しみはこれからだろ?」






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