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第29話 疾走



 今、街の裏道を走り回っている俺の後ろには、パラスが顔を怒りの表情に染めて、ものすごいスピードで迫ってくる。


「待て!この狼藉者が!」

「ふはははっ!き、貴様が、我に追いついて来ようとは……て、敵ながら、やるではないか!」


 ちょっと、走りながら話しかけないでよ。お前と違って、こっちは返事すると息が乱れるんだよ!

 てか、ヤバいね!煽り過ぎたのかしら?パラスさん、超はやい。こちとら、速度重視の魔装で全力疾走なのについて来るとか、マジどんな脚力してんの?

 修業して強くなったと思ったけど、やっぱ戦闘が本職の皆さんは凄いね。おっさ……じゃなくて、お兄さん疲れたよ。


 逃走してから10分ぐらいだろうか。裏道を走って、やっと目標の地点に到着だ。長かった。こんな鬼ごっこはもう勘弁だな。


 さてと、ここで俺の言うセリフは。


「くっ、しまった。行き止まりか!?(棒)」

「さあ、賊め!観念しろ!」


 とまぁ、テンプレっぽい会話をする訳ですよ。

 パラスは腰から剣を抜き俺に向けてくる。パラスは俺を追い詰めたと思っているのだろうが、俺がこの場所に誘導したことに気づいていないんだろうな。


 仕込みは十分。さぁ、ここからが本番だ。


「くそっ『風よ、我が敵を切り裂け』いけ≪多重・風刃マルチ・ウィンドカッター≫」


 俺は奴の周囲に複数の小さな風の刃を放つ。当然パラスは剣を構え迎撃しようとする。


「ふん。このような攻撃で私を止められると思ったか!」


 パラスの剣が俺の≪風刃(ウィンドカッター)≫をいとも簡単に消していく。風の刃は彼女まで届かずに服を少し切り裂く程度だ。止められないことなど分かっている、分かっていたことだが少し悔しい。

 パラスは俺が攻めあぐねていて好機と思ったのか、俺の方に≪風刃(ウィンドカッター)≫を切り裂きながら近づいてくる。だが、代償としてパラスの服を少しずつ切り裂かれながらだ。俺は、全ての攻撃がパラスに消される前に、その場に手をつき次の攻撃に出る。


「『土よ、我が敵の行く手を阻む罠となれ』≪落とし穴(ピットフォール)≫」

「なにっ!?」


 俺は迫るパラスの目の前に、大きな落とし穴を出現させる。驚いているな?

 そうだろうな。俺が『風の魔法使い』だと思っていたのだろうしな。


「ふっ、甘いぞ小娘。我がいつ風魔法しか使えないと言った?」

「だが、この程度っ!跳び越えれば問題はない」


 かかった!パラスは予想通りに跳んで突っ込んでくる。

 一旦後ろに下がればいいものを。性格が単純だと次の攻撃が読みやすいね。


「『風よ、我が声に応えよ。我が敵に風の力を示せ』さぁ、落ちろ≪下降気流(ダウンバースト)≫」


 俺はギルドの路地で使った魔法を発動させ、空中にいるパラスを叩き落とす。効果があるのはさっき確かめたから大丈夫だ。


「くっ!」


 パラスは空中では避けるなどの身動きが取れず、風に押しつぶされる様に穴に落ちる。

 だが、俺の攻撃はここからだよ。


「『水よ、集いて我が敵を押し潰せ』≪(カスケード)≫」


 穴に落ちたパラス目がけて、小さな滝が流れ落ちる。そして、全身ずぶ濡れのパラスが出来上がる。

 更に俺は唱える。ここで止めたら全てが水の泡だ。


「『水よ、その性質を変えよ。装備を溶かす酸となれ」溶けろ≪酸水(アッシド・ヴァッサー)≫」


 パラスは装備を溶かされながらも穴から這い出てきた。そして、俺を睨む彼女の顔は作戦通り羞恥に染まっていた。


「くっくっくっ」


 俺の口から笑い声が漏れる。








 そう、俺が考えた今回の作戦とは、色々と装備や服が壊れ、更に全身ずぶ濡れになり、服と肌がひっつき、透ける現象。


 つまり着エロ。これだ。


 俺はこの2カ月の間、どう鉄壁(スカート)越える(めくる)のかを考えていた。そこで俺は気付いたのだ。何も無理をしてまで、鉄壁と呼ばれるスカートを越える必要なんてなかったのだ。

 そう、奴の羞恥の顔を見るのに、スカートをめくる必要なんてこれっぽっちもなかったんだと。


 まぁ、確かにパンチラは見たい。だが、その事にいつまでも捉われずに、ちょっと視点を変えれば見えてくる真理(モノ)もあるのだ。

 ここで、俺はパラスに最適なものは何かを考えた。生半可のものでは、奴は動じないかもしれない。服を切り裂くか?はじけけ飛ばすか?確かに恥ずかしいだろうが、どれもパラスにとって最上とは思えなかった。


 そこで、俺は悩んだ末に『ある真理』に辿り着いた。

 それは『裸ではなく逆に服が少し残っていた方が恥ずかしくね?』と。


 紳士の諸君なら分かっていただけるだろうか?さぁ、想像してご覧!

 キリッとした美人が、隠しても隠しきれず、見えてしまうのではないかと焦り、頬を羞恥に染め一生懸命隠すその姿を。どうだい?萌えないかい?萌えるだろ!


 俺はこの事を思いついた刹那、直ちに実行に移そうとした。だがしかし、ここで問題が発生する。俺には世の主人公が持っている、特殊能力ともいえる主人公補正がないことだ。そう、俺は主人公になれないのだ。主人公として最も大切なものとは何か?それすなわち『ラッキースケベ』だ。

 いろいろな物語の主人公は『特殊能力(ラッキースケベ)』を持っている。なので、彼らは突然の雨でヒロインと雨宿りや、木の枝が引っ掛かり服が良い感じに破れる、などの様々なイベントでこの光景を拝める。

 

 だが、俺は……いや、我々はヒロインとそんな嬉し恥ずかしイベントなど起きないのだよ。これが現実だ。

 ならばどうする?諦めるのか?

 否だ!断じて否だ!

 神が我らに与えないのであらば、自ら掴みとるしかないのだよ!


 とまぁ、長くなってしまったが、これで俺の攻撃の意味が分かっていただけだろうか?奴が単純過ぎて、準備していた罠が意味をなさなかったが、全てはこれを見る為の統制された攻撃なのだ。


 では、皆のもの楽しもうではないか!







「ふはははっ!小娘よ!いい格好だな?ふーっはっはっはっはー!」

「くうぅぅ」


 俺は先程やりたかった『魔王のポーズ』をやりながら、笑う。嘲笑う。

 パラスの服は≪風刃(ウィンドカッター)≫によりいい具合に切り裂かれ、鎧は≪酸水(アッシド・ヴァッサー)≫により溶かされ、そして、濡れた服がひっつきスタイルのいい体がなんとも扇情的だ。そして、何より恥ずかしそうにしている表情が素晴らしい。


 これだ。俺が2カ月の間求めていた、夢に見た光景が今ここにある。


 時刻は夕方から夜になり空は闇に染まる。だが、俺に『じっくり見てもええんやで』と言わんばかりに、星が月が、俺たちを照らしている。これは神が我に与えたもうた奇跡だ。


 そして、俺は両手を天に掲げ高らかに宣言する。


「復讐は……復讐は今なされたのだー!!」


 こうして、俺の魂の叫びが夜の裏路地に響き渡った。







 そういえば、クロは大丈夫かな?って、俺より強いし問題ないよね?





 着エロとは、「脱いでないからヌードじゃないんですよ、着衣なんですよ」と言い張っているエロである。

 ニコニコ大百科より抜粋

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